三人で描く未来は、あの星のように……

「おお、ここがうわさの二期生ハウスですか。思っていたよりも大きくて凝ったお家ですね。寝室が分かれてるところに蛇道先輩の燃えたくないという強い意志を感じちゃいます」


「あれ……? ベッドが三つと一つで四つしかないぞ? あと一つはどうしたんだろう?」


「あの、外に【ペット用】って書かれた立札と一緒にピンク色のベッドが置いてあるんですけど、これってもしかして――?」


「……あまり深く考えないようにしようか」


「我々は二期生の闇を見てしまったのかもしれません。明日にはこの配信を見ている人たち全員消されてるかもですね。残念」


【誰とは言わないがお正月に同期を燃やしてた二期生がいたな……】

【残当。妥当な扱い】

【黒羊さんが怒って放り出したけど、末っ子リア様が泣きながら許してあげてってお願いしたお陰で犬小屋生活で済んだんだろうな】


 最初に訪れた二期生ハウスを見学し、その作りと大きさに感動しながら、外に放置されていた誰かさんのベッドと私物が入ったチェストを発見してしまった三人は、それ関しては見て見ぬふりをすることに決めた。

 外に追い出されている特定の人物に対して、リスナーたちが特に憐憫の感情も抱くこともないまま笑いの種としてそれを消化する中、三人はまた別のことをして遊び出す。


「あ、かぼちゃあった。これを採取して、クラフトして……はい、マナさん。パンプキンヘッド、できたよ」


「わ~い、ありがとうございます。では、早速装備して反省を促すダンスを踊りましょう」


「う、う~ん、ちなみにマナちゃんは誰に何の反省を促してるの?」


「下らないミスで同期を燃やした自分自身と、ちょっとしたことでオリオンさんを燃やしたアンチたちに反省を促しています。やってみせてます、マナティーが」


「オリオンさん! マナちゃんを止めなきゃマズいと思うんですけど!?」


「あ、ダンスのコマンドあるからやり方教えるね。そっちの方がそれっぽくなると思うよ」


「オリオンさん!? ダメですって! オリオンさん!!」


【オリオン、マナフィーの世直しの協力者だった】

【悲報・ストッパー壊れる】

【オリオン、お前、なんか楽しんでるな……】


 パンプキンヘッドを受け取るや否や、マナがかなり危ない発言をしてから謎の動きを始める。

 そんなマナを止めなくていいのかとオリオンに尋ねるメグであったが、彼はむしろそのテロを推奨するかのような発言をする始末だ。


 三人の中でストッパーを担うと思われていたオリオンの暴走にはメグだけでなくリスナーたちも戸惑っており、彼の許可を得たマナのダンスは更にキレを増していく。


「……あ、そんなことしてたらお腹が減ってきました。ご飯をください」


「わ、私もご飯持ってないよ~! っていうかお腹が空き過ぎて走れなくなっちゃってるし!」


「なんと、これはピンチです。哀れ猟犬姉妹はここでお腹を空かせて倒れてしまうのでしょうか。次回に続く」


「ははは、じゃあちょっと動物でも仕留めてくるよ。悪いけど、二人はここで焚火をクラフトして待っててくれるかな?」


「わお、流石は狩人さんですね。一生ついていきますぜ、ご主人。ぐへへのへ」


【この猟犬役に立たねえなあ……?】

【狩りを手助けするはずの犬のために狩りをしなくちゃならねえとかこれもうわけわかんねえな】

【三期生の三下、わんわんおに決まる】


 とまあ、そんなこんなで遊びながら時間を過ごし、ワレクラのゲームシステムに翻弄(?)されつつそれにも慣れていった三人は、訪れた夜の時間を焚火を囲みながら過ごし始めた。

 オリオンが狩ってきた動物の肉を焼きつつ、それをムシャムシャと音を立てて食べつつ、三人は色々なことを話していく。


「楽しいですね、こうしてみんなで一緒に遊ぶのは。本当に楽しいです」


「そう言ってもらえて嬉しいよ。僕たち二人が、マナさんの友達一号と二号になれたなら、もっと嬉しい」


「う~む、オリオンさんはまだしも、メグちゃんはお姉ちゃんなので友達にカウントするのはちょっとズルい気がします。でもオリオンさんだけを友達カウントするのはそれはそれでメグちゃんに悪いですし……ここは二人ともノーカンで、友達よりも大事な存在として認定することにします、まる」


