第12話 トカゲ
「一列目と二列目は足止めをしつつ攻撃。三列目は弓と魔法で敵の後方から順次片付けてくれ」
ベックさんの指示のもと戦闘が開始された。
三列目から風の刃と矢が放たれる。
魔法はともかく矢の精度があまり高くない。
特に臨時雇用Cさんが精彩を欠く。
二層目での戦闘で初めて裂け目からの湧きを経験した際に臨時雇用Cさんが右手に怪我をした。
光魔法で治療したはずなのだが不十分だったか?
迫るオークを盾で受け流し、弾き飛ばし、上背を利用して上から盾を打ち下ろして地に叩き伏せる。盾術レベル4を遺憾なく発揮する。
ベックさんも俺の盾術は認めてくれているようで、防御の要にかなり近いことをさせてもらっている。
うん、手に入れて良かった。俺の中で今、一番役に立っているスキルだ。
とは言え、ベックさんの盾術レベル3とさほど変わらないのは少しショックだった。
どうも、スキルを活かしきるだけのウェートが足りないようだ。
まぁ、この辺は特性と言うか人により向き不向きがあるので気にしないようにしよう。
そして俺の得意分野は攻撃魔法だ。
何故かは分からないが、同レベルの人よりも高い威力を発揮する。加えて並行発動に高速連射と普通はなかなか出来ないようなことも出来たりする。理由は分からない。
「後方のオークに火球を撃ち込みます」
俺の言葉に反応して、前衛陣が半歩退き、身体を隠すように盾を構え直す。
盾でさばいていている二匹のオークを風の刃で
目の前のオークの首を風の刃が通過し、鮮血が空中に霧散する。瀕死だがまだ息がある。後方では爆裂球の着弾したオークの手足や肉片が弾けた。
後方の爆音と悲鳴に前衛のオークの動きが止まる。後方のオークたちはパニックだ。そんな隙を見逃すようなパーティーメンバーではない。次の瞬間には一斉攻撃が繰り出され、オークの全滅を以て決着がついた。
辛うじて生きている一匹のオークに近づく。
左手でオークを押さえ込み、右手で剣をオークの首筋に突きつける。
もう、覚悟をしたのか瀕死のオークが虚ろな眼でこちらを見上げる。
タイプA、発動。
成功。
念願の水魔法レベル1を入手し、とどめを刺す。
「ミチナガ、今回は申し分のない出来だった。良くやったな」
「ありがとうございます」
今日、初めてベックさんから誉められた。
「本当に凄い魔法の威力だな。それに、一度に複数の魔法を使えるなんて器用だよな。どんな練習をしたんだ?」
「良く分からないんですが、昔からこんな感じで使えました」
トールさんの言葉に、にこやかに笑いながらウソをつく。
自分でも感心するくらい適当な言葉が次から次へと出てくるよ。
一つウソをつくとそのウソがばれない様に次々とウソをつくって聞いたけど、まさにその通りだ。自分が大ウソつきになっていく気がする。
気がついたら、詐欺スキルとか持ってたりしないよね?
「ご主人様、ドロップアイテムです。槍ですね」
オークから魔石を採取していると、ディタさんが短槍を拾ってきた。
初めて見るな、ドロップアイテム。
そう言えば、先ほどのコボルドや今回のオークが装備していた武具はドロップアイテムとは言わないんだな。
ここで言う、ドロップアイテムとは裂け目から湧き出てくるアイテムのことを指す。
ドロップアイテムって、宝箱とかに入ってるんじゃないんだ。つまらないことに感心しながらも、初めて見るドロップアイテムに興味を引かれる。
「業物ではあるな。保管して置いてくれ」
「試しに使って見ないんですか?」
ドロップアイテムである短槍を、臨時雇用Cさんに渡そうとしているベックさんに聞いた。
「どんな魔法が付与されてるかも分からない武器なんか怖くて使えんよ」
先ほどの褒め言葉など無かったかのようかジト目で言われてしまった。
「あ、そうか、そうですね」
まだゲーム感覚が残っているみたいだ。ヘタに使って呪われたりしたら大変だもんな。
「右手の治療、不十分でしたか?」
臨時雇用Cさんに光魔法での再治療を申し出る。
「ありがとう。でも、右手の方は問題ないようだ。久しぶりの怪我だったんで、精神的なものかもな」
「そうですか。調子がおかしかったらいつでも言って下さい」
そう言いながら臨時雇用Cさんを鑑定して見た。
槍術レベル2を持っている。スキルのない弓でなく、槍を使って、一列目か二列目を受け持った方が本人のためのような気がする。
「お水いる?」
マリエルがコップを持ってフラフラと飛んでくる。
「ああ、頼むよ」
コップを受け取り、水魔法でコップに水を満たしてもらう。
今しがた、水魔法を手に入れたので使って見たい衝動に駆られたがここは我慢しよう。
水を飲んでいるとベックさんが動いた。
「全員、怪我は無いな? このまま四層目へ降りるぞ」
「はい」
ベックさんの言葉に全員の返事が重なり、行動を再開する。
◇
「先ほどのドロップアイテムですけど、付与されてる魔法とかって、どうやって調べるんですか?」
先頭を進みながら隣にいるベックさんに質問を投げかける。
四層目に入ってトールさんと先頭を交代している。現在の先頭はベックさんとディタさん、そして俺の三人だ。
と言っても、索敵能力を買われての先頭ではない。最初の先頭組が疲れたので交代した際の数合わせである。
俺のような新人が最重要となる進行方向の索敵など任せてもらえるわけもない。
その進行方向の索敵役を任されているのは、期待の新人マリエル。
自分でも悲しいものがあるが、これが現実なので受け入れるしかない。
「お前さんには何度も驚かされるが、本当に何も知らないんだな」
「はぁ、すみません」
驚くと言うよりも、あきれた感じでこちらを見ているベックさんに、頭を下げる。
「ギルドお抱えの鑑定士に見てもらう。大体はそれで片が付く。それでも分からないときは、試し屋へ依頼する」
「試し屋? どんなところなんですか?」
何となく想像できたが聞いてみた。危険な職業っぽいな。
「文字通り、奴隷に装備させて効果を確認する」
何それ? 怖い、俺の想像よりも遥かに危険で怖いんですけど。
「え? それって、かなり危険ですよね?」
「そのための奴隷だ」
この場に居る、四人の女性奴隷のことなど意に介していないようだ。
俺の感覚からすると、主人と奴隷の関係とは言え、人間関係こじれるんじゃないかと思ってしまう。
「実は奴隷の人って、見るのも初めてなんです。いろいろと知らないことばかりです。その……奴隷って悲惨なんですね。待遇とかも初めて知りました」
驚きと混乱でシドロモドロになる。
「そうか、まぁなんだ、奴隷落ちしないように気を付けるんだな」
え? 奴隷落ち? 何ですかそれは? 俺って今そんな危険な位置にいるんですか?
