パーティーの最中に、へびつかい座とオリオン座
「もうすっかり馴染みましたね。狩栖さんも【CRE8】の一員って感じだ」
「先輩である君からそう言ってもらえて嬉しいよ。ありがとう、阿久津くん」
そのまま自分の隣に座った零へと、優人が微笑みかける。
喧騒から外れた男子二人は、はしゃぐ仲間たちを見つめながら話をし始めた。
「ようやく君とゆっくり話ができるね。色々とばたばたしてたせいで時間が作れなくてごめんよ」
「気にしてませんよ。同じ事務所の仲間になったんですし、どうせその内こうして話ができるようになるって思ってましたから」
そう言いながら、手にしているグラスを傾けてお茶を一口飲む零。
彼が話せる状態になってから、優人が再び口を開く。
「不思議な事務所だね、【CRE8】は。男女比が圧倒的に傾いているのに特にそれを気にする雰囲気もないし、新参者で異性の僕もすんなりと受け入れてもらえた。年齢はある程度まとまっているけど、性格は面白いくらいにバラバラだ」
「だけど、全員がいい感じにまとまってる。面白いところでしょ?」
「……ああ、そうだね。面白くていい事務所だ」
ふっ、と笑みをこぼした優人が零の意見を肯定する。
男女比やタレントの売り出し方が固まっていた【トランプキングダム】とは大きく違う事務所ではあるが、彼には【CRE8】のメンバーはバラバラでも全員が同じ方向を向いているように思えた。
それぞれが叶えたい夢があって、それを目指してひたむきに努力を重ねているという共通点があるからこそなのだろうと、違うように見えて志は同じという面白い仲間たちへと思いを馳せた優人は、数少ない同性の仲間である零へと言う。
「変な気分だよ。元々、裏方向きの性格をしていた僕が、あれだけのことがあったというのにまた表舞台に戻ってくるだなんてさ。しかも、内外問わずに沢山の人たちから歓迎されると、少し戸惑っちゃうね」
「そりゃあまあ、狩栖さんはいい人ですから。俺も戻ってきてくれて嬉しかったですし」
「僕が戻ってこれたのは、また舞台に立とうって思わせてくれたみんなのお陰だよ。その中にはもちろん、君も入ってる」
「だったら、Win-Winってことっすかね? お互いに嬉しいんだから、最高じゃないっすか!」
そう言いながら笑う零の顔を見つめながら、これだけでも戻ってきた甲斐があったなと思う優人。
無論、零を喜ばせるためだけに転生を果たしたわけではないが……別れの際、悲しませてしまった彼の笑顔を取り戻すことができて良かったと、そう思っている。
「……改めて、【CRE8】二人目の男性タレントとして、今後ともお世話になりますね。どうぞ、よろしくお願いします。阿久津先輩」
「うわ、なんか違和感ありますね。狩栖さんから先輩呼びされると、ムズムズします」
「でも、実際阿久津くんは僕の先輩だろう? そう呼ばれるべきじゃないのかい?」
「いやいや、前世での活動を含めるなら狩栖さんの方が先輩じゃあないですか! 年齢も俺のが下ですし、なんかこう……違うんですよ!」
「ははっ、まあ、経歴が長い上に年上の後輩に対する正しい接し方ってよくわからないよね。呼び方を変えずに、今まで通りでいこうか」
別事務所のタレントから、同じ事務所の先輩と後輩という形に関係性は変わったが、それで接し方や印象が変わることはない。
今まで通りでいいだろうと言う優人に対して、少しだけ照れ臭そうに笑った零がこんな提案をする。
「どうせなら名前呼びにしません? 苗字だとちょっと距離感ありますし、二人だけの男なんですから、もうちょっと距離詰めましょうよ」
「ふふ……っ! 先輩がそれをご所望なら、喜んで」
少しおどけた優人が、零へと向き直る。
零もまた彼と正面から向き合うと、小さく頭を下げてからお互いに口を開いた。
「これからよろしくお願いしますね、優人さん」
「こちらこそ、よろしくお願いします……零くん」
お互いを名前で呼び合った後、苦笑を浮かべる二人。
まだ少し違和感はあるが……少しずつ、慣れていけばいいのだろう。
時間はたっぷりとある。焦る必要なんてない。
夢に向かう道中の中で、きっとこの呼び方に慣れる日もくるはずと思う二人が笑い合う中、テーブルに置いてあったスマートフォンの画面がぴかりと光った。
「ん、あれ? なんか通知来てる。ちょっとすいませんね……」
「気にしないで。僕もSNSの確認をさせてもらうよ」
気恥ずかしさを紛らわせる意味も込めて、届いた通知を確認する零。
SNSのアプリを起動した彼であったが、そこに送られてきていたメッセージを見て、顔をしかめる。
【ようこそ、こちらの世界へ……!】
【オリくるorくるオリがあるならばくる俺もあるということでいいですか!? ガチホモにチャンスはありますか!?】
【枢とオリオンと俺の三角関係……燃えるぜ!!】
「あれぇ……?」
「う、んん……?」
戸惑ったような声を漏らしたのは、零だけではなかった。
対面の優人も困惑したような呟きをこぼしており、おそらくはメッセージの中で名前が挙がっていた彼も似たような状況に直面していると思われる。
何か嫌な予感を覚えた二人が、この事態はどうやって引き起こされたのかと考えながらも一つしかない答えを確認するように女性陣の方へと目を向ければ……彼女たちはギクッ、という実にわかりやすい反応を見せてくれた。
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