「ふふふ……っ! 友達よりも大切な存在、かあ……! それはそれで嬉しいかも!」


【マナちゃん、不意打ちでエモいこと言うよな。ジーンときたわ】

【脳死でしゃべってるのかもだけど、だからこそ本心が出てるともいえるもんな】

【ええやん。友達よりも大切な同期。素敵やん?】


 そんな同期の絆を感じさせる会話を聞いたリスナーたちが胸に温かいものを覚えて笑みを浮かべる。

 オリオンも、メグも、口が滑りやすいからこそ本音を言いやすくもあるマナのその言葉に、隠し切れない喜びの感情を声に滲ませながら言う。


「私たちもマナちゃんと一緒に遊べて楽しいですよ。すごくすごく、楽しいです」


「じゃあ、これからも一緒に楽しい思い出を作っていこうか。マナさんはやりたいこととかある?」


「そうですね……とりあえず、三期生ハウスを作りましょう。メグちゃんのおっぱいみたいに大きくて立派なやつを。それで、その中から配信をやりたいです」


「うん、余計な形容詞が付いたね。そこを除けば完璧だった」


「オリオンさん、ツッコミを放棄したわけじゃあないんですね。ちょっと安心しました……」


「しかしながら、ワレクラの世界で作ったお部屋では配信できないのが残念です。やれることも制限されていますし、同じワレクラなら冒険に出た方がいいということくらいは流石の私もわかりますから」


「あっ、だったら別の部屋を作って、そこで配信してみる……とか?」


「別の部屋? なんですか、それ?」


「いや、その……私、一応レベルだけど……3Dモデリングとかできる、から……それで部屋を作るのってどうかな~、って……」


【ファッ!?】

【なんか唐突にすごいこと言ってない?】

【え? マジ!? メグちゃんそんなことできるの!?】


「……僕も初耳なんだけど、それって本当なの? いや、メグさんを疑ってるわけじゃあないんだけどさ」


「は、はい、一応。で、でも、独学レベルなのでプロが作ったものと比較されると月とすっぽんですよ? 部屋を作るとか言っちゃいましたけど、まだそこまでの技術は全然ですし、作れて小物とかちょっとした家具レベルで――」


「いや、十分すごいよ。是非ともこれまでに作った作品を見せてほしいな」


「き、期待されるような物でもないですけど、それでも良ければ配信が終わった後にお見せしますね……」


 コラボ配信の前、有栖からのアドバイスを思い返したメグが思い切って自分の特技について話してみれば、リスナーも同期たちも思った以上の反応を見せてくれた。

 そこまで誇れるようなものではないと謙遜しながらも少しだけ嬉しそうに声を弾ませている彼女の反応を見て、くすくすと笑ったマナが言う。


「決まっちゃいましたね、私たちの目標。三人で3Dモデルをゲットして、メグちゃんが作ったお部屋で配信する……いい感じだと思いませんか?」


「ええっ!? さ、流石にそれは無茶振りなような……?」


「いいんじゃないかな? 僕たち全員が3Dになるまではまだまだ時間がかかりそうだしさ。それまでにファンのみんなに見守ってもらいながら、メグさんも腕を磨く、ってことで」


 唐突に出現した目標と、その中で自分に課せられたかなり重大な責任に戸惑うメグであったが、少しだけ胸がときめいてもいた。

 自分の作り上げた舞台の上で同期たちが楽し気に配信を行って、それを見るリスナーたちが笑顔になってくれている場面を想像した彼女は、小さな声で呟く。


「あんまり、期待しないでもらいたいですけど……やれるだけ頑張ってみます」


 その目標がいつ達成できるのかなんてわからない。全ての準備が整ったとして、本当に叶うのかもわからない。

 ただ……思い描いた未来を現実にしたいという気持ちは本物だから、そのために精一杯頑張ってみようと迷わずに思える。


 冬の夜空に浮かぶ大三角のように光り輝く夢を夜空に描いた三人の表情は、とても楽し気で、希望に満ちていた。


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