第128話 罠と攻略(1)
時間軸が少しだけ戻ります。
女神さまに怒られる原因となったダンジョン破壊? 攻略?
目の前には通路のように真っすぐに伸びた空間がある。
トールの町にあった「北の迷宮」と
俺と白アリ、黒アリスちゃん、テリー、聖女、ロビン、ボギーさん、メロディ、ティナ、ローザリア。そして、マリエルとレーナは廃村近くにあったダンジョンへ来ている。
目的はこのダンジョンを利用して、謎の武装集団用の罠――落とし穴が作れないかどうかの下見を兼ねてのダンジョン攻略だ。
何しろ、白アリと黒アリスちゃん、テリーはダンジョンへ潜ったことがないそうだ。
ここが初めてのダンジョンとなる。
ダンジョンに潜った途端、周囲をキョロキョロと見回しながら、「外は炎天下なのに涼しいわ、やっぱり地下って温度が一定なのね。居住環境としては優れてるんじゃないの?」「
ちなみに、初ダンジョンはこの三人だけではない。メロディとティナ、ローザリアもそうである。
噂では弱小ダンジョンとなっているが、そこはやはりダンジョンだ。ラウラ姫一行を連れてくるわけにはいかない。
ラウラ姫一行と護衛役のアイリスの娘たちとミレイユは拠点で留守番をしてもらっている。
そして、ダンジョン探索は、戦闘力と機動力からのメンバー選択となった。
戦争でダンジョン攻略が滞っているけど、罠の下見を兼ねてとはいえダンジョン攻略をしてるんだ、女神さまも喜んでくれるだろう。
女神さまの喜ぶ顔を想像して、つい、にやけてしまう。
通路の幅は視認できる範囲で、およそ十メートルといったところか。天井までの高さは四メートルから五メートル。
真っすぐに伸びた通路の先は、暗くてどうなっているかは分からない。
「マリエル、この通路の先はどうなっている?」
索敵をサボって、上空でレーナと一緒にクッキーを抱きかかえて、意味不明なダンスを踊っているマリエルに、通路の先を確認するようにうながす。
「はーい」
小気味良い返事とともに、ダンスを中断して俺のほうへと飛んでくると、そのまま通路へと向きなおった。
抱えたクッキーをカリカリとかじりながら通路の奥、暗闇の中を凝視している。
「どうだ? 何かあるか?」
「んー、何にもないよー。三百メートルくらい真っすぐ伸びて、そこで右に曲がってる」
マリエルが、口の周りにクッキーの食べカスを沢山つけたまま得意げに言う。
「そうか、ありがとう。助かるよ」
俺自身の空間感知で得た情報と同じであることに満足して、マリエルにお礼を言い、蜂蜜の入った小さな壷を渡した。
食べかけのクッキーを俺に押し付けると、蜂蜜の入った壷を奪うようにして抱え込む。
それを見ていたレーナが、テリーの方へともの凄いスピードで飛んでいくのが見えた。そこから先は容易に想像がつくな。早速、食べかけのクッキーをテリーに押し付けて、蜂蜜をねだるのだろう。
ここまで降りてくる間、強敵とも出会わず、危なげなく来ているので気が緩んでいるのだろう。気持ちは分かる。
気が緩んでいるのはマリエルとレーナだけじゃない。
そろそろ昼食の時間だというのもあるのかもしれないが、先ほどから間食をしながら、ダンジョン内を歩いている。
その両手には武器も防具もない。
あるのはクッキーや果物、そして飲み物だ。
そう、俺を含めた全員がそんな有様である。
唯一、白アリだけが例の銀色の球体を周囲に展開しているのと、左手にはフライパンを持っている。
いや、フライパンも武器と数えるなら、聖女も中華鍋を持っているし、メロディも左手でティナと一緒に鍋をもち、右手にお玉を持っている。
何れにしても、ベックさんあたりが一緒だったら、指導という名の説教が始まっているところだ。
ボギーさんとテリーに至っては、今しがた、白アリが調理した山鳥のもも肉にかぶりついている。
正直、二人が羨ましい。俺も早いところ食事にありつきたい。
「はい、できたわよ」
「ありがとう」
白アリが皿に取り分けて差し出してくれた肉野菜炒めを受け取る。
