第23話 新たな知識
何でいつもこうなんだろう。もの事、一つずつ解決して行けないものだろうか?
おのれの不幸体質を呪った話を聞いたことがあるが、人と言うのはそもそも不幸体質なのではないだろうか?
少なくとも、俺を含めてここにいる人たちはそうだと思う。
それだけじゃない、間抜けなオーガでも出てこないものかと、願った自分を軽く呪っている。
「白アリス、右側面からの集団を阻止してくれ」
「何度も何度も、変な呼び方をしないでって言ってるでしょうっ!」
まるで抗議の言葉でタイミングを計っているかのように、右側面からから迫るハイビーに向けて炎を吹き上げる。
不味いっ! 右後方からも迫っている。右側面の方が敵の数があったか。
「白アリっ! 右側後方からも集団だっ! 急げ!」
「悪化してるっ!」
俺の言葉に何やら不満爆発状態で炎の渦を右側後方へと発生させる。
白アリスの放った炎の渦に巻かれ、数百匹のハイビーが焼け落ち、周辺の木々が燃え上がる。
炎と煙に巻かれ、いろいろなものが飛び出してくる。探索者も飛び出してきているが見なかったことにしよう。
左側から迫るハイビーは黒アリスちゃんの土魔法と風魔法の複合魔法――大粒の砂嵐が迎え撃つ。
風にまかれ、まともに飛べない状態の中、その風に乗って無数の大粒の砂がハイビーを削る。木々の葉も多少削られているがご愛嬌の範囲だろう。
いずれにしても与えるダメージを見事に調整している。ハイビーの羽を削るギリギリの威力だ。羽を削られ飛べなくなった子ネコくらいの大きさの蜜蜂が無数に転がっている。
後方へ目を向ければテリーが水の壁を作り、ハイビーを水没させていた。なるほど、黒アリスちゃんのような威力の微妙な調整などしなくとも周辺への被害はかなり抑えられそうだ。
人それぞれ得意魔法はあるのだろうが、それ以上に性格が表れている気がしてならない。
再び自分の担当する前方へと視線を戻す。
中央部には数百匹のハイビーに襲われ、半狂乱のオーガが一体。気のせいだろうか涙を流しているように見える。
そして、そのオーガを包囲するようにして対峙する探索者たちにハイビーが襲い掛からないよう、結界と牽制の魔法を行使する。
風魔法の結界を維持しつつ、風の刃と小石の弾丸で高速で飛行するハイビーを狙撃する。
狙撃と言ってもピンポイントでの一撃必殺とは行かないな。
数発の弾丸をまとめて撃ちだし、どれかが当たる、と言うレベルか。最初に比べて多少精度が上がった程度だな。
そんな俺の攻撃に呼応するようにマリエルが風の刃を放っている。
先ほど紹介された九級の魔術師よりもマリエルの方が役に立ってないか?
周囲を包囲しているオーガ攻撃チームは弓矢や投槍、投石を中心に攻撃を繰り返している。
さすがにハイビーの群れに飛び込んでオーガに接近戦を挑もうと言う勇者はいない。
正直なところ、ハイビーが与えるダメージの方が大きいのではないだろうか。
ハイビーをあらかた
俺も足元に転がるハイビーにとどめを刺して回る。
タイプA、発動っ!
連続して発動させる。よしっ!
続いて、タイプB、発動っ!
よし、成功だ。
目的のスキルは手に入れた。これは間違いなく俺の新たな力となる。思わず顔がほころぶ。
しかし、本当に迷子になった間抜けなオーガがいたとはな。
右膝を砕かれ、身動きできない状態のまま、無数のハイビーに襲われて涙目のオーガを改めて見る。
時間の問題だな、動きが大分鈍ってきている。
しかし、蜂に刺されて死ぬなんてオーガも無念だろうな。
だが、こいつのしたことを思い返せば同情などもってのほかだ。
◇
「あれがハイビーの巣だ。周辺を警戒担当のヤツらが飛び回っているから気を付けろよ」
前方チームのリーダーが小高い丘を顎で指し示す。
でかいな。飛んでいる蜂も大きいが巣も大きい。
日本で言うスズメバチ程度の蜂の大きさと巣の大きさを想像していたが、遥かに大きい。
飛んでいる蜂は子ネコほどの大きさだろうか。もの凄く凶悪そうに見える。
巣に至っては塔だ。直径二十メートル、高さ十五メートルほどある。
「丘だと思ったのが巣だったのか」
テリーが呆然と巣を見つめながらつぶやいた。
「巣よりも蜂ですよ、アレに刺されたら痛いでしょうね」
「虫、虫ってだけで受け付けないわ」
「美味しそうー」
黒アリス、白アリス、マリエルと三者三様の反応を見せる。ちなみに、こちらの世界の女性が示す一般的な反応はマリエルの様なものらしい。
