第151話 情報収集

 こいつらのいうところの上の組織――昨夜解体した悪の組織に複数ある下部団体のひとつに所属している連中だった。


 裕福そうな外国人、それも多数の女性を引き連れている。護衛は若く未熟そうな連中ばかり。

 こいつらにしたらカモでしかない。


 こいつらには俺たち一行が上等なカモに映ったそうだ。

 聞けば、外国人の場合、行方不明になっても十分な調査がされることが少ない。希に徹底的に調査をされて酷い目に遭うこともあるそうだが、概してみると外国人の誘拐は割が良いビジネスだそうだ。

 

 巧妙なところは、貴族の誘拐は徹底的な調査に繋がる可能性があるので避け、同行している侍女や女性の護衛をターゲットにする。

 行方不明になったとはいえ、所詮は侍女や護衛なので雇い主である外国の貴族も大騒ぎはしない。

 何よりも外国ということもあり、十分な調査が出来ずに諦めてしまうことの方が多いそうだ。

 意外と知恵を絞っていることに驚かされた。


 とりあえず、こいつらの話を信じるなら組織だってラウラ姫の誘拐や殺害を計画していないことは分かった。

 不心得者たちが独自の判断で動いているので今後もチマチマと面倒に遭遇しそうではあるが。

 一応、皆に注意をうながしておく必要があるな。


 約束通り、一名を除いて全員の治癒を行った。

 きり飛ばした右腕も接合したし、内臓や腰椎損傷も治癒をした。ただし、チンピラとはいえ、自分たちの仲間の命を軽視したヤツだけは声帯と左腕の治療もほどほどにした。

 結果としては、声帯も左腕も機能不全――声帯も声を出せない状態で、左腕に至っては切断部分の止血をしただけなので左腕はもとに戻していない。


「さて、身体のほうも完治して落ち着いたところで、もう少しだけ教えて欲しいんだが時間は大丈夫か?」


 俺たちのことを監視していたくらいだから、この後の予定などないとは思うが、念のため彼らの予定を気遣う俺に対して即座に揃って首肯をした。

 ひとりだけ、泣きながらうめいているのが気に食わないが、これなら真摯に対応してくれそうだ。


「さらった女性を奴隷にすると言っていたが、どこの奴隷商が裏で協力をしているんだ?」


 短剣を突き出し、ゆっくりと全員の目の前を通過させる。


 自分の目の前を短剣が通過する際に、目を逸らす者、凝視する者とさまざまだが、直立不動で怯えた表情を浮かべるのだけは変わらない。

 俺がこの状況で悪戯に相手を傷つけるとでも思っているのか?

 或いは、自分たちはそうやって悪戯に相手を傷つけていたから怯えているのか? まあ、後者だろうな。


 そんなことよりも問題は奴隷商人のほうだな。

 奴隷を取り扱う商人は他の商売と兼業であっても領主の管轄にあり、奴隷を取り扱わない商人たちよりも厳重に管理をされている。

 それこそ不当な奴隷の売買をしようものなら、一発で自身が犯罪奴隷となるくらいに厳しい。


 もし、不当な奴隷の売買が横行しているとなると領主が見逃しているか裏で糸を引いている可能性もでてくる。当然、騎士団も手先と考えてよいだろう。

 そうなれば騎士団に対しての警戒レベルを引き上げなければならない。


「ギリスさんっていう行商人です」


「ドーラ公国に籍を置く行商人で、だいたい一ヶ月に一度くらいの割合でこの都市にも来るんです。その隊商のなかにバーリーって闇魔法の魔術師がいて、そいつに売るんでさあ」


「それまでは上の組織が経営する酒場や賭場の地下室に閉じ込めておくんです」


 なるほど、昨夜助け出した女性たちはそういった類の被害者か。


「外国人だけでなく、近隣の村やスラムの人たちもさらったりしていないか?」


「はい、たまに小遣い稼ぎにスラムのヤツらをさらうこともあります」


「村を襲うのは上の組織の人たちや盗賊です。俺たちはそこまでひどいことはしません」


「次にそのギリスとバーリーがくるのはいつ頃になる?」


「そろそろなんで、二日か三日のうちにはくるはずです。なんで、俺たちも焦っちゃって……」


 そいつらが来る頃には悪の組織が壊滅したのが広まるな。

 オーガよりもそいつらのほうが胸糞悪いな。


 まあ、必要な情報としてはこんなところか。あとはナンバー3のチンピラグループからも情報の補完をする必要があるな。


 さて、俺もそろそろ戻るか。念のため武具店へと視界を飛ばす。


 ボギーさんのほうは特に争うこともなく話し合いだけで事足りたようだ。

 既に武具店の二階に戻って、会計を済ませた商品の受け取りをしている最中だった。ロビンは先行して三階へ上がっている。


 ラウラ姫たちと黒アリスちゃん、アイリスの娘とその奴隷たちも三階での買い物を済ませて、二階で武器を選んでいる真っ最中だ。

 防具選びのように試着がない分、早く済みそうだな。


 さて、俺も戻るか。


「ありがとう。助かったよ。また何かあったら教えてくれ」


 俺はそう言い、連絡先として自分たちの泊まっている宿屋の隣にある宿屋と、「ライト・スタッフ」の偽名を書いたメモ、金貨五枚――日本円にして五百万円相当を渡し、即座に転移をした。


