エピローグ・へびつかい座は一人じゃない()

「……先輩方、少しお話があるので、こちらに来ていただけませんか?」


「先輩、ということは同期である私たちは無関係ですね。とんずらしましょう、伊織ちゃん」


「後輩共、ちょっとこっちに来い」


「逃げ場がなくなりました。紫音ちゃん、大ピンチ」


 とても優しいが怖い笑顔を浮かべている優人と、怒りのオーラを滲ませて強面の顔を更に怖くしている零からの呼び出しを受けた女性陣が逆らうことなくその命令に従う。

 自分たちの近くにやってきた彼女たちへと、目が全く笑っていない優人が質問を投げかける。


「怒らないから正直に答えてくださいね? なにか、僕たちに関する呟きをSNSに投稿しましたか?」


「いや、まあ……そんな大したことはしてない、と思うよ……?」


「何かはしたんですね? 何をしたんです?」


「そこに至るまでの流れとかもあるからさ~……やっぱこう、一概に誰が何をしたとかは言いにくいっていうか……」


「ぐだぐだ言ってないで白状しろ。力づくで吐かせるぞ」


 ぶんっ、ぶんっ、とハリセンを振り回し、のらりくらりと逃げようとする女性陣を脅迫する零。

 もうどうしようもないと判断した彼女たちは顔を見合わせると、恐る恐るといった様子で自供を始める。


「いや、あのね……二人の話を聞いてた梨子ちゃんが、ウホッ! これは萌える……!! とか言って盛り上がり始めちゃって、なんかこう、ホモォ、な雰囲気になってきちゃってさ……」


「でまあ、そういうのに造詣が深い天ちゃんと澪ちゃんも加わって会議を始めて、会話とかをちょっと弄ったりしてね……」


「それが面白かったので私と喜屋武先輩がSNSに投稿したわけですが、それをまた面白がった左慈先輩が大量のフォロワーを持つアカウントでRTしてしまいまして……」


「加えて、馬鹿ヴァル子が悪意のある改変を加えてこれまた大量のフォロワーを持つアカウントで引用RTしたわけだな」


「ふ~ん、なるほどねぇ……その結果、俺たちがどんな目に遭ってるか教えてあげましょうか?」


「ど、どんな目に遭ってるの、かなぁ……? 是非とも教えてもらいたいわぁ……!」


 何となく予想はできているというか、既に知っているもののそんなことを今の零と優人に言ったらどんな目に遭うかわからない女性陣が笑顔を引きつらせながらそう答えてみせれば、二人は彼女たちへと自身のスマートフォンを見せ、そこに届いているファンたちからのメッセージを見せつけてやった。


【くるるんとオリオンのCP……そういうのもあるのか!】

【いやなんかネタなのはわかってるんだけど、そういうホモ営業みたいなのには手を出してほしくなかったっていうか、なんていうか……】

【ネタだってわかってんならモニョるなよwww意味わからんお気持ち表明のせいで萎えるっつーのwww】

【こういうことすると腐女子さんたちが嗅ぎつけてきそうでなんかやだ】

【CP厨も大概だから別に変わらんやろ。ってか、くるるんとオリオンに苦言を呈しても意味なくね?】

【悪いのはこれを広めた奴だが、なんか枢とオリオンには火を投げ込みやすいからこうなってる感が強い】

【┌(┌^o^)┐ホモォ……】


「……控えめに申し上げて地獄絵図なのですが、どう責任を取ってくださるんですかね?」


 怒りの炎を燃え上がらせている零と、極寒のブリザードよろしく威圧感を放つ優人。

 女性陣(の一部)による悪ふざけの結果、立派に炎上する羽目になってしまった二人は、とりあえずといった感じで騒ぎの発端になった人物を責め立てる。


「まあ、元凶の加峰さんとはとりあえず縁を切りますね。お疲れ様でした」


「加峰さん、任せていた仕事の締め切りは絶対に守ってくださいね? 社会人なんだから、自身の責任は果たしてもらわないと困りますよ?」


「ひえぇぇっ!? プライベートと仕事の両面から締め上げられる~っ! タチケテ、ユルチテ……!!」


「……伊織ちゃん、もしかしてなのですが……うちの男性陣って、怒らせたらとても怖い二人組なのではないでしょうか?」


「多分だけど、紫音ちゃん以外のみんなはとっくに気付いてたと思うよ……?」


 嘆く梨子と、怒る二人を見つめながら、紫音と伊織がわかりきっていたことについて話をする。

 今回の事件にあまり関わっていない面々が退避し始める中、少しだけ怒りの炎を落ち着かせた零と優人が顔を見合わせた後でため息を吐いた。


「すいません、狩栖さん……これが【CRE8】の日常なんで、早めに慣れてください」


「ああ、うん……本当に面白い事務所だね、ここって」


 色々なことが予想がつかないから、本当に唐突に燃え上がる。面白い人間が揃っているからこそ、意味不明なムーブからの炎上が起きる。

 本当にこの事務所に入ってから退屈しないと、良くも悪くも(今回は完全に悪い一択だが)慌ただしい毎日を送り続けている優人は、今後はこれが自分の日常になるのだと理解して、どこか遠くを見つめながらぼやいた。


 そうした後……心の中に思い浮かんできたおなじみの文句を、二人はほぼ同じタイミングで口にする。


「「この事務所、本当に……めんどくせぇ……!!」」


 悲しみを共有する人間がいてくれることは嬉しいが、そもそもその人物がいなかったらこんな目にも遭ってないんだよなという不条理を抱えながら、零と優人がお互いを労わるように肩を叩き合う。

 その後、二人の炎上に関わった人間の内、天はワレクラの犬小屋を完全に破壊され、沙織はなんでも言うことを聞く権利を二人に配布し(このせいでまた二人が炎上した)、紫音は零からのご飯供給をストップされて空腹に喘ぎ、明日香はガチ謝罪の後に炎上の収拾に努め、澪はおしおき(意味深)されて足腰が立たなくなり、流子は処されるというそれぞれの末路を辿ったそうな。


 めでたし、めでたし。


―――――――――――――――


今回もお付き合いくださりありがとうございました。

Vtuberってめんどくせえ! 第七部、これにて閉幕となります。


今回は新キャラである三人にスポットライトを当てた結果、主人公である零たちの出番はかなり少なくなってしまいましたが……その中で、先輩として成長した彼らの姿を描けたんじゃないかなと思っております。


全体的に一部の内容をオマージュしたというか、被せて作った今回のお話が皆さんに気に入っていただけたら嬉しいです。


そして気が付けば、この小説も今回のお話で1000の大台に到達してしまいました。

もう二年ちょいくらい書き続けてるみたいで、本当にびっくりです。


こんな馬鹿みたいな男の馬鹿みたいな毎日投稿に付き合ってくださる皆さんには本当に感謝しかありません。

これからも楽しんでいただけるようなお話を書けるよう、頑張っていきます!


こんな感じであとがきを締めさせていただきますが、明日は七部の蛇足的なお話といつも通りのお願いを投稿する予定です!

八部の始まりまでは短編もいっぱい投稿するので、楽しみにしていてください!

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