第8話 ギルドでの騒動(3)

 後ろの方から怒声が聞こえる。振り返るとギルドの出入り口から厳ついヒゲが出てくるところだった。

 厳ついヒゲに続いて四人ほどがこちらへ向かって来る。


 しまった、人混みに紛れるにしても対戦場所と出入り口との間に紛れてどうするんだよ。

 自分の間抜けな行動を呪いながらこちらへと向かってくるザックの対戦相手を鑑定する。


「ヘルフリートの野郎だっ!」


「俺はザックを応援するぜ」


「やっちまえ、ザック」


 意外だ、厳ついハゲ――ザックよりも厳ついヒゲ――ヘルフリートの方が、好感度が低いようだ。相対的なものだろうが、厳ついハゲを応援する声が次第に大きくなる。

 サッカーグラウンドほどもある練習場に人がどんどんと集まってくる。


 ざっと見渡しただけでも百数十名はいるんじゃないだろうか?

 さっきまで練習場とギルドの建物内を含めても七十名もいなかったよな。どこからこれだけの数が集まってきたんだ?

 

 だが、人はどんどんと増える。

 人の数に比例して歓声と怒声、ざわめきが大きくなっていく。中にはどうみても探索者には見えない人たちまで混ざっている。


「今、こっち向かっているヘルフリートって、何か問題でも起こしたんですか?」


 厳ついヒゲの動きを目の端にとらえながら、隣にいる二十代半ばの青年に周囲の喧騒けんそうに負けないよう大声で話しかける。


「問題だ? あのヘルフリートってのはしょっちゅう問題を起こしてるよ。先週もあんたみたいな新人を無理矢理ダンジョンに連れてって、三人も使い潰しやっがた。それだけじゃない。証拠は無いがダンジョンのなかで他のパーティーを襲ってるってうわさだ」


 途中から厳ついヒゲをにらみつけながら話していた。まるで何か恨みでもあるかのような目だ。周囲の喧騒けんそうも手伝って声も大きくなっている。


「それは酷いな。騎士団は何もしないのですか? それと、あのヘルフリートのそばにいる四人は?」


 喧騒けんそうがますます大きくなる中、俺の声も大きくなる。


「騎士団は証拠が無ければ動かない。あっても滅多に動かないがな。あの四人はヤツのパーティーメンバーだ。全員、手練てだれだ。新人は狙われやすい、あんたも注意しな」


 俺の質問に即答してくれる。騎士団のことはともかく取り巻きの四人については予想通りの回答が返ってきた。

 なるほど、手練てだれと言われるだけのことはある。どいつも何らかの武器スキルがレベル2ある。


 大声で周囲を威嚇し、ギャラリーを押し退けながら中央へと向かっている。

 威嚇のつもりなのだろうが、大声に合わせて武器を振り回してもいる。


 何て奴らだ。皆が道を空けているのにわざわざ人の固まっている所を選んで歩いてきている。

 力を誇示しているのだろう。以前、地球で見たテレビでも猿が同じようなことをしていたな。


 正直、あんなのとは関わりたくない。

 目を合わせないようにしていると厳ついヒゲが俺の目の前を通り過ぎて行った。


「何だぁ、鬱陶うっとうしいな」


 ホッと胸を撫で下ろしていると取り巻きの一人が俺の頭上に向けて軽く槍を振った。

 