ベックさんにたずねようとしたとき、突然髪の毛を引っ張られる。
「前にトカゲがいるよ。トールさんが逃がしたヤツ」
マリエルが俺の頭の上から耳元にささやく。
「正確な距離と位置を教えてくれ」
パーティー全体に向けて、静止、静かに、のハンドサインを出しながらマリエル情報を求める。
空間トカゲ、是非とも瀕死にして空間魔法を手に入れたい。贅沢な話だが狙ってしまう。
念のため前方の闇に向けて鑑定を使ってみる。出来たよ、鑑定。距離も位置もバッチリだ。そして、空間魔法レベル1が確認できた。
この距離だ、ピンポイントでの狙撃は確率が悪すぎる。岩の弾丸を乱射しよう。
「距離は大体百八十メールかな? 場所は右の岩の上」
「ありがとう、マリエル」
そのアバウトな情報じゃ、狙撃は無理だな。
お礼を言い、土魔法を発動させる。
無数の小石がショットガンから放たれた散弾のように広がり、空間トカゲを面でとらえる。
よし、仕留めたか? 急ぎ鑑定を使う。
「やったよ、やっつけたよ。トカゲ」
「空間トカゲか?」
「お前、土魔法まで使えたのか?」
マリエルの声に続き、トールさん、ベックさんと続く。
……仕留めちゃったらしい。鑑定では何も見えない。つまり、死んだか、逃げたかだ。マリエルの報告を聞く限り仕留めたんだろうな。
皆が褒めてくれる中、複雑な気持ちで空間トカゲのいた場所へと向かう。
仕留めたトカゲを確認しないと何とも言えないが、ショットガンはやりすぎだったか。反省しよう。
次の機会ではオーソドックスに風の刃を使うか、エアハンマーみたいに魔法で殴って気絶させようかな。
などと適当なことを考えていると、頭上のマリエルから突然朗報が降って来た。
「もう一匹いるよ、トカゲ」
「どこだ? 距離と位置を頼む」
先ほどと同様に情報を求めながら、自身の鑑定でも距離と位置の特定をする。
いた。壁際に這いつくばっている。そして、空間魔法レベル2。先ほどのヤツよりも条件が良い。今度こそ、との想いとともにエアハンマーを撃ち込む。
手応えがあった。仕留めたか?
先ほどは適当な思いつきだったエアハンマーだが、今はもの凄い名案に思える。どうも、直近の思考に強く影響される癖は抜けていないらしい。
「仕留めたよ、また仕留めた」
マリエルが頭上で嬉しそうにはしゃぐ。
瀕死か、気絶か? ともかく生きている状態で動きが止まった。
マリエルに続き、はしゃぎたい気持ちを抑えて、空間魔法レベル2のトカゲへ向かって駆け出した。
「走るなっ!」
「危ないっ!」
「止まって」
後ろから制止する声がするが、心の中で謝罪しながらも無視して空間トカゲに駆け寄った。
よし、生きている。見えるぞ、空間魔法レベル2。
タイプA、発動。
目の前の空間トカゲから空間魔法レベル2が消える。次の瞬間、剣を突き立てた。
念願の空間魔法を手に入れた。
「こちらも、仕留めました」
心の中では大はしゃぎだが、そんなことはおくびにも出さず、至って冷静を装い、空間トカゲの死骸を持ち上げて皆に見せた。
◇
「この馬鹿者がーっ! 仕留めて嬉しいのは分かるが、大はしゃぎで駆け出すとは何事だっ!
迷宮内にベックさんの怒声が響き渡る。
空間トカゲを仕留めた殊勲など無かったかのように、ベックさんに叱られて――いや、指導を受けている。
土下座で平謝りである。うん、よく考えなくても軽率な行動だった。
ベックさんの言うことももっともだ。迷宮内でパーティーから一人抜け出て、前方へ駆け出すなど考えなしにもほどがある。
考えようによっては自殺行為だ。何も言えない、謝るだけだ。
しかし、心の中ではガッツポーズ。空間魔法レベル2を手に入れてウキウキだ。同じ状況になったら、また駆け出しそうな自分が怖い。
「申し訳ありません、反省してます」
ひたすら指導をしてくれるベックさんとひたすら謝る俺。
そんな俺たちを見ながらトールさんを筆頭に他のメンバーも苦笑いをしている。
「初めての迷宮で空間トカゲを二匹も倒したんだ、気持ちは分かる。分かるが、そんなんでは命がいくつあっても足りんぞ。以後、気を付けろ。さぁ、立て。行くぞ」
そう言うと俺の肩を軽く叩き、先を歩き出した。
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