第39話 無断借用
ゴート男爵の陣を退出したあと集まった人たちを鑑定しまくり、ようやく目的にかなう場所を探し出す。
ゴート男爵の陣を
強度は気にしない。必要なのは視界を
主たる用途は
こんなことをすれば逆に目立ったり、不審に思われたりしそうなものだが、誰も何も言ってこない。
もちろん、探りを入れてくるものもいない。
先ほどの騒ぎが功を奏しているのだろう、完全放置である。
土の壁で周囲から隔絶された空間を用意し、早速、魔道具の作成に取り掛かる。
この壁の内側には俺と白アリ、黒アリスちゃん、テリー、マリエル、レーナ、そして、主役であるメロディしかいない。
作成担当はメロディだ。
俺たちは全員、魔道具作成のスキルを持っていないのだから、やむを得ない。
と言うか、最初からその目論みでメロディを購入しているのだ。
十メートルと離れていないところに、伯爵お抱えの高レベルの魔道具職人がいることも確認済みだ。
そして、この場には俺たちがいる。全ての魔法属性がレベル3以上で揃っている。いや、雷魔法以外はレベル4以上で揃っている。
土魔法 レベル5 黒アリスちゃん
水魔法 レベル5 テリー
火魔法 レベル5 白アリ
風魔法 レベル4 ミチナガ
光魔法 レベル5 ミチナガ
闇魔法 レベル5 黒アリスちゃん
雷魔法 レベル3 マリエル&レーナ
重力魔法 レベル5 ミチナガ
空間魔法 レベル4 ミチナガ
恐らく、メロディにとってこの伯爵領内でこれほどの恵まれた環境はないはずだ。
あらかじめ用意しておいた、バッグ、ポーチ、頭陀袋に、ハイビーの魔石を融合させて魔法特性を付与させれば良い。
この場合、空間魔法による容量拡大と重力魔法による重量軽減だ。
必要なものは全て揃った。
「先ずは簡単なものから行こうか」
「はい、ご主人様」
マジックポーチの作成をうながす俺の言葉に快活な返事が返ってくる。
事故の原因となった火魔法を使わないと言うところもポイントだろうか。
まぁ、それ以上に白アリの説得が功をそうしたのだろう。
いずれにしても本人がやる気になっているのがありがたい。
太い真っ赤な尻尾を思いっきり振っている。
残念だ。
尻尾を振ったら、
ミニスカートのお尻の部分にポケットのような穴があり、そこから真っ赤なふさふさの尻尾が出て来ている。
あれじゃあ、いくら尻尾を振ってもミニスカートは捲れない。
しかも、そのポケットのようになった穴からはスカートの中はうかがえない。
白アリが裁縫を得意だとは想定外だったよ。
「では、始めます」
メロディがポーチとハイビーの魔石を両手に取り、静かに見詰めながら意識を集中させる。
そして、錬成魔法の一つである融合と付与を並行発動させた。
融合と付与の並行発動、こんなことは経験豊かな錬成魔術師でもなければ出来ない。
メロディのように、王国内でも十指に入る錬成魔術師である彼女の祖父について、幼少のころから魔道具の作成に携わっていたからこそ可能なことだ。
そして、十メートル圏内には、やはり王国内でも十指に入る錬成魔術師がいる。その錬成魔法のレベルは4。恐らくはこのレベルも国内トップクラスだろう。
錬成魔術レベル4、存分に利用させてもらおうか。
「出来ましたっ!」
「よくやった、メロディ」
「成功ですね」
「やった」
「やったじゃないの」
メロディの嬉しそうな声に続いて、俺たちの間から歓声と感嘆の声があがる。
上空では周辺警戒中のマリエルとレーナが、何度も何度もハイタッチをしている。
どこで覚えたんだろう?
