二つ目の誕生日(ホラー)
私には二つの誕生日がある。
一つは、私が産まれた日。お母さんのお腹から生まれた日。俗に言う誕生日。もう一つは、偽の誕生日。
そんな私にもある秘密がある。アイドルは女優やタレントよりも狂気的なファンが多い。まだブレイクしていない頃、先輩から聞いた話だと特に誕生日がすごいらしい。ここぞとばかりにあとを追って、少しでも男と話すと掲示板に誹謗中傷を書き込まれるらしいのだ。
誕生日にカメラに追われる、それだけは避けたかった。本当の誕生日くらいカメラを気にせずに楽しみたい。そう思った私は、誕生日を偽った。本当の誕生日はマネージャーと家族と彼氏しか知らない。当然プレゼントは偽の誕生日に来る。ファンも偽の誕生日に尾行してくる。でもいつも通りテレビ局に行って、そのまま家に帰るので、『誕生日も家に直帰するファン思いなボッチ系アイドル』なんて肩書きがついた。バカみたい。彼氏いるのに。
今日はその彼氏とディナーに行く。そう、本当の誕生日だ。彼氏は学生時代からの知り合いで、すごく信頼出来る。顔もかっこいい。ああ、誕生日を彼氏と家族だけに祝ってもらえるなんて幸せ。ファンは…
ファンは気持ち悪くて正直好きではない。というか嫌いだ。キモイ。なんか狂気的なのだ。もし誕生日に男と話そうもんなら殺されるかもしれない。
玄関の外を覗く。今日は誰も見てない。出るなら今だ。
「ごめ〜ん、おくれちゃった」
帽子にサングラス、マスク、カツラ。絶対にバレない。むしろやりすぎていて浮いている気がするが、芸能人だとは思われても『君津 聖子』だと思われなきゃそれでいい。
「いいよいいよ、少ししか待ってないし」
今日も私の彼氏は優しい。
「今日は大事な話があってレストランを貸し
切ったんだよ。今から行こう」
「ほんと!?嬉しい!」
思わず声のトーンが上がった。二人で道を歩ける。今すごく充実してる。私ってすごく頭がいいと思う。誕生日を偽ればお金も彼氏も手に入って両方に充実した生活が送れる。他の芸能人もこうしたらいいのに。ま、馬鹿だってことね。こんな素晴らしいこと思いつかないなんて。
「ここだよ、きっとビックリするよ〜、目瞑
ってて。あ、そうだ!貸し切りだから変装
外してよ。せっかくのデートなのに顔が見
られないなんて寂しいーー!」
「え、なんで目まで瞑るの?しょうがないな
ぁ〜」
つけていた変装グッズを外してかばんにしまい、目を瞑る。
ーーーん?
暖房の風が頬に触れる。もう店の中にはいるはずだ。なのに、、、
周りがざわざわしている気がする。嫌な予感が頭を巡る。いや、まさかね。
「ねえ、」
彼は、返事の代わりに
「こいつは清純派で売っているけどそんなの嘘さ。俺はこいつの彼氏だ。こいつが
ナンパしてきたんだぜ?本当はファンを裏切る最低なクソビッチなんだよこいつ
は!!」
と
状況が理解できない。ふと後ろを見ると『清純派アイドル聖子ちゃんファン会』という看板が掲げてある。
これで私のアイドル人生は終わりか。
私は何故かすごく冷静だった。別にもう働かなくても暮らせるお金はある。干されても問題ない。
一人のファンがこう言った。
「こんなやつ干しちまえ」
勝手にすればいい。干されてもお金には困らない。
その時だった。その男が急にステーキナイフを持ってこっちに向かってきた。
え?え?
「物理的になあぁ!!」
助けて!嫌だ、
「ごめんなさい!助けて!誰か助けて!」
ファンは誰一人として立ち上がろうとしなかった。
体から何か熱いものが流れ出ていく。
体に力が入らない。寒い。誰か、、、
最期に見たのは彼の満足気な笑みだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます