ちょびっと、リスナーたちに注意喚起

【ようやくCRE8から二人目の男性Vtuberがデビューしたわけだけど、男の後輩ができてどんな気分?】

【もうオリオンとはお話したの?】

【良ければどんな話をしたのか教えてほしいな】


「お話に関しては、デビュー配信の直後にさせてもらったね。話の内容は普通の挨拶だから、特に報告することもないかなぁ……」


 本当はそれだけではないのだが、配信でリスナーたちに馬鹿正直に話せる内容でない。

 の関係だとか事情だとかにも関わる内容だし、適当にごまかして話をする枢に対して、続いて若干杞憂めいた質問が飛ぶ。


【オリオンと相性いいと思う? 今後コラボとかできそう?】

【後輩だけど年上だし、変に気を遣ったりしないで済む?】

【初めての後輩にくるるんがどう接すればいいのか迷ってそうで心配】


「はいはい、そんな感じね。それに関してはここで断言するけど、一切心配しなくて大丈夫です。マジで、本気で、何の問題もないから」


 先輩として、後輩と上手くやっていけるか? そんな新しい仲間が増えたからこそのリスナーたちからの不安を払しょくするように、枢が力強く断言する。

 【言い切ったなwww】といった感じの反応がリスナーたちから寄せられる中、枢はその理由についても話をしていった。


「さっきも話した通り、あんまり【CRE8】って上下関係が強い事務所じゃないっていうかさ、先輩の言うことには絶対服従! みたいな雰囲気じゃないわけじゃん? だからオリオンさんに限らず、ハウンド姉妹さんたちとも同僚兼楽しく遊ぶお友達として付き合っていくだけだし、先輩後輩って関係をそこまで意識する必要なんてないんじゃないかって俺は思うな」


【そりゃそうだよな。くるるんもしゃぼんとかしずくちゃんとかに対してタメ口になることもあるし、相手もそれを容認してるわけなんだから、別に外野がその関係にとやかく言う必要ないわ】

【推しが舐められないか不安なのかもしれないけど、先輩後輩の関係を強調するのも違うと思う。くるるんの考え方でいい】

【出たよ杞憂民。相当限度を越さない限りは推したちが仲良くしてる姿を見るだけに留めておくべきだし、こういう声が三期生に届くと先輩たちと絡みにくくなるじゃん】


「まあ、これに関しては色んな意見があるとは思うけど、タレント側からお願いするのは先輩後輩って立場や関係を押し付けないでもらいたいって部分かな? それと、リスナー同士で喧嘩しないでほしいってことくらいか。俺たちも少しずつ相手と関係を深めて、俺たちなりの関係性を築いていくからさ。その辺を温かい目で見守ってもらえると助かる」


 【了解!】や【わかった!】という元気かつ肯定的な返事のコメントを見ながら、リスナーたちへと軽い注意喚起を行う枢。

 どうせならば、と考えた彼はそこからもう一歩踏み込んだお願いと注意を行っていく。


「あとこれは追加でお願いしたいことなんだけどさ……『トライヴェール』の三人に【○○先輩とコラボしてください!】って言うの止めてくれな。特にオリオンさんに対して、俺とコラボしてほしいって意見が多く寄せられるかもしれないけどさ、マジでデビュー直後のこの時期にそういうことを言うのは止めてほしい」


【あ~……だよね。なんか結構リプとかで送ってる人いたけど、どうなの? って俺も思ってた】

【期待する気持ちはわかるけど、デビュー直後のこの時期からそういう要望を送るのは無粋だよね】

【そもそもVtuber界隈には初コラボは同期とやるっていう暗黙の了解みたいなのもあるしな。それを破ったら叩かれる気しかしないわ】


 コメントでも出た『初コラボは同期と行う』というV界隈の暗黙のルールについてだが、これは決して何の意味もないただの儀礼というわけでもない。

 なんの実績もない新人が何十万人ものチャンネル登録者を抱える先輩といきなりコラボすると、それを売名や登録者乞食として叩く者が一定数現れる。それを回避するためのルールでもあるのだ。


 他にも、同期同士の関係性が良好であることをアピールすることだったり、同期という関係性上、顔を合わせることが多くなる相手同士でお互いのファンの認知を高めたりといった目的もあるのだが……そういった諸々の事情を含め、事務所からデビューした新人は同期とコラボを行うことで次のステップに進む準備ができたと判断するという雰囲気がタレントとファン、双方に蔓延していた。


 自分や芽衣のような例外を除けば、そのルールを無視すると叩かれるような気しかしない。

 だから三期生たちには同期コラボに向けての準備を進めてもらうことだけを考えてほしいし、それが好意や期待からくるものだったとしても、リスナーたちにもその邪魔をしてほしくないと枢は考えている。


 自分の立場というか、面倒事を一手に引き受けるキャラのお陰でリスナーたちへと注意を促してもとやかく言われないポジションを活かして彼らへとお願いをしながら、枢は薫子から聞いた、本日の『トライヴェール』の話し合いについて思い返していった。


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