念のため、出来上がったマジックポーチを確認する。
全く問題はない。
俺たち四人は再び顔を見合わせて満面の笑みを浮かべる。
大成功じゃないか。
出来上がったマジックポーチはもちろん、特殊スキルである、無断借用の効果が実証された。
今回、メロディを購入することにしたキースキル、無断借用。
半径五十メートル以内のものが所有する特殊系以外のスキルを、まるで自身のスキルのように、自由に利用することが出来るスキルだ。
今回、この無断借用スキルを利用して、錬成魔法レベル4と空間魔法レベル4、そして重力魔法レベル5を使用しての成功である。
「凄いじゃないのっ! 無断借用っ!」
「チートってこう言うのをさすんですね」
「これって、能力だけで言ったらミチナガがもう一人いるようなものだろう?」
白アリ、黒アリスちゃん、テリーが先ほどとは別の意味で感嘆の声を上げる。
三人とも興奮気味だ。
魔道具の素材として用意した、ポーチ、バッグ、頭陀袋と今完成したばかりのマジックポーチ、そしてメロディに視線を行き来させている。
もしかして、売却益に思いを巡らせているのか?
メロディの無断借用を目の当たりにして、金勘定に走る辺りこの三人もブレないよなぁ。
確かに凄い。凄いと思って購入したが目の当たりにするとまた違うな。
単独での作戦行動はさせられないが、俺と組むなり有能な魔術師たちの中にいるなり、或いは半径五十メートル以内にいられるなら十二分に戦力となる。
さらに言えば、敵のスキルを利用することも可能だろう。
「メロディ、この調子で
「はいっ!」
俺の指示に満面の笑みで答える。返す返すもスカートが改造されているのが悔やまれる。
「ところでさ、さっきあんたが使った魔法、血液が急に燃え上がったように見えたけど何か特殊なスキルなの?」
白アリが次の作業に取り掛かるメロディから、俺へと視線を移しながら聞いてきた。
「それ、私も気になりました」
白アリの質問に黒アリスちゃんも反応する。
「あれは演出だよ、単なる演出。俺の血液が付着したところから燃え上がるとか、謎めいていて格好良いだろう?」
美少女二人に気にかけてもらえたのが嬉しくて、つい得意になってしまう。
「はぁ? バッカじゃないの?」
「格好良いです、素敵ですっ!」
あきれたような表情もあらわに思いっきりバカにする白アリと、目を輝かせて、憧れの存在を見るような目で見詰める黒アリスちゃん。
この違いは何なんだ。
「で、もう一つのは? 聖光で生きた人間を浄化したように見えたけど?」
俺のことを見詰め続ける黒アリスちゃんを放置状態で、白アリがさらに質問をしてきた。
ここは同じ過ちを繰り返してはいけない。話題がせっかくのとっておきなんだし効果的に話を組み立てよう。
「まぁ、あれも演出と言えば演出だ」
「はぁ? あんたの頭の中はどうなってんの?」
「いや、続きがあるんだ。最後まで聞いてくれ」
俺の切り出しにすかさず突っ込んでくる白アリをなだめつつ話を続ける。
「先ず、ターゲットを空間魔法と重力魔法の二重の障壁で囲い、熱や音が外に漏れないようにしてから蒼白い炎を伴った高熱で一気に消し炭に変える。このとき光魔法の浄化、聖光を並行して発動させた」
そこでいったん言葉を切り三人の反応を確かめる。
よしよし、驚いているな。
高度な魔法の技術と発想、そして一度に消費されるであろう魔力量の多さに、白アリと黒アリスちゃんはもとよりテリーも驚きを隠せずにいる。
「聖なる光で悪を滅する。まるで物語に出てくる光の勇者そのものだろう?」
キメ顔で三人に問いかける。
「あきれたわ、本当にバッカじゃないの?」
「やってることは凄いけど、発想は厨二だよな。よくもまぁ、そんな魔力の無駄遣いと言うか、非効率なことを考えつくな」
返って来たのは予想外の反応だ。
なぜだっ! なぜこの素晴らしさが理解できない。
先ほど同調してくれた黒アリスちゃんに至っては無言である。
あれ? 何だろう、目から水が……
「分かります。フジワラさんの気持ち、とってもよく分かります。それに、その発想と実際にやってみせる実力にシビレます」
一拍おいて、瞳を潤ませながら黒アリスちゃんが味方になってくれた。
居たっ! 俺の理解者がここに居たっ! 疑ってごめんよ。心の中で謝罪をする。
「ありがとう。黒アリスちゃん、君だけだよ」
罵声や
一瞬よぎった、精神年齢が一緒、と言うフレーズは即座に頭から追い出した。
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