第12話 新拠点/シェアハウス
ばあちゃんを亡くし、僕は一人になったわけだ。
一人暮らしをするには、中学生の僕は色々と問題がある。
施設に戻るのが普通なのだろうけど、それは新たな引き取り先が見つからなかった場合だ。
「仕事をするにも、秘密保持にしても、赤坂くんの右手のことに関しても、傍にいてくれた方が面倒を見やすいですから。
もちろん、強制ではありませんし、仮に施設を選んだとしても放り投げることはしません。
業界を知ってしまった以上は、政府もあなたを見逃すはずありませんしね」
見逃さない、ね。
「……なんだか不穏に聞こえますね」
「口封じで殺される、とか思っていますか? 映画の見過ぎですよ。
たぶん、施設とは言っても赤坂くんが元いた施設とは限りません。
デミチャイルドを集めた施設、もしくは魔法少女や怪人役を現役でこなしている子たちの寮に入っていただくことになるでしょう」
寮、か。じゃあここに引き取られた場合は、一つ上の階の……。
「あ、あの!」
「はい?」
「引き取ってもらうことは、構わないというか、ありがたいというか……そうなると、僕は上の階で過ごすことになるんでしょうか……?」
マネージャーさんが、「ふうん?」と笑みを浮かべ、
「もちろん、さらんとは別の部屋よ?
なあに? もしかしていやらしいことでも期待していたのかな、男の子」
「うっ……いえ、そんなことは……」
期待、していなかったと言えば嘘になるけど、でも、仮に一緒の部屋で過ごすことになれば、たぶん僕の方がもたない。ドキドキでパンクすると思う……。
あと、ばあちゃん以上に甘えてしまう自信がある。
マネージャーさんが思っているようなことにはきっとならないだろうと言えた。
「まあ、壁一枚隔てた隣合った部屋ではあるけどね。
さらんもそのへんは注意するようにね。仮に襲われても、あなたなら撃退できるでしょう?」
「そうだね、でも、レイジはそんなことしないよ」
ね? とアイコンタクト。もちろん、はい、と答える。
本人直々に釘を刺された。信頼を裏切るなよ、と言われた気分だ。
間違っても、さらんさんにそういうことはできない。
「なら、上の寮に引っ越す、ということで。
荷物などはまとめておいてくれれば、後日、使いを出して取りにいくわ。
でも、あまり多くの荷物は入らないだろうから……三つほどの家具と旅行カバンに入るくらいの荷物にまとめてもらえると助かるわ」
持っていくもの……買い足せばいいものを除けば、あまり持っていくものはない。
ばあちゃんとの思い出の品を言い出したらきりがないため……それこそあの家ごと全部ということになる。だから常日頃から持ち運べるようなものを一つか二つだけ……。
「それじゃあ、まだ時間がありますが……九時を過ぎたらいきましょうか」
「あ……、学校、ですか?」
右手のことがあるけど、いつまでも欠席のままではいられない。
「それもありますけどね。それについてはまた今度。今日は病院ですよ」
「病院……? でも、どうして……」
「どうしてもなにも、私たちが赤坂くんを引き取ったのですから、保護者は私です」
昨日、頭に浮かんだのはさらんさんだったけど、さすがに保護者としては責任が重過ぎると今更ながらに気付いた。その点、大人のマネージャーさんなら、信頼できる。
「大人と言っても、まだ二十一ですから、大学生と変わりませんよ」
「………………へー」
「今、老けて見える、と思いませんでした?」
高速で首を左右に振る。
それを見て、マネージャーさんが力なく笑った。
「…………苦労してるんですよ……はぁ」
保護者としての手続きを、マネージャーさんが全て終えた後、
僕は家に戻って荷造りを始めた。
旅行カバンに収まるくらいの荷物を詰める……学校の教科書などは入らなかったが、家具と一緒に持っていってくれるらしい。
今の学校から転校、ということになった。
