第5回くるるんキッチン!(ゲスト・獅子堂マコト)

多忙な時期の料理配信、開始

『……この番組は、料理技術どころか家事スキル皆無な【CRE8】所属Vtuberのために、料理出来る系男子である蛇道枢が美味しいご飯の作り方を教えてあげる、優しさと温もりに満ち溢れた番組です……なので彼を燃やさないであげてください、お願いします。【CRE8】スタッフ一同より』


「流石に収録も五回目となるとこのナレーションにも慣れてくるな。まあ、慣れるだけで腹が立つことに変わりはないんだけどさ」


 本日も始まった『くるるんキッチン』にて、普段よりも随分と穏やかな雰囲気の枢が頷きながらそんなことを言う。

 そのままスタジオの様子を窺った彼は、視聴者たちに説明するようにしてこんな話をし始めた。


「今日な、いつもと逆なんだよ。普段は俺が緊張してたりして、それをスタッフさんたちがニマニマしながら見てるわけ。でも、今日はその逆。俺はすげえリラックスしてて、スタッフさんたちが若干ガチガチになってる。それがどうしてかって部分に関してはいくつか理由があるんだけど……まあ、その前に今回のゲストをお呼びしましょうか! 第五回、くるるんキッチンのゲストはこの方! 獅子堂マコト先輩です! どうぞ~!」


「どうも、どうもな」


 枢の紹介と共に姿を現したマコトが軽い挨拶をする。

 そうした後で何かを気にしている様子の彼女は、それをそのまま枢へとぶつけてきた。


「なあ、質問なんだけどさ。スタッフが緊張してる原因って、もしかしてアタシか?」


「まあ、多分そうですね。他にも色々理由はありますけど」 


「……アタシってそんな怖いか?」


「俺は普通にいい先輩っていうか、姉御感があるんで怖いとは思わないですけどね。事務所のNo.2をこの時期に、こんな番組に迎えてるって部分に負い目があるんじゃないですか?」


「……メインパーソナリティーがそれを言っていいのか?」


『※この回の収録は十二月です。とても忙しい時期でした』


 枢の話を補足するようにテロップが出現し、この時期は演者もスタッフも多忙だったことを説明する。

 3Dモデルのお披露目兼ライブの配信の準備に追われているマコトを出演させてしまったことにスタッフたちは引け目を感じているようで、それが彼らの緊張に繋がっているようだ。


 では、逆になんで枢の方はリラックスしているのかというと……?


「なんかもう、俺は落ち着く材料がいっぱいあるんですよね。さっきも言った通り、獅子堂先輩とは一期生の皆さんの中では仲が良い方ですし、今日は一本だけ撮って収録終わりなんですよ。だからここだけに集中すればいいっていうか、後のことを気にしないでいいっていうのは滅茶苦茶デカいですね」


「ああ、そういうことか。二本撮りだと体力とか腹の空き具合とかも気にして収録に臨まなくちゃいけないもんな。そういう面ではお前は気が楽か」


「放送された後で燃えることは確定してるんで、そこはもう気にするだけ無駄ですしね。獅子堂先輩のことは信頼してますから、愛鈴の時みたいな感じにはならないと思いますし」


「そんなにあっさり炎上を受け入れていいのか? いや、お前がそれでいいなら別にいいんだけどさ……っていうかあれだぞ? アタシもお前が期待してるような料理の腕前は持ってないぞ? できることってせいぜい、フライパンで肉を焼くくらいのものだからな?」


「ああ、大丈夫です。その辺のこととかはバッチリ考えてますし、スタッフさんからも色々と要望があったんで、今回はもう誰でもできるメニューを考えてきました。というわけで、本日教える料理を発表します!」


 普段の堂々とした態度とはかけ離れた若干弱気な姿を見せるマコトへとそう言った枢が、本日彼女に教える料理の発表へと移る。

 咳払いをして、ちょっともったいぶった彼は、収録を楽しむ雰囲気を見せながら堂々と宣言してみせた。


「今日、作る料理は……鶏の照り焼きです! マジ、めっちゃ簡単!」

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