第40話 魔道具作成
俺が涙しながら黒アリスちゃんの手を取り白アリとテリーからの冷たい言葉に耐えている間、メロディは
メロディの傍には、十個ほどの数のマジックポーチ、マジックバッグ、マジック頭陀袋が積みあがっている。
俺が黒アリスちゃんの手を握ったままメロディの方へ意識を向けるのとほぼ同時に、メロディが作成作業を一段落させてこちらへ向き直った。
魔力切れか?
メロディの様子を確認する。
表情に疲れは見えない。どうやら魔力切れのようだな。
「申し訳ございません、ひとつ失敗をしてしまいました」
その真っ赤な大きな耳と太い大きな尻尾までもが落胆をあらわにしている。
「失敗は気にするな。これだけ成功しているんだ上出来だよ。良くやったな」
メロディの頭をなでながら、出来るだけ優しく聞こえるよう心掛ける。
俺が頭をなでると垂れ下がっていた尻尾が緩やかに揺れだし、フニャリとしていた耳もピンとしてきた。
何よりも、その表情がわずかに怯えが混じった落胆したものから、安堵の色があらわれ褒められたことで喜んでいるのが分かる。
「本当、上出来よ。十二個作成して失敗は一つだけ。こんなの失敗のうちに入らないわよ」
テリーと二人で、出来上がった魔道具の確認をしていた白アリが上機嫌でメロディを褒める。
「出発までまだ時間があるし、もう少し頑張ってみるか?」
「あのう……その、魔力がもう……」
俺の言葉にもの凄く申し訳なさそうにしながら言いよどむ。
「ああ、すまない。魔力なら俺が譲渡する。魔力の心配はしなくとも大丈夫だ」
うつむくメロディの顔を両手で優しく包み、そのまま上を向かせ、真直ぐに見詰める。
光魔法で魔力の譲渡を行う。
俺の魔力がメロディへと流れ込んだ瞬間、ビクンッと小さく身を震わせ穏やかな表情に変わる。その後、魔力が流れ込んでいる間、終始穏やかな表情だった。
魔力を流し込まれるのって気持ち良いのだろうか?
「ありがとうございます。もう大丈夫です。作業を再開できます」
「そうか、良かった。じゃあ、続きを頼む」
明るい笑みを浮かべながら作業の再開を申し出るメロディに対して、改めて作業をお願いした。
そして、俺たちは粛々と作業を続けるメロディを横目に今後の相談である。
「これ、男爵のところに売りに行くのか?」
「伯爵のところの方が良いんじゃないですか?」
積みあがっていくマジックバッグ類を見ながらテリーと黒アリスちゃんが話す。
「まとめて持って行っても買い叩かれるだけじゃないのか?」
「じゃあ、道々、アイリスの娘たちに売ってもらいましょうよ。可愛い娘が売るんだからきっと売れるわよ」
特に代案を出すでもなく否定を口にする俺に対して、白アリがよそ様を従業員のように使う具体案を提示する。
「あ、それ、良いですね」
「賛成だ」
もめ事の切っ掛けになるんじゃないのか? と切り出す矢先に黒アリスちゃんとテリーが賛意を示す。
まぁ、ゴート男爵の第二騎士団全滅以後、警戒や取り締まりも厳しくなっているようだし大丈夫か。
たとえもめても、俺たちが出て行けば何とかなるだろうしな。
◇
結局、ゴート男爵と領主であるルウェリン伯爵へは、献上品兼サンプル品としてポーチ、バッグ、頭陀袋を各一点ずつ渡すことにした。
他はアイリスの女の子たちに販売をしてもらう。
報酬はマジックポーチ、バッグ、頭陀袋の中から欲しいものを一人一つずつ選んでもらう。
最も安価なマジックポーチの価格を考えても、報酬としては破格だ。
この話に喜ぶ彼女たちの顔を見たかったのだが、その役割は白アリと黒アリスちゃんが担う。
俺とテリーはマリエルとレーナを伴ってゴート男爵とルウェリン伯爵を訪ねることになった。
まぁ、妥当な役割分担なのかもしれないが釈然としない。
そんなことよりも問題の失敗作である。
メロディの言うところの失敗作は全部で二つ。二百五十個以上作成して二つか。もう少し高い確率で発生するかと思ったがな。
失敗作のうち一つは、中に入れたものがどこかへ消えてしまうと言うものだ。
正直なところ、使い道の想像がつかない。と言うか、危険極まりない気がする。いや、ゴミ箱としての使い道はあるか? いずれにしても、もう少し考える必要はあるな。
もう一つは、属性を持たせる前の純粋魔法で魔力を注ぎ続ける限り、水が溢れ出し続ける。しかもこれの凄いところは、本来の水属性の魔法で水を出すのに必要な魔力のおよそ半分で済むところだ。これがあれば行軍中の飲料水の心配はない。それどころか、干ばつ対策にもなりそうだ。
この二つの失敗作はメロディの持つもう一つの特殊スキル、変動誘発によるものだ。
一定確率で本来起こり得るはずの現象とは異なる現象や属性変化が発生する。
マイナスに振れれば失敗、プラスに振れれば大成功と、単純に受け取っていたが発生確率も含めてもっと実験をして見る必要があるな。
さて、男爵と伯爵へ献上品としてマジックポーチ、マジックバッグ、マジック頭陀袋を届けた後、テリーと二人でそのまま探索者ギルドへと向かう。
水の溢れでるバッグを売却するためだ。
しかし、マジックバッグ類の需要の高さと評価の高さを改めて知った。
ゴート男爵もルウェリン伯爵も予想以上に喜んでくれた。
そして、マジックバック類をまだ持っていることを
さすがにどちらか一方に全部を売却することもできない。
ある程度の個数を用意することを約束して退出をした。
そして、再び探索者ギルドの看板を目指す。
◇
探索者たちの手続きも一段落した様子のミランダさんに、ギルドマスターと人目に触れずに会話したい旨をお願いすると、簡易テントの中へ通された。
