三期生と、社長の話し合い
「昨日の初配信、お疲れ様。みんな、いい配信をしてたと思うよ」
「ありがとうございます。星野社長にそう言っていただけて嬉しいです」
「事務所のスタッフさんたちが協力してくれたお陰だと思っているので、慢心せずに頑張っていきたいと思います」
「しかし、予想以上のプレス&シャーでした。これからが不安&心配です」
三期生デビュー配信の翌日、社長室に集まった優人、伊織、紫音は、薫子と共に昨日の振り返りと今後についての話し合いを行っていた。
上々の出来であったデビュー配信を褒められた三人がそれぞれの感想を口にする中、事務所の代表である薫子は彼らの気を引き締めるように言う。
「しかし、デビュー配信が終わったからといって安心している暇はない。むしろお前たちのVtuberとしての活動はここから始まるんだからな」
「は、はいっ! そ、そうですよね。ここからが本番、なんですよね……!」
わかっていたことだが、デビュー配信というのは最初の山場でしかない。
そこを乗り越えた今、ようやくVtuberとしての本格的な活動が始まるということを再認識した伊織が息を飲みながら緊張を高める中、薫子は三人へと今後の予定を尋ねていった。
「それで、これからどういう感じで活動をしていくつもりなんだ?」
「それは実に哲学的な質問ですね。私には回答は困難なので、狩栖さんに答えていただくことにしましょう」
いつも通りのマイペースな雰囲気でするりと優人へとバトンを渡す紫音。
そんな彼女に苦笑しながら、優人は三期生を代表して薫子の質問への答えを述べていった。
「これから暫くは個人で雑談やゲームなどの配信を行う、地固め期間を取りたいと思います。何事もバタバタと行ってもいいことはないですし、ある程度腰を据えて動いていけたらな、と」
「よし。同期でのコラボに関しては話し合いは進んでいるのかい?」
「はい。前々から少しずつ打ち合わせをしてあって、二週間後くらいに三人でワレクラをプレイしようかという話になっています」
「ふむふむ。ちなみにその二週間という期間には何か意味があるのかな?」
「バレンタインデーのイベントに合わせて、といった感じでしょうか? そろそろ二月に入って、【CRE8】もバレンタインに関する商品の告知を行うと思います。男性である僕はそこまで気にすることはないでしょうが、轟さんと臼井さんは違う。自分たちのグッズが出るわけで、その宣伝を行う必要もありますし、バレンタインデーで何かの企画配信をしようと考えているかもしれない。その準備と無理なく並行できて、それ以前にコラボを完了させられる期間として二週間を設定しました」
すらすらと自分の質問に答える優人へと頷きながら、薫子は彼を三期生として加入させた判断に間違いはなかったと改めて思っていた。
紫音と伊織、どちらもVtuberとして光るものはあるが、双方かなり独特な人間でもある。
マイペースが過ぎる紫音もそうだが、伊織も引っ込み思案で振り回され気質である分、この二人だけで組んでいたら彼女が紫音を制御するのは難しかっただろう。
そこを締めつつ、経験を活かして二人の手綱を握ってくれる優人の存在は実に貴重というか、二人を活かしてくれる最後のピースとして最適だった。
我慢強くコミュニケーション能力も高いお陰で二人との話し合いも問題なく行えているようだし、流石は【トランプキングダム】でタレントとして活動しながらも数々の裏方業務をこなしていた男だなと考える彼女へと、優人は補足の説明を行っていく。
「ワレクラで使うキャラクターのモデルも各人用意が完了しています。コラボで何をするかに関してもあまり奇をてらわずに安定した内容でいこうかな、と思っているところです」
「なるほどね……伊織と紫音もそれで大丈夫かい?」
「は、はいっ! 色々と、三人で話し合って決めましたので……!」
「狩栖さんには沢山アドバイスしてもらってますし、精神的な疲弊がしんどくなっているところにこうしてあまり悩まずにサクサクと話を進めていただけることに感謝&感謝してます。というか、感謝&感謝って言ったら何か食べたくなってきました。お腹がぐーぐーです」
三人の関係性も良好のようだ。今のところ、不安要素と思わしきものは見受けられない。
ただ、やはりデビュー直後のこのタイミングは気を引き締めていくのが一番だと話をしたところで、会議はお開きとなった。
お腹が空いたの言葉通りに昼食を取りにいく紫音と、そんな彼女の後を慌てて追いかける伊織を見送った後で……最後まで部屋に残っていた優人が口を開く。
「星野社長……話し合いが終わったばかりで申し訳ありませんが、少しお時間をいただけないでしょうか?」
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