芽衣ちゃんの、バレンタインボイスについて

「芽衣ちゃんのボイスはかわいかったね。シチュエーションも想像しやすくて、場面が目に浮かんできたよ」


「お世辞でもそう言ってもらえて嬉しいな。自分では上手くできてたか心配だったからさ」


「僕もいいと思ったよ。なんというか、とても内容だったと思います」


 男性陣から賞賛を浴びた芽衣が嬉し恥ずかしそうにはにかむ。

 そんな彼女の反応を見ながら、紗理奈は芽衣の台本を書いた時のことを話していった。


「芽衣ちゃんに関してはもう全然内容に困らなかったね! 今までで一番すんなりと決まったよ!」


「恥ずかしそうにしながら手作りチョコを渡す……王道で良かったです、本当に」


「いや~! 彼氏の枢くんに言ってもらえると台本を書いた身としては嬉しいものがありますな~!」


「彼氏じゃないです、本当に。そこだけは訂正させてください」


【照れるなよ、枢……! もうみんなわかってるからさ……!!】

【このくっついてそうでくっついてない感がくるめい特有の甘酸っぱさとてぇてぇを生み出しているのでもっとやれ】

【ねっちょりオリサソとは大違いだな】


 からかいでもあり、本気でもあるコメントが飛び交う中、話は紗理奈がシチュエーションを設定する際に意識したことについての内容へと移っていった。


「いやでも、さっきも言った通りに全く迷わなかったんだよね。気弱で料理があんまり得意じゃない女の子で、チョコを渡したい相手がいるって考えたらさ、もうシチュはあれで決定でしょ?」


「羊坂さんが一生懸命作ったチョコを渡したい人に渡す……十分過ぎるほどに破壊力があったね」


「これは前に話したかもしれないんだけど、芽衣ちゃんからはASMRの台本についての相談も受けててさ。その時はあたし、芽衣ちゃんの性格にそぐわない過激な台本を用意しちゃって、内容が内容だから却下されちゃったんだよね。だから今回はその時のことを反省しつつ、きっちりかっちりまとめました!」


「ふふふっ! 懐かしいですね。あれは流石に恥ずかしかったですけど、新しいことに挑戦できて楽しくもありましたよ」


【えっちな芽衣ちゃんのボイスがASMRで聞けるんですか!? それどこのサイトで売ってますか!?】

【サソリナが過激って言うからには、本当に過激なんやろな……!】

【我々は天才的な馬鹿が作った芽衣ちゃんの喘ぎ声MADで多少は慣れてるけど、公式から供給されてたら死んでたかもしれない】


「あとは、チョコを渡される側の人の性別は男女どっちでも違和感がないように台詞を調整した感じかな~? 芽衣ちゃんは同性のファンも多いだろうから、女の子が聞いても楽しめるようにしてみました!」


【女性めいとです! 私たちに気を遣ってくれてありがとう!!】

【やっぱサソリナってそういう部分に気を遣える女なのよな。オリオンとかには敢えて遣ってないだけで】

【本当にいい台本だったよ! ありがとう、サソリナ!!】


 内容は芽衣の性格に合わせつつ、その持ち味を十分に活かせるものに。

 同時に、彼女のファン層を考えて性別を固定することをなく、バレンタインデーのイベントに合わせた王道の展開に仕上げる。


 要約するとこういうことになるわけだが、何を考えて台本を書いたか? という部分を言語化されると、改めて紗理奈の技術に感心してしまう。

 リスナーや共演者が彼女を賞賛したり、感謝したりする中、紗理奈は芽衣に振りつつ、ちょっとした火種を投下してみせた。


「とまあ、こう言っておきながらなんだけどね。あたし的には、チョコを渡してる相手は彼氏の枢くんだっていう脳内イメージがあるわけですよ。芽衣ちゃんにもそういうイメージでお芝居を、ってアドバイスもしたもんね!」


「だから彼氏じゃないっす。ってか、相手を固定しないように台本書いたのに、ここでそれ言っちゃったら意味ないじゃないっすか」


「公式が勝手に言ってるだけだからいいんだよ! 別に自分が渡されてるイメージができてる人はその楽しみ方でいいしね!」


「ん~……パワーワードだなぁ。でも、確かに演技のアドバイスとしてはいいんじゃないかな? イメージしやすそうだし」


「そうですね。バレンタインに枢くんに手作りのチョコを渡す……って考えたら、できそうなんだけど少し恥ずかしくって、そういう気持ちで演技ができたからみんなに褒めてもらえるようなボイスになったのかな……? って部分はありますね」


「そう? 最近は料理の勉強で作った試作品とか食べさせてもらってるし、くるめいキッチンでも芽衣ちゃんが作った生姜焼きとか、普通に食べたじゃん。逆に慣れた感じにならない?」


「むぅ……枢くんはすんなり渡してきたけど、バレンタインに手作りチョコって緊張するもん。私、今までそんなことしたことないしさ……」


【拗ね芽衣ちゃんかわよす。それはそうと枢ぅ! お前、それはノンデリだぞ!?】

【女の子が手作りチョコはほぼ本命チョコって意味なんだ。それをバレンタインに渡すってことは告白してるってことなんだよ。緊張しないわけないだろうが】

【くるるんは鈍いんじゃなくて、無意識に芽衣ちゃんにクソデカラブを向けてるからその辺のことがよくわからんのです】


「え? 俺、これ失言しました? いや、別に芽衣ちゃんを軽く考えてるとかじゃないんですよ!? ただ、結構な頻度で手料理食べたり、食べさせてもらったりってしてたから、その延長線上だと考えちゃうんじゃないかって思っただけなんですって!!」


「はははっ。まあ、うん。僕もそうだけど、枢くんもバレンタインに関してあんまり思い入れとかなさそうなタイプだからなぁ……」


「いやでもオリオンは普通にバレンタインに興味がないタイプで、枢くんは友チョコとか渡す日くらいの感覚だから結構違わない? 枢くんも、実際芽衣ちゃんからチョコを渡されたら、緊張するし恥ずかしくも思うでしょ?」


「それは……まあ、そうっすね……」


 紗理奈の質問を受け、改めて芽衣のボイス内容を振り返りつつ、あんな感じでチョコを渡されたらどうなるのかと考える枢。

 確かに紗理奈の言う通り、平然と笑顔で受け答えしてそれで終わり……みたいな感じには振る舞えないだろうなと考えた彼がそれを言葉にすれば、少し拗ね気味だった芽衣がこう言ってきた。


「ほら、枢くんだってそうじゃん。普段とは違うんだよ、普段とは」


「ん……そうだね。芽衣ちゃんの言う通りです、本当に」


「ふふっ……! わかってくれたらそれでいいよ! 面白い反応も見れたしね!」


「……これはあれだね。羊坂さんのバレンタインボイスは、僕と枢くんがノリで手作りのお菓子を作らなかった世界線の話かな?」


「あたしと芽衣ちゃんが手作りチョコを渡そうと考えたら、こうなってたって話だね。みんなもそういうパラレルワールドのお話として楽しんでくださ~い!」


【は~い! わかりました~!】

【くるめいはところかまわずにイチャつきだすし、無意識にお互いのことを意識してる……尊死】

【やっぱりくるめいはてぇてぇのである】


 燃えそうになったり萌えそうになったりと忙しいが、なんだかんだで話は上手くまとまったようだ。

 というわけで女性陣のバレンタインボイスに関する話は終わり、続いて男性陣によるホワイトデーのボイスについての話が始まっていった。

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