少し前に、虫を毛嫌いする白アリスの反応を見て、リーダーが白アリスのことを良いところのお嬢さんと勘違いしたほどだ。
「眠り草に火をつけたら、風魔法の使い手、全員であの巣を結界で覆う。外の蜂を他の魔術師と俺たちで処理する。デカイがやることは一緒だ」
リーダーが俺たち四人を含む魔術師八名に手順を説明する。
「オーガだっ!」
「オーガが出ました」
「こっちに向かってます」
ロディたちだ。
哨戒任務に出ていたロディたちのパーティーが丘の向こう、ハイビーの巣の向こうに、騒音を伴って姿を現した。
一瞬、足が止まる。
自分たちがどこへ飛び出したのか、はじめて理解したようだ。
彼らの後ろからは恐らくオーガなのだろう、木々をなぎ倒しながら何かが迫っている。
判断は速かった。足を止めたのは一瞬、すぐさまハイビーの巣の横を突っ切ってこちらへ合流することを選んだようだ。
ロディたちに続いて現れたオーガは一体のみ。
しかし、本当にいたよ。迷子になった間抜けなオーガが。
俺は軽い驚きとともに、内心で安堵もした。見れば、他の三人も同様らしい。
「なんてこったっ!」
リーダーがそんな俺たちとは明らかに異なる反応を示しながらつぶやく。
「ハイビーとオーガの両方を相手にしなきゃならないのかよ」
リーダーの言葉につられてハイビーの巣とオーガを見る。
大音響を轟かせて迫るオーガを敵とみなしたハイビーが襲いかかる。
半狂乱で暴れるオーガ。
正直なところ、近寄りたくないな、あれには。
「逃げた方が良いんじゃないの?」
珍しく、即座に同意をしたくなるようなことを白アリスが言う。
「迎撃だっ! 目的のオーガがでたぞ」
「魔術師は俺たちに襲いかかるハイビーを落としてくれ。それと防御結界を頼む」
探索者たちからオーガ迎撃の指示が飛ぶ。
泣きながら飛び込んできたロディたちのパーティーを除き、瞬く間にオーガ迎撃の態勢に移る。
「あーっ! 私のご飯ーっ!」
マリエルの叫びに反応してオーガを見ると、巣の一角を破壊しながら巣の中に倒れこんでいた。
「価値が落ちるっ!」
「早くあいつを引き離せ!」
「せっかくの蜂の巣がー」
マリエル同様に他の探索者たちからも悲痛な声が上がっていた。
◇
現在、帰路にある。
オーガ探索チームの面々は概ね上機嫌だ。
そして、今回のオーガ探索は一先ず成功と言うことらしい。
何しろ、怪我人は出たものの死者はゼロ。怪我人も俺たちの光魔法で治癒が完了している。
はぐれオーガを一体とは言え、目的のオーガを仕留めている。他にもいる可能性はあるが、それはまた明日以降の探索となる。
今日の成果としてはオーガの存在を確認し、一体を仕留めた。これが事実だ。
加えて、ハイビーの巣を丸ごと手に入れた。
「おいっ! あれ、何だ?」
「何かいるぞ」
「戦闘準備をしろっ!」
探索隊の前方から次々と声が上がる。
「魔術師、準備を頼むぞっ!」
距離があるからだろう、俺たち向けて遠距離攻撃の準備をするよう指示がくる。
探索隊全体に緊張が広がる。
もちろん、俺たち四人にも緊張感が湧き上がってくる。
いや、もっと深刻だ。
さすがに、俺たち四人も顔色が変わる。言葉が出てこない。
無言で、うごめくそれらを見詰める。あそこは埋めた場所だ。
うごめくそれは五体。同じ数だ。
大きいな。見覚えのある大きさとシルエットだ。
鼓動が早くなっているのが分かる。いやに心臓の音が大きく聞こえるな。
三人へ視線を走らせる。他の探索者たち同様、三人とも微動だにせず、うごめくそれを見詰めている。
でも、なぜだ? 確かに仕留めたはずだ。念入りに地中深くに埋めたはずだ。
それが、なんで地面から生えたような状態でうごめいているんだ?
「アンデッドだ。アンデッド・オーガだぞあれは」
探索者の一人の言葉で疑問が解決した。
解決したのは疑問だけで、他は何も変わっていない。むしろ、自分たちの無知からの中途半端な対応が原因だと分かっただけに、罪悪感が半端ない。
改めて三人に視線を走らせる。
目が合う。同じようにお互いの反応が気になるようだ。
白アリスがゆっくりと首を横に振り、人差し指を唇にあてる。
それを見て、俺たち三人はゆっくりとうなずいた。
「兄ちゃんっ!」
部隊リーダーが振り向きながらもの凄い勢いで俺に話しかけた。
今のを見られた? ばれた?
