獅子堂先輩、信頼されてます
「照り焼き……食べたことはあるけど、作ったことはないから普通に焼くのとどう違うのかわかんねえ……」
「タレを塗りながら焼くみたいっすよ。ただまあ、ご家庭でハケを使ってタレを塗りながら……なんてことをする人はそうそういないんで、普通にタレで食材の表面が照ってるから照り焼きっていうんだって思ってください」
軽く料理について説明する枢。
そんな彼へと、マコトは続いてこんな質問を投げかける。
「これ、ちなみになんだけどさ、どうしてこの料理にしたとかいう理由はあるのか? さっきお前、スタッフの要望とかを聞いたって話をしてたけど……」
「ああ、はい。ちゃんとありますよ。簡単に言っちゃえば、手順も作り方も滅茶苦茶簡単な肉料理として選ばせていただきました」
さらりと結構身も蓋もないことを言った枢へと、マコトは若干苦笑気味な表情を向けている。
そこから少し詳しい話をすべく、彼はこう言葉を続けた。
「まああの、正直この時期って俺たち全員があっぷあっぷで余裕がないじゃないですか。今回の収録も一本撮りってところからも時間のなさがわかりますし。そういう時だからこそ、あんまり手間がかからない、材料も多くない料理にしてくれって要望が出たんだと思いますよ」
「そんで、アタシの好物である肉系の料理のエッセンスを加えた結果、こうなったと。なるほどねぇ……」
「なんか、こう説明すると手を抜いてる感じがしますけど、そういうわけじゃないですからね。この忙しい時期に敢えて予定を抱えてる獅子堂先輩をキャスティングしたってことは、先輩なら恙なく収録を進めてくれるだろうっていうスタッフさんの信頼があってのことでしょうし」
「う~ん……そうか? 花咲とか呼んだ方がスムーズだったと思うけどなぁ……?」
「先輩はたら姉の自由さを知らないんです。ここに来たのがたら姉だったら、収録後に俺の胃は間違いなくぶっ壊されてますよ」
マジトーンな弟分の答えに、これまた苦笑を浮かべるマコト。
しかし、彼の言ったことは決してお世辞ではないのだろう。
既に出演済みのタレントや距離的な問題で出演できない者を除いたメンバーの中で、敢えて3Dモデルのお披露目を目前に控えたマコトをキャスティングしたということは、この忙しい時期に余計な問題を起こさずに収録を終えてくれるだろうというスタッフの考えがあってのことだ。
確かにまあ、ここで乙女やしゃぼんを出したら枢の胃は破壊されるどころかストレスのあまり、変な病気に罹る可能性もあるなと考えたマコトが、残ったメンバーの中でなら自分が一番マシかと考える中、その枢がこう続ける。
「あとはまあ、俺も獅子堂先輩のことは信頼してるんでこのメニューにしたってところはありますね」
「お? そうなのか?」
「はい。この番組の目的上、ここで教えた料理は家でも作ってもらうことを考えてるんですけど……抜けた人だとかテキトーな人の場合って、何が大事かわからないまま、調理手順をスキップするんですよね。そんでもって今回の料理、デカめのサイズの鶏肉を調理するんですよ。この二つの要素が組み合わさった結果、何が起きるかっていうと……作った人間が半ナマの鶏肉を食べる可能性があるってことです」
「あぁ~……! 鶏肉って食中毒怖いもんな。牛とか豚より生で食べると危ないって話も聞くし……」
「そういうことです。その点、獅子堂先輩ならそんな下手なことはしないだろうし、調理の手順とかもきっちり守ってくれるだろうなと思って、この料理を選ばせていただきました」
「ははっ、同僚やスタッフから信用してもらえてるみたいで嬉しいよ。そんじゃあまあ、その信頼を裏切らないように精一杯やらせていただこうかな」
「ですです。こちらこそよろしくお願いします。んじゃ、始めましょうか!」
枢のその言葉を合図に、動画にカットが入る。
場面が飛んで、手洗い等の準備を済ませた状態になった二人は、並べられた食材を一つ一つ確認し始めた。
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