第25話 夜の森
月明かりもほとんどない夜、森に少し入ったところ、夜の闇と木々が遮り遠目には誰も気付かない。
俺たち四人とマリエルは翌日を待たず、森へやって来た。
「明日も早いし、今日は実験ってことで良いな?」
予定通り数種類の魔物を地中に埋め、明日を待つ。そのことを再度確認する。
「ああ、そのつもりだ」
「ええ、ボロい商売になるかの確認だけでOKよ」
テリーからの短い了解の返事に続き、確信核心を突いた白アリの答えが返ってくる。
しかし、ボロい商売になるかは明日になってみないと分からない。
「私も、ちょっと試してみたいことがあるの、実験しても良いですか?」
黒アリスちゃんが右手を小さく挙げた。
「もちろんだ。って、どんな実験やるの?」
「私、土魔法だけじゃなくて闇魔法もレベル5なんですよ」
俺の肯定と質問に続き、説明を始めた。
「だから、私の闇魔法でアンデッド化させて、フジワラさんと白姉の光魔法での浄化のコンボとかどうでしょうか?」
レベル5が二つだって? いや、それは後回しにしよう。今は、即時アンデッド化出来るかもしれないと言う事実だ。
そして、即効性のある素晴らしい提案だ。成功すれば俺たちの生活水準、いや、探索方法が大きく変わる。
テリーと白アリに視線を向けると、二人とも同様に顔をほころばせながら顔を見合わせる。
三人が同時に小さくうなずいた。
「じゃあ、一種類ずつ確認して行きましょう、お願いしますね」
俺たちのうなずきを肯定と受け取ったのか、黒アリスちゃんが小さくガッツポーズをしながら言った。
となれば、次は早いところ獲物を探し出さないと。
「マリエル、周辺に何かいないか?」
上空で索敵中のマリエルに呼びかける。
近距離の索敵を俺とテリーの空間魔法による感知、遠距離をマリエルの夜目でカバーしている。
「うーん、今のところ何もいないよ」
「もう少し奥へ進みましょうか」
上空を旋回するマリエルからの報告を受けて、白アリがさらに奥へと分け入った。
◇
森を進みながら今後のスキル強化のプランニングをする。
オーガが所持していたスキル、身体強化レベル3と再生レベル1、どちらも欲しい。そして、アンデッド・オーガが所持していた再生レベル2、アンデッド化により、再生のレベルが上がっていた。理屈は分からない。しかし、アンデッド化により有用なスキルに変質する可能性は高い。
そして、ハイビーの所持スキル、空間魔法レベル4と重力魔法レベル5。弱小の魔物が持つスキルとは思えなかった……鑑定したとき目を疑った。
想像だが知性が低すぎて素質はあっても活用できていないのだろう。
ハイビーのときは黒アリスちゃんのお陰で、地面に転がる瀕死の獲物に接触できたのでスキルを奪えた。しかし、オーガとアンデッド・オーガは何もできなかった。
三人の目があるのでハイビーのときほど簡単にはいかないだろうが、何とか強奪できる隙を作り出さないとな。
さらに、魔石だ。ハイビーの魔石は小さ過ぎるためか、クズ魔石として回収しなかった。所持スキルを考えたら、もしかしてこちらも有効活用できるかもしれない。
「なぁ、ハイビーの死骸の方へ進んでみないか? ちょっと確かめたいことがある」
「確かめたいことって?」
「誰かハイビーの鑑定したやついるか? ――――」
ハイビーの所持スキルのこと、魔石の可能性について先ほどの考えを三人に伝える。
「なるほど、興味深いな」
「死骸が撒き餌代わりになっているかもしれないですしね、賛成です」
テリーと黒アリスちゃんが即座に賛成し、白アリが行動をうながす。
「行きましょう」
「オークとゴブリンがいるよ、どっちにする?」
白アリの号令から数歩進んだところで、マリエルから魔物確認の知らせが入る。
「数と場所は?」
「オークが前方五百メートルくらいで、三匹。ゴブリンが右の方に三百メートルくらいで、六匹だよ」
俺の質問にマリエルから即座に回答が返ってくる。
さすが期待の新人だけある、頼りになるな。
「派手な火炎系は使わずに近い方から順次片付けよう」
俺の言葉に全員がうなずき、一斉にゴブリンへ向けて走り出した。
ゴブリンを視認し、射程圏に入ると同時に鉄や岩の弾丸、風の刃と、思い思いの攻撃がゴブリンへ向けて放たれる。
悲鳴を上げる間も無く瞬殺である。やはり、魔法が強すぎる。何よりもマリエルの索敵能力が光る。
先に敵を発見し、遠距離から一方的に攻撃できる。
ゴブリンの全滅を確認し、オークへとターゲットを変える。
ターゲットがゴブリンからオークへ変わったところで、対処は何も変わらない。同様に敵の射程外から遠距離攻撃で瞬殺だった。
もはや、戦闘でもなんでもない。ゴブリンやオークにしても、自分が死んだことも気付かなかったのではないだろうか。
「じゃあ、行きますよ」
黒アリスちゃんがそんなオークの死体を見下ろしながら闇魔法を行使する。
オークの傷がみるみる癒えていく。
あれ? 光魔法じゃないよな、闇魔法だよな?
