早いもので、一週間が経ちました

 ――それから一週間が経つのは、一瞬のことだった。


 楽しい時間は早く過ぎるとはよくいったもので、三期生のデビューに期待を寄せるファンたちにとっては、告知から初配信までのこの時間は本当にあっという間に感じられたことだろう。

 それは零たち【CRE8】所属タレントも同じで、特に二期生たちは初めての後輩の誕生の瞬間を今か今かと待ち侘びていた。


 一応、名前とプロフィールの公開からの三期生たちの行動をここに記しておこうと思う。


 最も活発的に情報を発信していた(内容を理解できるとは言ってない)のはマナこと紫音で、定期的にSNSに呟きを投稿し、それを通じて自身のキャラクター性をファンたちに伝えていった。

 その独特の内容を目にしたファンたちは困惑や驚きを感じつつも今まで【CRE8】にはいなかった不思議系の少女である彼女を面白がり、投稿頻度の高さも相まってか、SNSのフォロワーは三期生で断トツのトップという状態だ。


 その姉であるメグ・ハウンド……伊織は、彼女とは逆にあまり呟きを投稿することはしていなかった。

 偶にする投稿も初配信への緊張を吐露するもので、堂々としている妹とは真逆のビビり系の姉というキャラクターを感じ取ったファンたちはこの『こいぬ』と『おおいぬ』のキャラクター対比を楽しんでいるようだ。


 そして最後の一人、オリオン・ベテルギウスに関しては……今現在も完全に謎のままであった。

 公式サイトに掲載されているプロフィール以外の情報はまるでなし。どんな性格のキャラなのかどころか、男性なのか女性なのかすらわかっていない状況だ。


 SNSへの投稿に関しても全くしておらず、同期の投稿をリツイートするくらいのもの。

 初配信を控えた今日、初めてその時間や順番を記したスケジュールと共に【よろしくお願いします】の言葉と共にみんなに会えることを楽しみにしている旨の文章を投稿したくらいで、何もかもが完全に謎に包まれていた。


 自由奔放かつ不思議ちゃんなこいぬ座とそんな妹に振り回されるおどおど系のおおいぬ座、そして、全ての情報が謎というミステリアスなオリオン座。

 この不格好なように見えて意外とバランスが取れている大三角形たちこと『トライヴェール』が遂に、ファンたちの前に姿を現そうとしている。


 初配信は【CRE8】本社で行われることになっており、三期生たちは事務所のスタッフに見守られながらのデビュー配信を行うことが決まっていた。

 一期生と二期生の先輩たちは、それに合わせて本日は配信をお休みすることになっている。

 これは後輩たちの初配信の邪魔にならないようにという事務所側及びタレントたち本人による配慮があっての判断であり、【CRE8】は一丸となって三期生のデビューを成功させようと尽力していた。


 さてさて、そんな事情があると説明したところで、配信をお休みしている零たちが何をしているのかも解説しておこう。

 何を隠そう、事務所に集まっているタレントは『トライヴェール』の三人だけではない、彼らもまた本社にやって来ているのだ。


 薫子からの提案で、希望者は事務所に集まって三期生のデビュー配信を別室で見守れることになっていた。

 こうすればリレー形式の配信が終わった後で三期生たちも順番に挨拶に行けるわけで、ガワと魂、それぞれの自己紹介が同時にできるわけだ。


 零たちも同期や先輩たちと一緒に後輩のデビューをわいわい騒ぎながら見守れるのは楽しいだろうし、感想を言い合うこともできる。

 SNSへの感想投稿は禁止されていないので、ファンたちとも興奮を分かち合えるし……一人で見るよりもみんなで見た方が盛り上がるのは間違いない。


 というわけで、配信視聴メンバーの一人として名乗りを上げた零は、同じく希望した面々と共に事務所へと集まっていた。

 集合したメンバーはそこそこの数で、事情があって来られなかった者たちからは無念さをにじませつつも楽しんでほしいというメッセージが送られてきている。


「三瓶さん、残念だね。わかってはいたけど、二期生の中で一人だけ参加できないのは可哀想……」


「やっぱり距離の問題ってこういう時大きいよなぁ……」


「仕方がないよ。その分、私たちが楽しんで盛り上げていくさ~!」


 二期生の中で唯一後輩のデビュー配信の見守り会に参加できないスイからのメッセージを思い返しながら、有栖と沙織と会話する零。

 社員寮住まいの三人は一緒に事務所に行って、そこで他のメンバーと合流する予定だった。


 天は先に事務所で待っていると聞いているし、二期生は予想していたメンバーが参加する形になっている。

 仕方がないとはわかっているが、一人で後輩のデビュー配信を見守っているスイが可哀想だなと思いながら本社に到着した零は、スタッフたちが用意してくれた配信見守り用の部屋へと通されると共に、そこで待っていたメンバーに挨拶をした。


「どうも、遅くなりました。もう参加者はみんな集まってる感じですかね?」

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