なんでそんなこと、しちゃったわけ?

「本当にすいません! なんと言ってお詫びしたらいいか……」


「反省、してます。本気で、本当に……」


 それから暫くして通話に参加した伊織と紫音は、チャンネルに集まっていた先輩たちへと謝罪の言葉を口にしてみせた。

 明らかに気落ちしている二人の様子を察した零たちは、まずは彼女たちへと励ましの言葉を投げかける。

 

「そんなに凹まないで。大丈夫ですよ、まずは落ち着きましょう」


「失敗といえば失敗だけど、もうやっちゃったことだしね。とりあえず、色々と話を聞かせてもらっていいかな?」


「はい……」


 二人の落ち込みっぷりを見るに、彼女たちから自発的に詳しい状況の説明をしてもらうのは難しそうだ。

 こちらから質問を投げかけて、それに答えてもらう形がベストだろうと考えた二期生たちを代表して、まずは沙織がこう問いかける。


「質問なんだけどさ、このコラボって紫音ちゃんと伊織ちゃん、どっちから持ち掛けたの?」


「えっと、それは――」


「私です。私が伊織ちゃんにお願いしました」


 少しまごまごとしている伊織とは正反対に、はっきりと自分がコラボの提案をしたと述べる紫音。

 少しだけ気まずい空気が流れるも、いい意味でそれを無視した沙織が彼女へと追加の質問を投げかける。


「そっか、紫音ちゃんの提案だったんだね。でも、どうしてそんなことをしたの? 初コラボは『トライヴェール』の三人でやるって、そういう話になってたんじゃなかったっけ?」


「はい、その通りです。でも、その前に配信でおしゃべりの練習がしたいと思ってしまいまして……」


「おしゃべりの練習? どういうこと?」


 コラボを持ち掛けたのが紫音だということはわかった。あとは、その理由を聞きたい。

 沙織の質問に対して、普段通り平坦ながらもその中に反省を滲ませた声で、紫音はこう答える。


「私も伊織ちゃんも、一人で話すのはまあできなくもありませんが、誰かと会話することに苦手意識があります。私は突飛な発言でコラボ相手を困らせないか、伊織ちゃんは緊張してコミュ障発動しちゃわないか、そういう部分が不安で、三期生のコラボ前に予行練習気分でやってみようって、そう思ったんです」


「そっか、そうなんだね。でも、そういうことをする時には狩栖さんに相談した方が良かったんじゃないかなって、私は思うよ」


「はい……私もそう思って、相談しなかったことを反省しています……」


 紫音と伊織が三期生コラボを行う前に二人だけのコラボ配信を行おうとした理由に関しては、許容はできないが理解はできた。

 ただやはり、それを決断する前にもう一人の同期である優人に相談すべきであり、そのことを沙織から指摘された紫音もまた自身の軽はずみな行動を反省しつつ、その通りだと認めているようだ。


「その、どうして狩栖さんに相談しなかったんですか? 何か、理由が?」


「……ここまで怒られることだと思ってなかった、というのが理由です。二人だけとはいえ、一応は同期同士のコラボですし、別に問題ないかなと思っていました。二期生の皆さんも初コラボは全員で行わず、三人組と二人に分けて行ったと聞いていたので……」


「あ~……俺たちの場合はかなり特殊なんで、参考にしちゃ駄目ですよ」


「うん、そうだね。私たちの時は零くんと有栖ちゃんが活動をお休みしてたからそうなっただけで、特例中の特例だったからね」


「それと、五人の中の二人がコラボするのと、三人の内の二人だけでコラボするっていうのは、やっぱり受け取る側の印象が違うと思います。前者は残りの方が多いですけど、後者の場合は一人を仲間外れにしてるように見えますし……」


「あと、そもそも零と有栖ちゃんの場合は私たちのコラボに参加できなかった後にやった、いわば補填みたいな部分もあったからね。復帰即コラボってこともあったし、デビューから順調に活動してるあなたたちが真似する内容じゃあないわよ」


「はい……先輩方の仰る通りだと思います……申し訳ありませんでした」


 零たちからの指摘を受けた紫音が、声色からわかってしまうくらいに凹みながら謝罪の言葉を口にする。

 寄ってたかって後輩をいじめているような状況に何とも言えない苦しさを感じる中、零は少しでも彼女を元気付けようとこんなことを言う。


「でも、そこまで心配しなくても大丈夫ですよ。狩栖さんはこんなことで怒るような人じゃありませんし、薫子さんは怒りはするでしょうけどしっかり問題解決のために動いてくれるはずです。気落ちせず、一緒にこれからのことを考えていきましょう」


「はい……ありがとうございます……」


「本当に……申し訳ありませんでした」


 ただただダメ出ししてしまったようにも思えてしまうが、ここで自分たちのどの行動がマズかったのかを整理できたということは二人にとってもプラスになるはずだ。

 少なくとも、明日行われるであろう話し合いの中で冷静さを取り戻すことに一役買ってくれるだろう。


 しかし……それでも、『トライヴェール』の三人がこのプチ炎上で爆弾を抱えてしまったという事実は変わらない。

 このピンチをどう乗り切るか? 自分が巻き込まれた炎上ならば何度も解決してきた零でも、蚊帳の外にいる状態から燃えている後輩たちを救う方法はわからずにいる。


 全ては薫子と三期生たちにゆだねるしかないと思いながら……順調だった『トライヴェール』の活動に立ち込めてきた暗雲が早く晴れてくれますようにと願う零は、優人と薫子のフォローを期待しつつ、同期たちと共に紫音と伊織を励まし続けるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る