鼓動が再び早くなる。何も言えずにその場に立ち尽くす。
「あいつらはアンデッドだ。光魔法と火魔法しかきかない。一番有効なのが光魔法だ、すまないが頼む」
焦っているだろうことが伝わって来る。
「分かりました。俺とアリス・ホワイトが中心になって対応します」
俺は安堵しながら引き受け、そのまま、白アリスに向かって一緒に来るよう呼びかける。
「白アリ、行くぞっ!」
「だからっ、それで呼ぶんじゃないわよっ!」
大声で文句を言いながら追いかけてきた。
白アリに続き、黒アリスちゃんとテリーも駆けてくる。
「俺と白アリの光魔法で先制攻撃をかける。俺たちのターゲットは手前のヤツからだ。二人は援護を頼む。マリエルも援護を頼むな」
走りながら三人とマリエルに向けて言う。
「はーい、上空から火魔法を撃ち込むね」
「ちょっと、その呼び方やめなさいよっ!」
マリエルの快活な返事と白アリの抗議の声が聞こえる。白アリから了解の返事はないが、良いだろう。
「分かった、俺たちは奥のヤツから順次攻撃して足止めをする」
「援護は遠距離からで良いですか?」
続いて聞こえる声の主である、テリーと黒アリスちゃんを見ながら答える。
「それで良い、頼む」
「あのー、あのアンデッド・オーガ、何だが弱っているように見えませんか?」
「アンデッドっていうくらいだし、一度は死んでるんだからそんなものじゃないの? 元気が良い方が変でしょう?」
黒アリスちゃんの疑問に対して、もっともらしい答えを白アリが示す。
「弱っているならそれに越したことはない。考えるのは後にして、ともかく
黒アリスちゃんと白アリの言葉には取り合わず、最優先事項を伝える。
「賛成だ」
すかさず、テリーが同意する。
「手前のやつから順に行くぞ」
白アリへ向けて合図を送る。
白アリが無言でうなずき、浄化魔法を同調させる。
まるでアニメのように青白い光がターゲットである手前のアンデッド・オーガを中心に発生する。
その光の中、アンデッド・オーガが土人形のようにボロボロと崩れ落ちる。
あっけない、あっけなさ過ぎる。もっとこう、手強さとかあっても良いだろう。
いや、やめよう。自分の考えを即座に否定する。
今日は、余計なことを考えて、全てが裏目に出ている。
言霊とかの裏スキルがあって、それが発動しているんじゃないかと思うほどだ。
「楽勝ね、次行きましょう」
「おう」
白アリの声に答え、次のターゲットへ向けて浄化の魔法を放つ。
そこからは作業だった。
地中から身体半分ほど出て来ている、アンデッド・オーガを次々と浄化魔法で土に変えていく。
後に残ったのは、五つのアンデッド・オーガの魔石と五本の角だけだった。
◇
「兄ちゃんたち、凄いな」
アンデッド・オーガを倒して戻った俺たちを開口一番、前方チームのリーダーの驚きの言葉が迎えた。
「あ、いや、良くやってくれた。助かったよ。それに凄い魔術師なんだって改めて驚かされた」
それに、別のチームのリーダーが続く。言葉では驚いているが、顔は能面のように表情が消えていた。
「いえ、それよりもこれを」
俺たちは回収した魔石と角を前方チームのリーダーへ渡しながら言った。
「ん? ああ、そうだな。取り敢えずあずかっとくよ」
「後は、ギルドに戻って報告してからだな。すまんが、兄ちゃんたちは報告にも付き合って欲しいんで少し残ってくれるか?」
前方チームのリーダーと別のチームのリーダーが続けざまに話した。
「はい、分かりました」
俺は三人に視線を向け、うなずくのを確認してから返事をする。
「助かるよ」
「あの、さっきのアンデッドについて詳しいことを教えて頂けませんか? 俺たち、アンデッドなんて見るのも初めてだったんで」
前方チームのリーダーの返事に、多少の図々しさを感じながらも聞いてみた。
「分かった、道々話そうか」
そう言うと、俺たちに並んで歩くよう、うながした。
その表情から、かなり驚いているのが分かる。やはり、俺たちの魔法、特に俺の魔法の威力は尋常じゃないようだ。
俺たちの魔術師としての力に何らかの詮索が入るであろうことを予想しながら、アンデッドについて耳を傾けた。
◇
アンデッドについてひととおり教えてもらった後、少し離れて四人で歩く。
同郷出身の四人がそろいもそろって強力な魔術師であることに何らかの詮索が入ると予想して、その対処について話しながらである。
もちろん、それだけではない。
いろいろと学習したことについて四人で再確認をした。
今回の一連の探索で俺たちは多くのことを学習した。
中でも、最も有用だったのは魔物のアンデッド化だろう。
倒した魔物を放置することによりアンデッド化することがある。全てがアンデッド化する訳ではないそうだ。
そして、迷宮内ではアンデッド化はしない。
どんな理由なのかは分からないが、これが事実だ。
「アンデッド化か、知らなかったとは言え、いろいろと考えさせられる事象だな」
左手に持ったアンデッド ・オーガから回収した魔石から三人に視線を移しながら言う。
俺の言葉に黒アリスちゃんが小さくうなずき、白アリスとテリーが続いて話す。
「ええ、そうね」
「しかし、われわれは学習したんだし、同じことは繰り返さない」
そう、アンデッド化した魔物の魔石は変質し、そのほとんどが元の魔物よりも高額となる。
つまり、狩った魔物を埋めてアンデッド化させてから魔石を回収した方が儲かると言うことだ。
俺たち四人は顔を見合わせ、この事実にほくそ笑んだ。
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