「キャッ」


「てめぇ、何しやがるっ!」


 小さな悲鳴に続いて男の怒声が響く。槍を振り回していた男だ。もの凄い顔でこちらをにらんでいる。それにしても、この人たちは先ほどからあちこちをにらんでいるな。


 マリエルに向けて振り回された槍を反射的に掴んでしまった。ここは腹をくくろう。

 マリエルは俺の背中の後ろに隠れている。よし、怪我もなさそうだし無事なようだ。


「すみません、もし失礼があったなら謝ります。でも、このフェアリーは俺のなんですよ。乱暴にしないでもらえませんか?」


 俺は頭を下げた後でゆっくりと槍から手を離し、銀貨を一枚、男の手のひらに滑り込ませた。


「おい、小僧。この程度で済ますつもりか?」


 俺の対応にもっとせしめられると思ったのか、槍男がニヤつきながら声だけで凄んでいる。


「いえ、これはこの場をおさめて頂くためのものです。謝罪については後ほど改めて」


 愛想笑いをしながら何度も頭を下げる。


「分かっているじゃねぇか。おい、お前ら行くぞ」


 そう言うと槍男は上機嫌で、厳ついヒゲの取り巻きたちとともに中央へと向かった。


「ミチナガ、大丈夫?」


「おい、兄さん。悪いことは言わない、今のうちに早くこの町を出な」


 マリエルに続いて何人かの人たちが心配して声をかけてくれた。


「ありがとうございます。でも、大丈夫です」


 心配してくれた人たちにお礼を言い、マリエルにも安心をさせるため声をかける。


「マリエルは何も心配しなくて良いよ。もう、大丈夫だ、もうね」


 そう言いながら、マリエルに怪我の無いことを改めて確認する。


 恐らく、今の俺はもの凄く得意気な顔か邪悪な顔つきをしているんだろうな。

 周りの心配をよそに自分自身のスキルを確認する。


 剣術レベル2

 タイプB、剣術レベル1と盾術レベル1を消費――生贄いけにえにして奪った新たな力。

 

 体術レベル2

 タイプAの連続発動で何とか奪えた。相変わらずタイプAは成功率が低い。

 

 盾術レベル4

 一際、目を引いたスキルだ。恐らくあの男がこのパーティーのタンク、盾役なのだろう。タイプCで奪えた。僥倖ぎょうこうだ。百日に一度しか発動出来ないが一発で成功した。


 人様のスキルを奪っておいて何だが、スキルのレベル差を考えれば、今の俺がヘルムートのパーティーメンバーと一対一でやり合って負けるとは思えない。

 加えて、光魔法レベル5がある。

 たいていの怪我はすぐに治癒できる。


 うん、俺も随分と成長したものだな。


 後は多勢に無勢とならないように注意すればよい。望むべくは、先程のようにわずかばかりの金で隙をついて近付き、こっそりとスキルを奪う。

 スキルさえ奪ってしまえばこっちのものだ、後はどうとでもなるだろう。

 