クラスメイトには、親が亡くなり、親戚に引き取られた影響で転校すると伝わっているため、根掘り葉掘り聞いてくるメッセージはこなかった。
落ち着いたらまた会おう、とスマホでメッセージを残し、簡単な別れを告げておく。
右手がこれだと、次にいつ会えるかは分からないし、約束はできない。
新しい学校は、魔法少女と怪人役が集まる専門の学校だ。
仕事優先なので出席に融通が利く学校とのことで、マネージャーさんが推薦してくれた。
通う生徒の全員が亜人の血を引くデミチャイルドということで居心地が良いだろうと気を遣ってくれたのだろうけど、やっぱりまだ少し、抵抗がある。
確たる証拠があるわけではないが、それでも認めざるを得ない自分の血統……。
生まれはそうでも、しかし育ちは人間なのだ。……簡単に忌避感は取れない。
旅行カバンを持ち(自分の血を認めざるを得ない理由として、重いはずの荷物を軽々と持ち上げられるほどの筋力がついていた)、事務所に向かう。非常階段で五階まで。
「案内するよ、レイジ」
事務所内で待ってくれていたさらんさんと一緒に、さらに上の階の寮へ向かう。
「そう言えば、さらんさんの学校は、仕事の融通が利くんですか……?」
「私の場合は認めてくれているよ。人気があるからこそ、かもしれないけどね。
ちなみにまさきもきらなも、人間と混ざった一般的な学校さ。レイジと違って私たちには家族がいて家もあるからね、政府が用意した学校に通う必要がないだけさ。
望めば、レイジも普通の学校にも通えるけど……その右手だと難しいと思うよ」
やっぱり、この右手がネックになってしまう。
「君が気にしないのであれば、一般的な学校にも通えるけどね。
でも、無理はしない方がいい。焦って、今すぐ解決をしようとすれば失敗をするかもしれない……そうならないためにも、私たちが君の体を元に戻す。
だからそれまで、待っていてくれないかな?」
「はい。信じていますから」
「ありがとう」
六階の寮、さらんさんの部屋の隣。
扉を開けると、狭い部屋だが人が住める個室だ。
「元々、複数人が個別で生活できる構造にはなっていなくてね……トイレや洗面台、シャワーは私の部屋にあるから、自由に使ってくれて構わないよ。
キッチンは事務所を使って……エアコンがないから、扇風機でがまんしてくれるかい?
居心地が悪かったり、気温でとてもこの部屋にいられないと思ったら遠慮なく私の部屋にきていいから」
「これって……シェアハウスっていう……?」
「とも言えるね。実際は、私が一部屋を使って、レイジに隣の倉庫を貸しているだけなんだけどね……だから私の部屋に設備が集中してしまっているんだ。
寮、と言っているけど、便宜上そう呼んでいるだけで、元々複数人が住むことを想定したわけではないんだ」
そうだろう。
二部屋あるように見えて、明らかに僕の方の部屋になにもなさ過ぎる。
小窓が手の届かない位置にある。
幸い、部屋の隅にコンセントがあるので助かった。
「……嫌なら、今更だけど別の場所に変えてもいいよ。
さとみに頼めば、多少面倒だろうけどこれも仕事だし、愚痴を言いつつも責任を持ってやってくれるだろうから、迷惑になるだろうなんて考えずになんでも注文してくれて構わない。
これから君は、うちの稼ぎ頭になってもらうんだからね、要求してもいいことだ」
「はい……でも、遠慮とかではなくて、この部屋で充分です。この部屋がいいですっ」
「そ、そうかい? そういうことなら……、これからよろしく、レイジ」
差し出された手を握る。さらんさんは僕のために、左手を出してくれた。
「早速なんですけど……」
「うん? いいよ、なんでも相談してくれて構わない」
「荷物を運ぶのに汗をかいてしまって……シャワーを貸してもらっていいですか?」
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