見守り隊メンバー、集結!

「おいっす~。あんたたちが最後っぽいわ。他は全員、集まってる感じね」


 零の言葉に真っ先に反応したのは天だ。

 この中で唯一の二期生である彼女が零たちが来るまでの間、先輩たちに囲まれて緊張していたのではないかと心配していたが……このリラックス加減を見るに、それは杞憂だったかもしれない。


 普通に話しやすい先輩もいるし、先輩後輩といってもそこまでがっちりとした上限関係があるわけでもないしなと思う零へと、どう考えてもだとは思えない先輩の筆頭が声をかけてくる。


「んぼうや~! 有栖ちゃんと沙織ちゃんもこんばんは~! いや~、遂にこの日がやってきたっすね! なんかこう、そわそわしちゃうっすよ!」


「落ち着いてくださいよ、加峰さん。まあ、キャラデザに参加してる側の人間としては興奮しちゃうって気持ちもわかりますけどね」


 普段にも増して落ち着きがない梨子の反応に苦笑を浮かべつつも、彼女の心境に理解を示す零。

 『トライヴェール』の主なデザインは薫子が担当していたとは聞いているが、梨子も多少なりともその作業に参加はしているはずだ。


 蛇道枢ほどではないだろうが、やはり自分がデザインしたVtuberがデビューする時には緊張や興奮といった感情を抱いてしまうのだろうなと思う零のすぐ傍では、有栖が陽彩と話し込んでいた。


「有栖ちゃん、もう三期生の人たちに会ったって本当? どんな人だった? 怖くない?」


「大丈夫、そんな怖い人たちじゃあなかったよ。まあ、零くんにとっては別な意味で怖い人たちかもしれないけど……」


 後輩と顔を合わせて早々に燃やされた零のことを引き合いに出しつつ、陽彩の質問に答える有栖。

 紫音や伊織も彼女たちとこんなふうに仲良くなってもらえるなといいなと思いながら視線を逆方向に向ければ、沙織と天と話をしている澪の姿が目に映った。


「さっき聞いてみたんだけど、梨子さんもオリオン座のことは何も知らないみたい。薫子さんが一人でデザインしたから、どんな姿なのかもわからないんだってさ」


「挨拶に来た三期生の子たちもそこは教えられないって言ってましたね~。聞いた感じ、しっかり者だってことはわかったんですけど、それだけかな~……?」


「他にわかってんのは社員寮には住まないってことくらいのものか。謎に包まれた『トライヴェール』最後の一人がそのを脱ぐ! なんちって!」


 ダジャレ……というより、オヤジギャグレベルのくだらなさを誇る澪の発言に寒気を覚えた零がぶるりと身を震わせる。

 春が近付きつつあるとはいえ、まだまだ季節は冬なんだな~……と、わざとらしく遠くを見つめながらそんなことを思った彼は、ここに集まったメンバーを見渡しながら不参加者たちについて考えていった。


(地元に住んでる三瓶さんとふたご座の先輩は来れないって話だし、後田先輩も今日は無理って聞いたな。ビッグ3の先輩たちも忙しいって薫子さんは言ってたけど……)


 それぞれの理由で残念ながらこの見守る会に参加できないメンバーの情報を思い浮かべていく零。

 まあ、事情は人それぞれだし、特に3Dモデルを手に入れて仕事の幅が広がった結果、多忙を極めているビッグ3が欠席するのは仕方がないと思っていた彼であったが……?


「うっひょ~い! 誰か酒持ってこ~い! んで、私にお酌して! かわいい女の子に接待してもらいたいんじゃ~!」


「……あの人、なんでここにいるんですかね? ビッグ3は忙しいって話は何だったんですか?」


「あ~……ほら、流子ちゃんの場合は案件とか敬遠されがちでしょ? 3Dになって暴れ具合が増しちゃったから、他の二人ほど仕事のオファーが来てないっていうか、なんていうか……ね?」


 大型モニターの正面に置かれているソファーのど真ん中に座し、非常にご機嫌な流子の姿を目にした零が深いため息を吐く。

 やりたい放題という言葉がぴったりの彼女の様子に今日の主役は誰だと思ってるんだと思う彼の方へと振り向いた流子は、そこに集まっている女性陣を見つめながらじゅるりと音を鳴らして涎を啜りつつ、言う。


「おっほ! これはこれは、きゃわいい子が揃ってますなぁ……!! 女の子だらけのパ~ラダイスではあ~りませんか……!!」


「……今日の馬場さん、いつもに増してぶっ壊れてませんか?」


「ほら、今日は玲央ちゃんがいないから調子に乗ってるんすよ。天敵がいないから好き勝手できるって、もうご機嫌でご機嫌で……」


「ああ、なるほど……」


 それで納得してしまう自分が嫌だと思いながら、再び流子へと視線を向ける零。

 わかりやすく鼻の下を長くしている彼女は、ここに集った面々へといやらしい視線を向けながらこんなことを言う。


「むふふふふ……! 右手にたらばのHなたわわ、左手にロリ巨乳のみおっぱい! 膝の上にはきゃわいいきゃわいい有栖ちゃんの小っちゃなお尻を乗っけながら新たなハーレム要員のデビューを見守る……最高の一時だな!」


「……どうします? そろそろシバいておきましょうか?」


「あ、玲央ちゃんからハリセン預かってるんでそれ使ってください。多分、こうなるだろうって予想してたみたいっすよ」


「どうも。そんじゃ、先輩からの許可を得たってことで遠慮なく――!」


「おんぎゃあああっ!? てめっ、零っ! やはり私のハーレム計画を邪魔するのは貴様であったか!!」


 流石に暴走がひど過ぎるぞと、梨子から受け取ったハリセンをフルスイングして流子へとツッコミを入れる零。

 流子から憎悪と憤怒に満ちた視線を向けられる彼であったが、それを華麗にスルーするとその肩を叩きながら、満面の笑みを浮かべながら、口を開く。


「馬場先輩、落ち着きましょう。今日は三期生の初配信の日です。こんな日に先輩が暴れ回るもんじゃない、そうでしょう?」


「うおっ!? こいつ、またプレッシャーを仕掛けてきやがって……! しかし、そう何度も押し切られる私じゃあ――」


「あと、誰の膝の上に誰の小っちゃなお尻を乗せるんだって? もう一回言ってもらえますかね?」


「ッスゥ……聞き間違いじゃないかな? そんな、ねえ? 後輩がデビューするっていう大事な日に、そんなセクハラまがいのことを言う先輩なんているわけないじゃないっすか! 阿久津くんってばやだな~、もう!」


 結構、とばかりに笑みを浮かべたまま、流子へと頷く零。

 有栖が絡むとやっぱりこいつの迫力は三割増しになるよな~……と思う一同へと、ハリセンという名の武器を手にして場を仕切る零が言う。


「はい。それじゃあ皆さん、そろそろ一番手であるマナさんの配信が始まりますから、静かに見守りましょうね。後で挨拶に来た時も優しく接してあげてください……わかりましたね?」


 優しいけどそこそこ有無を言わせない迫力が今の零にはある。

 とりあえず、今は逆らわないでおこうと揃って頷いたメンバーたちは、大人しくモニターの前に座すと、これから始まるマナ・ハウンドの配信を見守るための準備を整えていくのであった。

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