簡易テントと言ってもかなりの広さだ。
ゴート男爵やルウェリン伯爵のテントほどではないが、その半分程度、八畳ほどの広さのテントで中にはテーブルと椅子が四脚用意されていた。
明かりの魔道具で、十分な明るさもある。
「俺に話ってのは何だ?」
ギルドマスターが何やら不機嫌そうにこちらを見ている。
こちらが快活に
まぁ、疲れているところにアポもなしで突然訪ねてきたんだし、ここ素直に謝ろう。
「お疲れのところ突然の来訪、申し訳ございません。実は見ていただきたい魔道具があります。買い取りをして頂ければ、尚、嬉しいです」
言葉の後半は声をひそめるようにしながら、水が溢れ出るバッグをテーブルの上へ置いた。
「マジックバッグか?」
「実は先ほど、マジックバッグの作成をしていたのですが、偶然にこれが出来ました――――」
身を乗り出すようにして聞いてくるギルドマスターに、持ち込んだバッグが偶然で出来たことと、その能力について説明をする。
俺の説明を聞いているうちに、その顔が驚きに満ちてきた。
ミランダさんに至っては口をポカンと開け、目を大きく見開いたまま何も言えずに固まってしまった。
二人とも固まってしまってはどうしようもない。
テリーと二人顔を見合わせるが、何もできない。そして、動き出すのを待とうとする矢先、フェアリーがギルドマスターへ向かって降下してきた。
「おーい。大丈夫ですかー」
「ねぇ、ねぇ、何か言ってよう」
マリエルとレーナがギルドマスターの左右の耳を引っ張りながら話しかる。
良くやった、マリエル、レーナ。本来は止めるべきなのだろうが……良くやった。
テリーも同じ思いなのだろう。止める気配が全くない。
「お前ら、これをどうやって? いや、偶然か。本当だろうな?」
頭を振ってマリエルとレーナを引き剥がすと、絞り出すようにして聞いてきた。
「本当に偶然です。俺たちは魔道具職人としても優秀なんですよ。マジックバッグ類を百五十個ほど作成して一つだけ出来ました――」
ゴート騎士団ともめた後ゴート男爵と雇用契約し、その後に二時間程度の時間で作成したことを伝えた。
「早い、早すぎる。いくら四人がかりで作成したにしても驚異的な速度だ。いや、今はそんなことはどうでも良い。これのことは他で話したか?」
「いいえ、これの存在を知っているのは俺たちのパーティーメンバーだけです」
四人じゃなくてメロディ一人で作成したんだけどね。ってことは、メロディはもの凄く優秀と言うことだな。そんなことを思いながら答える。
作成の様子を思い返してみる。
最初こそ、一つずつ作っていたが、熟れてきたのか、二回目の魔力譲渡後は五個とか十個をまとめて作成したよな。
恐らくは、まとめて作成すること自体が普通じゃないのだろう。このことは秘密にしておいた方が良さそうだな。
「そうか、このことは誰にも言うな。作成の速度も含めてだ。その方がお前たちのためだ」
「はい、お気遣いいただきありがとうございます。そのようにします」
案の定である。
「本題だ。買い取りだったな。今、こいつに値段は付けられない。普通に考えて宝物庫に仕舞われて置くような品物だ。王都へ持ち込むよう指示する。ただ、戦時となるから輸送には普段よりも大きな危険が伴う。お前らの取り分は売却額の六割でどうだ。必要経費と税金はこちらの取り分から支払う」
ギルドマスターがまくし立てるように一気に言い切る。
「それでお願いします」
何となくボッタくられている気もするが、今回の作戦行動から帰還してすぐに現金を手にできる可能性の方を優先し、二つ返事で承知した。
「ところで、お前ら、ゴート男爵のところで契約したんだって?」
バッグを持ってミランダさんが退出すると、ギルドマスターが待っていたかのように切り出した。
「ええ、当初の思惑とはかなり違ってしまいました」
「女の子たちを助けるためには他に手段が思いつきませんでした。とても、穏便に済ませられるような感じでもありませんでしたしね」
俺とテリーが出された紅茶を口にしながら答える。
「まぁ、結果論だが、お前らの判断は間違っちゃいないよ。戦わなければ、女の子たちは無事じゃなかっただろう。そうなればパーティーは遠からず解散だ。いざって時に逃げ出すヤツとは誰もパーティーは組まねぇ」
ギルドマスターは俺たち二人を交互に見ながら、ニヤリと笑いさらに続けた。
「戦って、適当に痛めつけたところで意趣返しだ。まして、相手はゴート男爵のところの第二騎士団だ。犯罪者扱いでお前ら全員、奴隷落ちだっただろうな」
やっぱりそうなるよなぁ。 もしかして? とは思っていたけど。危ないところだった。
「で、何を考えてヤっちまったんだ?」
ギルドマスターが声をひそめて聞いてきた。
「事を構えるからには徹底的に。戦争前に大切な戦力を失えば勲功は望めない。そして目の前には失った以上の戦力がいる。糾弾したくとも損害が大きくなるだけですから、無視するか雇うしかないでしょう」
同じように声をひそめて答える。
「上出来だ。だが、恨みに思っている連中はいる。作戦中は背中に気をつけろよ」
拍子抜けするくらいに軽く言う。
「はい。ありがとうございました」
俺たちはお礼を述べるとテントを退出した。
周りを見ればほとんどが出発準備を終えている。
さて、俺たちも急いで男爵軍に合流しないとな。
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