「パーティー戦か!」


「でも、人数が合わないぞ。どうするんだ?」


「ヘルムートの方が一人多いな」


 パーティー戦? 団体戦のことかな? いや、この場合はチームバトルか。何か少年マンガみたいだな。

 中央に視線を向けると厳ついハゲと厳ついヒゲの仲間が対峙するようににらみ合っている。


 それらを遠巻きにするようにギャラリーの輪ができていた。

 魔法攻撃による被害――流れ火球とかを警戒してかギャラリーが随分と距離を取っている。


「うるせーっ! 俺が二人ヤる。それで解決だ」


 厳ついハゲが、厳ついヒゲを睨み付けたまま大声で言うとギャラリーが静まる。


 ギャラリーが静まるのとは逆に厳ついヒゲのパーティーから笑いがおきる。


「おい、お前は一人もヤれずにヤられるんだ、勘違いするなよ」


 仲間の笑い声の響く中、厳ついヒゲが煽る。


「あの、こういうの初めてなんで教えて欲しいんですが。もしかして命のやり取りするんですか?」


「当たり前だ。決闘だからな。まぁ、普通は命まで取らないが、それでも大怪我はするさ。もちろん、死んでも文句は言えない」


 隣の青年に小声で聞いてみたが、予想通りの答えが返って来た。


「決闘ってしょっちゅうあるんですか?」


「ねぇよ。決闘やる奴なんてバカばっかりだよ。そんなバカはそうはいないさ」


 恐る恐る聞いた俺に何を言っているんだこいつは? 感を漂わせて教えてくれた。


 どうやら、俺はバカな質問をしたらしい。


 それにしても、人が殺し合うと聞いても悲しみもないし、感慨もない。あるのはちょっとした恐怖とそれを上回る高揚感だ。

 雰囲気に毒されたか? 俺自身が変わってしまったのか……或いはこれが生来のものなのか……


 考えても仕方がない。

 恐怖はもちろんある。だが、それを大きく上回る高揚感の方が大きい。今はこの高揚感に従おう。


 それにしても、さしたる努力もしないで高い能力が手に入るのが、これほど甘美とは思わなかった。

 いや、「美味しい」と思って取得した強奪スキルだが、予想以上だ。


 これほど簡単に欲望が恐怖を上回るとはな。


「ねぇ、ミチナガ。ここ怖いよ。もう、帰ろう。帰って服を着ようよ」


 思考が中断された。

 それにしても、まるで俺が裸でいるみたいに聞こえるな。

 ロディ少年との稽古が残っているのを忘れているのか、この場を離れたいからとぼけているのか。マリエルがしきりに帰りたがっている。


「大丈夫、怖くないよ」


 マリエルの頭にポンポンと軽く触れながら声をかける。


「なぁ、兄ちゃん。俺たちにも小遣いをもらえないか?」


 中央の様子を見学していると、突然、後ろから不穏当ふおんとうな言葉をかけられた。


 周囲に注意を向けると右側に二人、左側に一人、いつの間にか囲まれていたらしい。三人とも二十歳くらいか?


「ここじゃ、なんだ。外に出ようか」


 ニヤニヤとゲスな笑いを浮かべ、右側の男がナイフをチラつかせながら出入り口をアゴで指す。


 なるほど、先程の槍男とのやり取りを見ていたのか。俺のことを脅せば簡単に銀貨を渡すカモと理解したようだ。

 先ほどの今で行動を起こすあたり、なかなか行動力があるな。

 

 いや、そうじゃない。これはあれか。弱みを見せたらつけ込まれるってやつか。まんま、イジメの構図じゃないか。

 ってことは、もしかしなくても俺がイジメの対象だよな。


 念のため、三人を鑑定するがザコだ。目ぼしいスキルが何もない。投てきスキルを全員が持っているが、それ以外だと短剣術を持っているヤツが一人だけで全てレベル1だ。


 先ほどのロディ少年も投てき術を持っていたな。

 もしかして、荷物持ちの合間に石でも投げていたのだろうか? ということは、このチンピラたちも真面目に石を投げていたってことか?

 カスのようなスキルだが生贄用に奪おうかとも考えていたがやめておこう。荷物持ちをしながら必死に石を投げている姿を想像したら少し気の毒になってきた。


 とはいえ、このまま金をせびられるのも困る。それに他に同じような連中が現れないとも限らないしな。

 仕方ない、ここは少し頑張ってみるか。


「すみません。足りない一名ですが俺にやらせてもらえませんか?」


 チンピラ三人を振り払うように中央に向かって歩を進めた。


 トールさんを初め、何人かの人たちが止めてくれたが、お礼を言いそのまま厳ついハゲのもとへ向かった。


「小僧、どう言うつもりだ?」


 厳ついハゲがもの凄い形相で睨みながら聞いてきた。


「こちらにも、いろいろと事情があるんですよ、あいつらに対してね。詳しくは聞かないでもらえませんか?」


 まるで、あいつらに恨みでもあるかのように言う。


 いや、実際に恨みはある。

 あの槍男に銀貨を渡したために決闘に飛び入りしなければならないことになったのは事実だ。

 何よりも、あの槍男はマリエルに槍を向けた。


「てめぇ、死ぬぞ。分かってんのか?」

 

 厳ついハゲが、鋭い目で真っすぐに俺を見ながら言った。別ににらまれているわけではないのだが、なかなかに迫力がある。


「ご心配頂き、ありがとうございます。でも死にませんよ。これでも腕に覚えがあるんです。魔法も使えますしね」


 覚え、と言ってもスキルを奪った覚えで、修練や実戦の覚えじゃないのが悲しいところだが。


「ここじゃ、でしゃばりと生意気なやつは長生きできねぇ。お前は両方だ。早死にする素質は十分ある。どうなっても責任は持てねぇが良いんだな?」


 厳しい口調で確認してきた。お? 意外と良い人なんじゃないか?


「はい、大丈夫です。もとより誰かに責任を取ってもらうつもりもありません」


 表面上は至って落ち着いた雰囲気が出るようにしているつもりだが、上手く行っているだろうか?

