お前ら、まともに会話とかできるの?

「ひどい目に、遭った……どうして俺がこんな目に……?」


「デカいおっぱいに目移りするのが悪いのよ。貧乳のコンプレックスを刺激しやがって……!」


「べっ、別に目移りなんてしてねえし! 人聞きの悪いことを言ってんじゃねえよ、三下!」


 そうしてアイキャッチが終わって突入したBパートは、枢と愛鈴の罵り合いからスタートした。

 心なしかダメージを負っているように見える枢が愛鈴と言い争う中、議題を元に戻すかのように咳払いをした早矢が一同へと語り掛ける。


「え~、今の紗理奈ちゃんのお手本は論外として……枢くんの対応は上手だと思いました! とりあえず、お手本を参考にみんなで三期生の後輩ちゃんたちとおしゃべりできるよう、練習してみましょう! 枢くん、判定員をお願い!」


「別にいいですけど、またふざけたりしないでくださいね。折檻されるのも炎上するのも嫌なんで」


「安心しな、そういう時のためにこいつを用意しておいた。問題があると思ったら、遠慮なく使いな」


 先の紗理奈からの扱いを思い返した枢が懸念点に言及する中、マコトが用意したハリセンを彼へと手渡す。

 相手が問題行動を取った場合は即座にこれでツッコんでやれと、そんな姉貴分からの無言のメッセージを受け取った彼は頷きを見せ、早速先輩と同期たちとの会話練習の相手役として、彼女たちと一対一で話し始めたのだが――?


「え~、あ~、え~……す、好きなゲームとかって、ある? ぼぼ、ボクはFPSとかが好きで、こここ、後輩くんも興味があるなら、今度一緒にカジュアルマッチ配信でもどうきゃにゃ……? あぅ、噛んじゃったぁ……」


「しずくちゃん、落ち着いて。話題としては完璧だったから、あとは落ち着くだけで問題ないレベルまでいけるはずだよ。あと、カミカミウオミーのノルマ達成おめでとう」


「何か食べたいものとかある~? 飲み物足りてる~? 会社のお金で食べられるから、遠慮せずに頼んじゃってよ~! あと、お姉さんのおっぱい、揉んでみる~?」


「前半の気遣いは完璧なのに後半セクハラを仕掛けてくるの止めてくれませんかね? 俺相手だからやってる? たら姉は俺を燃やす気なのかな?」


「まあ、肩から力を抜けよ、ルーキー。Vtuber活動、山も谷もあるが……こんな自分がどうにかなってるんだから、お前さんも大丈夫さ」


「義母さんはどの立場から言ってるんですか? そんなキャラじゃないでしょ? っていうか、あんたはサボり過ぎててまともにVtuber活動してるとは言い難いだろうが!」


「うふふ……! そんなに固くならなくて大丈夫だからね。リラックスして~、今日は一緒に楽しみましょうね~……!」


「……なんだろう、どうしてだか牛尾先輩が言うと、どこかいかがわしい雰囲気になるんだよな……?」


「この後、二人で抜けてどこかに――」


「左右田先輩は同じネタを擦らないでください。天丼は結構です」


「枢くん、また大きなおっぱいに目を奪われてたね? そんなに巨乳が好きなのかな?」


「勘違いです。だから黒羊化を解いてください。あと、後輩との会話練習をしてください……」


「お前たちにこれだけは言っておく! 酒は飲んでも飲まれるな! 私みたいになるぞ!!!」


「教訓が重いんだよ! 大事なことだけど、お前が言うと笑えねえんだよ!!」


「ぐへへ……! か、かわいいねぇ……! 今日は何色のパンツ履いてるのか、へぶっ!?」


「……しまった。もっと早くに叩きのめしておくべきだったな」


 ――とまあ、ご覧の有様である。

 まともな会話ができた人間がほぼいないというこの異常事態に、練習を見守っていた早矢もマコトも苦笑いだ。


 ツッコミ疲れて肩で息をするようになっている枢は深いため息を吐くと、二人へと振り返ってこう問いかける。


「あの、先輩? これでまともな歓迎会とかできるんですか? ぶっちゃけ、無理臭いとしか思えないんですけど……?」


「う~ん……まあそこは今後の課題というか、実際に後輩ちゃんたちのキャラがわかってから練習を重ねていくということで……枢くん相手だからふざけた人もいるだろうしさ」


「いっそのこと、ハンマーでも渡しておくべきだったね。そういう奴らの息の根を止められただろうに」


「そうなると俺が犯罪者になるんでハリセンで良かったです。少なくとも、三、四人は消えてましたから」


 なかなかに物騒な会話を繰り広げる三人は、結構本気でその案について話しているようだ。

 先の練習でふざけた面子(特に乙女)が戦々恐々とする中、練習相手を務めていた枢がはたとこんなことを言う。


「ああ、そういえばなんですけど、今こうやって練習してて気になったところがあるんですよね」


「おっ、何々!? 枢くんの提案ならまともだろうし、ちゃんと聞かせてもらうよ!」


「……俺が信頼されてるのか、他の先輩方が信用されてないのか、どっちなんだろうなぁ……?」


 多分、後者の比重が強いんだろうなと思いながら、咳払いをして気を取り直す枢。

 先輩と同期たちからの視線を浴びて少しだけ緊張しながら、彼は地味に気になっていた部分についての議題を彼女たちに持ち掛ける。


「今の会話、先輩方はほとんど女性が相手だと思ってやったと思うんですけど……三期生に男性が入ってくる可能性もあるんじゃないですかね? その場合、どうしますか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る