三期生、炎上対策会議

「う~ん……まあ、事情はわかったよ。でも、流石にそれは迂闊だったねぇ……」


 そして翌日、今回の件で呼び出された紫音と伊織は、昨日二期生に話したのと同じ内容を薫子と優人に再び話していた。

 話を聞いた薫子も苦笑とも呼べない複雑な表情を浮かべており、この問題をどう扱うべきか悩んでいるようだ。


「本当にすいません、私のせいで……」


「私のせい、ですよ。伊織ちゃん一人が悪いわけじゃないですので」


「お前たちも反省してるみたいだし、悪気があったわけじゃあないし、必要以上に叱ったりペナルティを課そうとは思わないけどさ……次からはよく考え、相談した上でこういうことを決めてくれよ?」


 はい、と薫子の言葉に紫音と伊織が元気のない声で返事をする。

 一目でしょぼくれていることがわかる二人のことをこれ以上責めても仕方がないと判断した薫子は、咳払いを一つ置いた後で今後についての話をし始めた。


「まあ、やっちまったもんはしょうがない。とりあえず、これからのことを考えよう」


「ふ、二人での雑談配信は中止した方がいいですよね? 狩栖さんを除け者にしての初コラボは良くないですし……」


「いや、ここで中止してしまった方が色々と禍根を残すでしょうし、騒ぎに燃料を追加することになる。告知してしまった以上はやってしまった方がいいと僕は思います」


 騒動の元凶となったハウンド姉妹のみで行う雑談コラボを中止しようかと提案した紫音であったが、優人は静かに首を振ってそれを制する。

 ここでコラボを中止してしまったら、それこそ騒ぎが一層加速するという彼の意見には薫子の頷いており、社長の同意を得ることができた優人はそのまま自分なりの対応策を話していった。


「でも、このまま実行するのもリスクがありますよね? 狩栖さんはその辺のことをどうお思いですか?」


「轟さんの言う通り、どちらにせよリスクはある。なら、少しでも印象を良くできるように努力した方がいい。僕たちだけじゃ大したことはできませんが、事務所と先輩方のお力をお借りすればやれることはあります」


「具体的に、どうするつもりなんだい?」


「お力を貸していただける先輩方にお願いして、轟さんと臼井さんと同じように自分たちのバレンタイングッズを紹介するコラボ配信をしていただけたらな、と……。できたら数人ずつに分かれて、二、三枠ほど配信をしていただけたら助かります」


「……なるほど、今回のコラボは事務所からの指示だと思い込ませようってことか」


「少し、リスクがありますけどね。ですが、三期生不仲説という爆弾を抱え続けるよりかはずっと被害は少なくて済む」


 バレンタインイベントグッズを紹介するコラボ雑談枠をハウンド姉妹だけでなく、【CRE8】の女性タレントたち数名にも行ってもらう。

 同じ内容の雑談配信を行ってもらうことでこれがバレンタイングッズを宣伝したい事務所からの指示だったとファンたちに思わせようというのが優人の作戦だ。


「幸いにもバレンタイングッズの制作には僕も携わっています。お二人にそれを言及してもらいつつ、僕もリスナーとして雑談に参加して適度にコメントを送れば、不仲説も抑えられると思います」


「なるほどね……」


 これもこれで十分にリスクはあるが、一度告知したハウンド姉妹のコラボを取り下げるよりかは波紋は広がらずに済むと思う。

 事務所には微妙に批判の声が寄せられるだろうが、三期生が不仲であるといううわさが立ち続けるよりかはずっといい。


 事務所からの指示の下、十分な話し合いを行った上でオリオンも姉妹だけでの雑談配信を視聴して楽しんでいるとくれば、少なくとも不仲とは思われないだろう。

 これがコラボ配信というよりも、事務所からの案件配信であるという印象をファンたちに与えることができたならばなお良い。


 デビュー直後の『トライヴェール』が爆弾を抱え続けるよりかはマシだと、そう判断した薫子は優人の策に乗ることを決断すると同時に彼へと幾つかの質問を投げかける。


「話はわかった、その方法でいこう。協力してくれそうな奴らに当てはあるかい?」


「多分、頼めば澪は手を貸してくれるでしょう。また力を借りることになって申し訳ないですが、阿久津くんたち二期生にもお願いしようと思っています」


「なら、私は梨子に声をかけておくよ。滅多に配信をしないあいつが参加すれば、案件感が強くなるだろうしね」


「ありがとうございます。そうなったら、阿久津くんにも参加してもらえるかもしれません。母親が自分のバレンタインのグッズを宣伝するのを見る枠……という感じでネタにしてもらえば、エンターテイメント感が強まってファンのみんなにも喜んでもらえるかもしれませんし……」


 ぽんぽんぽん、と薫子と優人が次々に炎上への対策案を打ち出していく。

 伊織はそれを黙って、気まずそうにしながら見守っていたのだが……もう一人の当事者である紫音が不意に口を開くと、優人へとこう問いかけた。


「……狩栖さんは、怒ってないんですか?」

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