うん、
「少し野菜も欲しいな。白の嬢ちゃん、俺にも少し頼む」
「野菜スープでよろしければ、こちらにあります」
ボギーさんのリクエストに、メロディがティナと二人で運んでいる鍋を差す。
「おう、良いね。それをもらおうか」
ボギーさんが満面の笑みでメロディの差し出した御碗を受け取る。
視線をボギーさんから白アリへと移す。
左手に持ったフライパンの上には牛肉が乗っている。今度はステーキか。手元と足元を光魔法の光球で照らし、火魔法を使ってフライパンで調理をしながら、ダンジョンを進んでいる。
視線を聖女へ移す。
まあ、白アリと似たような事をしている。
二人とも、器用といえば器用だ。
魔法の杖を一振りして食事が出てくるのには遠く及ばないが、工夫さえすれば大概のことができてしまう。本当に魔法ってのは便利なものだな。
「前の曲がり角、オークが三匹、ううん、四匹になった」
感心なことに、蜂蜜をなめながらもちゃんと索敵を続けていたマリエルが、突然声を上げる。
次の瞬間、俺の小石の弾丸とテリーの水の刃、ロビンの風の刃が四匹のオークをとらえた。
俺たち三人が放った攻撃魔法が、四匹のオークをオーバーキル状態で仕留める。
食事中にあのオークのところまで行きたくないな。
その思いは全員一緒だったようで、急に歩く速度が遅くなる。
横を見るとローザリアがステーキを一口大に切り分けている。
左手にステーキの載った皿を持ち、右手に持ったナイフで器用に切り分けている。切り分けた一口大のステーキをフォークで刺し、それを黒アリスちゃんの口へと運ぶ。
なるほど、黒アリスちゃんの両手はふさがっているものな。
テリーの指示だろうか?
さすがイケメン、よく気が付く。
この中で唯一探索者らしい装備なのは、黒アリスちゃんだけだ。
紙とペンを持ってマッピングをしている。
「小さなダンジョンだって聞いていたけど、下層もある程度まで来ると、意外と広いのね」
白アリが、フライパンに乗った牛肉をひっくり返し、ダンジョンの天井を見上げながら誰とはなしにつぶやいた。
「この上はあの廃村の真下辺りですね」
その隣でマッピング担当の黒アリスちゃんが、同じように天井を見上げる。
「ダンジョンの上にある森を整地して広場にするのもそうだが、この分だと廃村もそのまま罠に使えそうだな」
黒アリスちゃんが広げているマッピング中の用紙を確認し、罠の拡大をイメージしなおす。
「このダンジョン、雰囲気とか出てくる魔物とかが、あちら側の異世界で攻略に成功したダンジョンに似てませんか?」
真っすぐに長く延びた通路の視界を確保するために、聖女が、光量を上げた光球をゆっくりと前方へと撃ち出す。左手には魚の切り身が乗った中華なべを持ったままだ。
「ん? そうだな。確かにこんな感じだったな。上層階がやたらと狭くて、ある程度の下層以下は急に広くなる。だが、出てくる魔物は弱いままだったな」
ボギーさんがゆっくりと進む光球に照らし出された通路を警戒するように凝視した状態で返事をした。
左手に野菜スープの入った御碗、右手に山鳥の腿肉を持ったままだ。
なるほど、弱いままなのか。
確かにトールの町にあったダンジョンと比べても、出てくる魔物が弱すぎる。十層まで降りても、トールの町のダンジョンに出てくる三階層か四階層程度の魔物だ。
それに、一撃が強力なヤツも今のところ出てきていない。
「予定通り、罠として使えそうだな」
そう言い終えると、野菜など一口も食べていないテリーがステーキを口に運ぶ。
それを見ていたティナが、無言で野菜の載った皿をテリーに渡す。一瞬だが、テリーが表情を強ばらせたのが見えた。
「じゃあ、いったん戻ってゆっくりと食事を済ませてから、一階層目から行くかっ!」
メロディから白アリの作ったステーキを受け取りながら皆に向かって地上への一時帰還を伝えた。
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