翌日、三期生歓迎パーティーにて

「というわけで……改めまして、三期生、デビューおめでとう! これからよろしくね!!」


 三期生による初コラボが行われた翌日、彼らを含む【CRE8】所属Vtuberたちは事務所に集まってちょっとしたパーティーをしていた。

 初配信の日に行われた見守り会に参加できなかったメンバーも勢揃いし、十六人のタレントたちが集まった会場の中で、代表として明日香が乾杯の音頭を取る。


 お酒なり、ジュースなりを手にその音頭に応えた面々はテーブルの上に並べられた料理に舌鼓を打ちながら、和気あいあいと同じ事務所に所属するタレント同士の交流を楽しんでいった。


「初配信の時は挨拶できなくてごめんね! さっきも言ったけど、これから同じ事務所の仲間としてよろしく!」


「わお。まさか事務所の代表ともいえるタレント様にこんな丁寧なご挨拶をしていただけるとは思ってもみませんでした。驚き桃の木山椒の木です。こちらこそ、これからよろしくお願いします」


「ぬへへへへ……! い、伊織ちゃん、おっぱい大きいねぇ……!! ちょ~っとおじさんと二人でお話してみな――ひでぶっ!?」


「早速後輩にセクハラ仕掛けてんじゃないよ、馬鹿ヴァル子。最近、アタシが集まりに参加してなかったから調子に乗ってんのかもしれないが、そろそろ自重ってもんを覚えな」


「あ、あはは……なんだろう、馬場先輩っていつもこんな扱いなんですね……」


 事務所の看板タレントたちことビッグ3と会話する紫音と伊織は、若干緊張しながらも彼女たちと普通にコミュニケーションが取れているようだ。

 チャンネル登録者百万人を誇るビッグタレントとは思えない素朴さを醸し出す明日香と、普段通りのセクハラを仕掛ける流子と、そんな彼女をいつも通りに折檻する玲央という、既におなじみになりつつある彼女たちのあれやこれやを見守る二人へと、ふわりと笑みを浮かべた明日香が言う。


「色々あったみたいだけど、無事に同期とのコラボもやれたわけだし……これで私たちともコラボできるね! やれることがぐ~んと広がったわけだ!」


「はい、そうですね。ここからが本番だと言っても過言ではありません。人生はずっと本番の連続なわけですが、私たちのVtuber人生の本番はここからだ! ということで轟紫音先生の次回作にご期待ください」


「紫音ちゃん、それだと人生の連載が終了しちゃってるから……」


「Oh、そうでした。小粋な子犬ジョークとして流してください。てへぺろりんこ」


「なんかあれだな。今までにないタイプのキャラが入ってきたな」


「まだまだ躾がなってないワンちゃんみたいだねぇ~! これは事務所の先輩として、私が躾けてやる他あるまい! さあ、一緒にベッドに行こう! おぎゃんっ!!」


 どう足掻いても話がシモ方面にしかいかない流子の後頭部を何者かがハリセンで引っ叩く。

 悲鳴を上げて倒れた彼女の背後から姿を現したのは、三期生最後の一人である優人であった。


「ご挨拶が遅れてしまったことと、先輩を遠慮なく折檻したこと、申し訳なく思っています。すいません」


「いや、いいよ。助かった。零の他にもこいつの暴走を止められる奴がいるとアタシとしては大助かりだ」


「あなたが狩栖優人さん? 澪ちゃんと付き合い始めたんだよね!? うわ~っ! 社内恋愛とかドキドキしちゃうな~!! 絶対に澪ちゃんを幸せにしてよ!! 約束だからね!?」


「……はい。そこは絶対に約束させていただきます」


「うっ、ううっ……! 私は貴様を許してないぞ、狩栖優人……! よくも私の澪っぱいを奪いやがったな……! ひっく、ぐすっ……!!」


 新人タレントに対する挨拶というよりも、友人の恋人に対するそれになってしまっていることに苦笑する優人。

 まあ、自分も遠慮なしに先輩を引っ叩いたわけだし、そんなことを気にする必要もないかと思いながら、その扱いを受け入れていく中、明日香が笑顔のまま、不意に真面目な言葉を彼へと投げかけた。


「【CRE8】で二番目の男性タレントって立場は、本当にプレッシャーがかかると思う。だけど、薫子さんも狩栖さんならその役目を果たせると思ったから責任重大な立場を任せたってことを忘れないでね」


「はい、ありがとうございます。こうして励ましていただけて、本当に嬉しいです」


「三期生のまとめ役も担うことになるだろうし、ボイスの脚本とか事務所が出すグッズの制作にも一部関わるんだろう? しんどくなったらいつでも相談してくれよ。それと、梨子姐さんに仕事をぶん投げて、任せちまいな」


「あれ? 不意に自分の名前が飛び出してきませんでした? なんか仕事をやれとか言われてたような気がするんですけど……!?」


 気遣ってもらうことに対する気恥ずかしさを感じた優人がぽりぽりと頭を掻く。

 そうした後で笑みを浮かべた彼は、先輩たちへとこう述べた。


「お気遣い、身に沁みます。抱えきれなくなったら、遠慮なく先輩たちにも相談させていただきますが……多分、大体の問題は澪に励ましてもらえれば解決するので、大丈夫です」


「おお~っ! 惚気るねぇ!」


「うわっ! なんか聞いてるこっちが恥ずかしくなってきちゃった!」


「励ましてもらう(意味深)……! 貴様ぁっ! それは私に対するイヤミかっ!?」


 若干の惚気を含む優人の発言に、ビッグ3も楽しそうにはしゃいでいる。(一名を除く)

 そうした後でその輪から外れ、一人でグラスを傾け始めた優人に対して、もう一人の男性タレントこと零が声をかけてきた。


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