傷の癒えたオークは三匹ともひざまずき、黒アリスちゃんに頭を垂れる。
それを
「やったっ! 成功よっ!」
「成功だっ!」
「ああ、成功だな。これでボロ儲けできそうだ」
白アリ、テリーに続き俺も喜びの声を上げ、わずかに射す月明かりの下、三人のほくそ笑む顔が闇に浮かんだ。
黒アリスちゃんだけは自分の世界で俺たちとは違う喜びに浸っているようだ。
そっとしておこう。
「再生レベル1が新たに備わっている、予想通りだ。それに毒と毒耐性が新たに備わったやつもいる。新たに備わるスキルに何か法則でもあるのかな」
アンデッド・オークたちを次々と鑑定する。
「サンプルがもっと欲しいわね」
「黒アリスちゃんの闇魔法でアンデッド化が出来ることが分かったんだ、サンプルならすぐに増やせるさ」
白アリスの言葉に応えるように、光魔法を放ちながら言う。
よし、昼間のアンデッド・オーガと同様に光魔法で難なく浄化出来た。これなら浄化のタイミングでスキル強奪をしても大丈夫そうだな。
「しかし、贅沢な話だな。当初の予定では、何種類かの魔物を地中に埋めるだけだったのにね」
テリーの言葉に俺と白アリスが苦笑する。
「闇魔法でのアンデッド化の成功だけじゃなく、自分で創造したアンデッドは使役できることも確認できました」
よほど嬉しかったのだろう、黒アリスちゃんが先ほどの妖しい笑みとは違う、人を引き付けるような満面の笑みで言った。
「魔物を使役できるんだ、便利そうだね」
「そうですね、出来れば悪臭のしないアンデッドを護衛や給仕で身の回りに置きたいです。アリや蚊とかの小型の虫をアンデッド化できるなら偵察や伝書鳩代わりに使えそうですよね」
テリーの言葉に瞳を輝かせながら、もの凄く実用的な夢を語る。
「良いわね。魔物のテイムは魔力が多ければ、確か後から修得できたよね? あたしもペットが欲しいな。ドラゴンとかフェンリルとかいないかしら」
黒アリスちゃんのことを羨ましそうに見ながら、白アリが妄想を語りだした。
放っておくとどこまでも続きそうだ。切り上げるか。
「夢を語るのはそれくらいにして、ゴブリンの死体のところへ行こうか」
早いところ再生スキルを入手したい俺は皆を急かすようにして、先ほど倒したゴブリンの方へと歩き出し、続けてマリエルに指示を出す。
「マリエル、次の獲物を頼む。ガンガン行こうか。帰ったら蜂蜜をやるぞ」
「はーいっ! 蜂蜜ーっ」
返事なのか喜びの言葉なのか、よくわからない言葉を残して上空に広がる闇へと消えていった。
◇
「魔道具の作成って、確か後天的に獲得できるスキルだったよな?」
マントの上に広げられたアンデッド系の魔石を見ながら誰とはなしに問いかけた。
「属性魔法のどれかが使えれば取得できたハズですよ。私たちは全員が基本四属性を全て所有しているので優秀な魔道具職人も夢じゃないですね」
「生産職でのんびり過ごすのも悪くないな」
黒アリスちゃんの回答を受けて、テリーがまるでその気がないのが伝わってくる口調で言う。
「これ、幾らくらいになるのかしらね」
「ハイビーの魔石はともかく、他のはそれなりの価格になると思いますよ」
目を輝かせている白アリのつぶやきに、やはり瞳を輝かせながら黒アリスちゃんが答える。
「それをギルドで売るか、魔道具屋か鍛冶屋へ持ち込んで何か作ってもらうか、どうする?」
三人に視線を走らせながら聞く。
「一度に持ち込んで騒ぎになったりしませんか?」
「もう、十分に目立ってるし今更でしょう?」
黒アリスちゃんと白アリ、二人とも魔石から目を離さずに話している。
「一度に持ち込むと、騒ぎよりも価値が下がったりしないかな? 小出しでどうだろう?」
「小出しはどうだろうな。毎晩とは言わないがしばらく一日おき程度にこれを繰り返してたら、たちまちアンデッド系の魔石でアイテムボックスが溢れるな」
テリーの案に反対し、さらに言葉を続ける。
「取りあえずは、魔道具作成に必要な魔石は残して後は売ってしまおう。何をするにしても現金が手元にあるのは心強い」
「そうね、じゃあ、明日はって、もう日付変わってるわね。今日の日中は魔道具の作成と魔石の利用について話し合いましょう」
「周辺哨戒をしながらになるね」
白アリの言葉にテリーが
「休ませてもらいますか?」
「いや、無理だろう、それ。昨日の成果を考えたら絶対に戦力として引っ張っていかれる」
黒アリスちゃんの言葉に思わず突っ込んでしまった。そして、脳裏には貧相な容姿のユーグさんが浮かぶ。
「そうだな。明日は周辺哨戒が終わったら、アンデッド・オーガの角とこの魔石の山を持って魔道具屋と鍛冶屋へ行こうよ」
「賛成だ」
「いいわよ」
「そうですね、私も賛成です」
テリーの案に三人で賛成をし、道々、睡魔に襲われながらそれぞれの宿屋へと向かった。
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