 ◇

 ◆

 ◇


「――――なので、今後もチンピラやゴロツキが仕掛けてくる可能性はありますね。そちらはどうでしたか?」


 二階の大剣がならぶ一角で先ほどの出来事と入手した情報をボギーさんに伝えた。


「こっちは予想通りだ。騎士団の下っ端だったよ。姫さんの身元も知らされずに「リューブラント侯爵領の要人」として警護の命令を受けてたそうだ」


 ボギーさんが話の途中で階段の左手前を俺の右肩越しに視線をむけた。


 俺もつられてそちらを振り返ると、姿見の前でレイピアを手にしているラウラ姫が映る。


 ラウラ姫は短めのレイピアと小さめのラウンドシールドを左腕に装着し、レイピアを右手に持って構えを取っていた。

 その傍らでは、セルマさんとローゼがタワーシールドと短剣を手にしている。どうやら、セルマさんとローゼは防御に重点をおいて、ラウラ姫の盾役となるつもりのようだ。


「そうですか。火種でなかっただけ良しとしましょう。それと先ほどの続きですが、ダンジョン攻略はともかくオーガ討伐よりも違法奴隷商を叩いておきたいのですがどうでしょう?」


「賛成だ。リューブラント侯爵とこの都市に恩が売れる。終戦後のダンジョン攻略でも無理を言えるんじゃネェのか? まあ、おまけみたいなもんだ」


 ボギーさんが俺の相談に小気味良く即答をしてくれた。その直ぐ後で、「期待をするんじゃネェぞ」とひと言残し三階へ続く階段へ歩き出す。


 三階へと続く階段を上りだしたボギーさんの背中から、楽しそうに武器を選んでいる女性陣へと意識を傾ける。


 アイリスのメンバーも奴隷を含めて全員が、これまでの武器を手入れに出して新しい武器を購入するようだ。

 これまでロングソードを主力武器としてきたライラさんと二名の奴隷が、刃幅の広い殺傷力の高そうな大剣や大型の戦斧を購入していた。主力武器を変更するつもりのようだ。


 ここまでの道中、わりと大型で重量のある魔物との戦闘でアイリスは苦戦をしていた。そのためだろう、戦闘スタイルの変更を試みるつもりのようだ。

 大型の魔物を相手にすることを考えると、大剣や戦斧などの大型で重量のある武器は有効だ。


 俺たちと同行できる今のうちに試しておくつもりか。

 他のメンバーが手に取っている武器や防具を改めて注意してみると、これまでのスピード重視の戦闘スタイルから、遊撃による一撃の破壊力と槍と盾を中心としたフォーメーションを組むスタイルに変えるように見える。


 もしそうならかなり思い切ったスタイル変更だ。

 ここ最近は俺たちの日課となっている近接戦闘の訓練に触発されて、戦闘スタイルの試行錯誤をしていたが、とうとう実戦で試してみる気のようだ。


 ひるがえって俺たちだ。


 俺たちの戦闘スタイルに変わりはない。敵の射程外からの遠隔魔法攻撃と転移魔法で高速移動をしながらの遠隔魔法攻撃及び近接戦闘となる。

 安定の戦法である。


 これに最近は武器による物理攻撃を加えるべく努力を続けている。実際に地道に練習して、レベルは低いがスキルを取得している。

 俺たちの場合、それぞれが趣味や興味本位で接近戦の練習をしているので、取得するスキルも計画性や統一性がない。はっきり言って接近戦でフォーメーションを組んで連携するとか無理がありすぎる。


 ボギーさんも先ほどは投擲用のナイフとバスタードソードを購入していた。ロビンは確かレイピアとバックラーを購入していた。

 黒アリスちゃんに至っては、鎖鎌くさりがまとナックルダスターだ。


 ロビンは良いとしても、ボギーさんにしろ黒アリスちゃんにしろ普段の練習からも防御に対して無頓着すぎる。

 闇魔法が使える魔術師ってのは防御がおろそかにしなければいけないとかの決まりでもあるんじゃなかろうか。


 近接戦闘の練習を思い出しながら、もの思いにふけっていると俺の横を黒アリスちゃんが歩いていった。

 手には鎖鎌くさりがまとナックルダスターを持っていた。


 およそ黒アリスちゃんの所持魔法や戦闘スタイルとかけ離れている。

 まあ、あの大鎌をダンジョン内で振り回されるよりはマシか。


 明日のダンジョン・アタック、全員が趣味の武器を思い思いに振り回したりしないだろうな?

 一抹の不安が胸をよぎった。

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