 何しろ、内心はドキドキどころか、心臓バクバクものである。足が震えていないのが不思議なくらいだ。


「落ち着いてるし、本人がやるって言ってるんだ。やらせてみようぜ」


 厳ついハゲの仲間の一人がもの凄く無情で無責任なことを言いやがった。


 こいつ、覚えておけよ。後で仕返ししてやるからな。


「ふん。相手を選ばせてやる、誰の相手が望みだ? 恨みがあるんだろう」


「ありがとうございます」


 厳ついハゲにお礼を言い、先程スキルを奪った男を剣で指し示す。


「あの短槍を持った横幅のあるやつとやらせてください」


「バカかてめぇはっ!」


 厳ついハゲとその仲間たちの声が重なった。


「あいつが一番厄介なんだよ。あんな奴でも盾の扱いは一級品なんだ」


「盾なんて扱う余裕も与えませんよ」

 

 得意気な笑みを見せてさらに続ける。


「大丈夫ですよ、魔法があるので何とかします」


 内心の不安や恐怖心が表に出ないよう、できるだけ明るく軽い口調で答える。

 それに、今はあいつが一番弱いから安全を考えるなら、やはりあの槍男だ。

 

 こちらの会話が聞こえているはずはないのだが槍男が真っ赤な顔で睨んでいる。まさか一番手ってことは無いよな? 他の人の戦い方を参考にしたいので後の方が望ましい。


 祈るような気持ちでいると、あちらからは火魔法レベル1を持っている男が出てきた。

 火魔法か、そう言えば火魔法ってまだ見てないな。レベル1ってどの程度のものなんだろうか。この試合で見られるだろうか? 期待してしまう。

 こちらからは軽戦士風のスタンダードな剣と盾の使い手だ。


 開始の合図とともにこちらの軽戦士が連続した斬撃を繰り出し、敵を全く寄せ付けない。

 スキルレベルから見てもこちらの方が上だ。負ける要素があるとすれば火魔法の効果しだいか?


 なっ!


「きゃあっ!」


 俺の声にならない息を飲む音とマリエルの悲鳴が響く。


 マリエルを抱えて転がるように飛び退すさる。今いた場所に火球が着弾して炎が広がる。


「ぐぅっ!」


 広がる炎から逃れるようにさらに転がるが間に合わなかった。右脚が炎に包まれる。


「何やってんだ、ボウっとしてんじゃねぇっ!」


 大盾に身を隠したザックから罵声が飛ぶ。


 よく聞き取れなかったが、他の連中からも罵声が飛んできた。

 いや、不注意と言われればそうかもしれないが向こうに非があるだろう?


「ミチナガ、大丈夫っ? 凄い火だった……」


 唯一、俺のことを心配してくれたマリエルが俺の右脚を見て言葉を失う。


「いきなり火魔法がこっちに飛んで来るなんて――」


「パーティー戦なんだ、攻撃が飛んで来るなんて当たり前だろう」


 俺のセリフの途中でザックの怒声がそれをかき消すように重なる。


 当たり前なのか?

 よく見ると、俺以外、敵も味方も盾を装備して警戒態勢だ。なるほど、俺が無知だっただけのようだな。


「すみません、知りませんでした」


「知りませんでした、じゃねぇ! てめぇだって、昨日今日、探索者になった訳じゃねぇんだろ」


 俺の言葉に、さらにヒートアップしたザックが殴りかからんばかりに怒声を浴びせる。


「いえ、先ほど、申請書を書きました。ギルド証は今作成中のはずです」


 脚の表面以外を治癒魔法で治しながら正直に話す。


 ザックが言葉を失い、表情を強ばらせる。彼だけでない、取り巻きの表情も見る見る変わっていく。どうやら、かなり驚いているようだ。

 ラノベでよくある、驚きに満ちた顔、と言うのはこういうのを指すのだろう。

 いずれにしても、この世界に来てここまで驚かれたのは初めてじゃないだろうか?


 ザックたちから意識を試合へと戻す。

 それにしても、いきなり火魔法を撃ち込んでくるなんて酷い連中だ。いやそれ以上に酷いルールだ。のんびりと見学もできやしない。


 火球を撃ち込んだヤツがにやけた顔で降参を申し出ていた。最初からこう言うつもりだったのか。

 と言うか、降参はありなのか、この決闘。知らないことだらけだな。


「取り消しだ。てめぇみたいなど素人には任せておけねぇ」


 平常心を取り戻したザックがまた怒鳴り出すのと同時に相手の二番手が試合場へと向かう。槍男だ。


 俺はザックの怒鳴り声を聞こえない振りをして試合場へと向かった。


 足の火傷、皮膚以外は完治させてあるがそれを相手に知らせる必要はない。

 演技は大切だ。

 顔を歪め、右脚を引きずりながら中央へと向かう。


 槍男と対峙をする。

 この槍男を先制の攻撃魔法で一気に片を付けるつもりだったが、予定変更だ。お前ら全員、許さないからな。特に先ほどの火魔法使い、お前は両足を焼いてやる。

 油断をさせて、後方で待機している連中に火魔法を撃ち込んでやる。


「よう、兄ちゃん。脚は大丈夫か? 今度は銀貨一枚程度じゃすまないぜ」


「え? ああ、そうですね」


「まぁ、相談に乗ってやってもいぜ。。自分の命の値段を今ここで決めな」


 槍男は得意だと思い込んでいる盾を構えることもせずに、ニヤニヤしながら言い放つ。


 命の値段か。金貨一枚くらいだろうか? 少し興味があるな。


「幾らくらいですか? 金貨一枚が精一杯です」

 

 俺の回答に大笑いが返ってくる。どうやら失敗したようだ。相場を分かっていなかったらしい。


「身売りして奴隷になれば、兄ちゃんみたいなのでも金貨五枚くらいにはなる。どうだ? 身売りして奴隷になれば助けてやらない事もないぞ。ここで死ぬよりもましだろう?」


 なるほど、金貨五枚――現代日本の金額に換算して五百万円くらいが命の値段というか人生の値段か。随分と安いものだな。


 槍男としても、ここで俺を殺してしまうよりは安くとも金に換えたいらしい。

 こちらの返事を待っているのだろう、開始の合図が出されても攻撃をしてくる気配がない。

 

 好都合だ、精々派手にやらせてもらおうか。


 七発の火球を後方で待機する連中へ向けて撃ちこむ。イメージはダイナマイト、着弾と同時に爆発させる。

 俺が魔法攻撃をしてくる、まして後方の待機組へ攻撃をしかけてくるとは、考えていなかったのだろう。完全に油断をしているところを捉えることができた。


 七発の火球は低空を高速で飛び、後方にいた待機組を襲う。着弾と同時に土を巻き上げ、安心しきっていた厳ついヒゲたちが空中に舞う。

 何本かの手と足が別々の方向に舞っているようにも見えたが気にせず次の魔法を放つ。


 三つの風の刃が槍男を襲う。

 槍を持つ右腕が肩口から切り落とされ、右脚が太ももから切断され、左脚が足首から先を失う。


 魔法の餌食となった男たちのうめき声だけが訓練場に響いた。

 厳ついヒゲたちの惨状を見て言葉を失う、唖然と見詰めるだけだ。厳ついハゲとその仲間だけじゃなく、ギャラリーも俺も。


 自分のしでかした事に自分でビビッてしまった。

 魔法ってレベル1でもこんなに凶悪なのかよ。ダイナマイトをイメージした火魔法の後で、ナパームをイメージしたヤツを撃ち込む予定だったが、結局、撃ち込むことはなかった。


 遠くの方で誰かが決闘の終了を告げている。

 そりゃ、そうだろう。もう、相手パーティーに戦えるやつなんていない。


 片手片足が吹き飛んだくらいマシな方だ。両足が吹き飛び、下半身がグチャグチャになっている者もいる。

 正直、生きているのが不思議なくらいだ。


 周りの人たちの歓声や驚きを、どこか遠い世界の事のように感じながら人々が慌ただしく動くさまを見ていた。

 そんな俺の顔に、マリエルが泣きながらボディプレスをかました。

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