席の部分も、どうすんの?

「人数は……聞いてないね。何人入る予定なのかな?」


「一期生が八人でしょ? 次の二期生が五人だから、三人減ってるってことになってて、それに合わせるとしたら……二人?」


「流石にそれは少ない気がしない? 三人とか四人がちょうどいいんじゃないかな?」


「人数が気になるのはわかるけど、そこはわかってからでよくない? 具体的にお店の予約を取るわけでもないんだからさ」


「あ、いえ、そうじゃなくって、やっぱり席の割り振りとかを考えなくちゃいけないんじゃないかなって。例えばですけど――」


 人数という地味に気になるが、今は気にしても仕方がない部分についての疑問を提示した芽衣が、両隣に座る枢としずくとの距離を少し縮めるように手招きする。

 疑似的にこの三人を三期生として扱っているのだなと見守る面々が理解する中、彼女は具体的に気になっている部分について語り始めた。


「こういう三人が入ってきた場合、席の割り振り方によっては真ん中の人がおしゃべりしにくいと思うんですよね。左右の人たちは隣の人と話せばいいけど、真ん中は難しいし……」


「ん~、確かに。でも、真正面の人が話してあげればいいんじゃない?」


「その場合はずっと一対一で話すことになるわけで、それはそれで気疲れしちゃいそうっていうか……新人さんたち全体に話しかける場合も特に注目を集める場所ですし、こういう席に関しても考えてあげなきゃダメなんじゃないかなって……」


「なるほど……! 言われてみれば、そういうこともあり得るかもね……!」


「いっそのこと、三人を離して座らせてみる? そうすれば、先輩たちに囲まれておしゃべりできるわけだしさ」


「ぼ、ボクはそれにも問題がある気がするな。言っちゃ悪いけどボクたち、コミュ力とか人との接し方に関しての振れ幅が大き過ぎるもん。枢くんとか夢川さんとかのコミュ強に当たったらいいけど、ボクとかしゃぼんさんみたいなコミュ障が傍に座った場合、新人さんが地獄を見る可能性が高くないかな……?」


 ああ……と、しずくの意見に若干の呻きを漏らしながら納得してしまう一同。

 自分、あるいは周囲の人間のコミュニケーション能力の低さを理解しているからこそ、その部分を無視できない彼らは、ここまで考えていなかったとても大事な点について話し始める。


「そもそもなんですけど、新人さんとまともに話せる人ってどれくらいいるんですか? っていうか、先輩方はまともに会話とかできます?」


「おまっ!? 流石にそれは私たちを舐め過ぎてるわ! 新人ちゃんと楽しくおしゃべりすることくらい、できらあっ!!」


「そうっすよ! 坊やは流石に自分たちを甘く見過ぎてるっす! 自分たちもこれまでVtuberとして活動してきてるんすから、会話デッキの一つや二つくらいは常備してますって!」


「わ、私は不安かも……先輩って立場から人とお話したことなんてないし、どんな感じでお話すればいいのかわからないな……」


「ボクも同じく不安です……」


「う~ん……よし、わかった! ならちょっとあたしと枢くんがお手本を見せるから、こんな感じでやるんだって参考にしてみて!」


「えっ? 俺? なんで急に巻き込まれてんの……?」


 なんだか不安しかない同期や後輩たちの返答を聞いた紗理奈がぽんっと手を叩くと共に枢を指名してのお手本を教授し始める。

 どうして自分が巻き込まれたんだと思いながらも彼女に従った枢は、紗理奈と共に後輩との会話の例を見せていった。


「はじめまして~! 三期生としてデビューさせていただきました、左右田紗理奈で~す! 以後、よろしくお願いしま~す!」


「あ、どうも、はじめまして。俺は二期生の蛇道枢です。こちらこそ、よろしくお願いしますね」


 自分が先輩の側なのかよと心の中でツッコみつつ、紗理奈と会話を続けていく枢。

 だがしかし、段々とその話の内容はおかしな方へ進んでいって……?


「あっ、知ってますよ~! 蛇道先輩っていつも燃えてますよね~! きゃー! 私、ファンなんです!」


「あはははは……なんか変な知られ方してるんすね、俺って」


「まあ、蛇道先輩といえば炎上、みたいなところありますもんね~! ……それとやっぱりかな? 羊坂先輩と本当に付き合ってるのか、私、気になります!」


「いやいや、芽衣ちゃんとはただの友達ですよ、友達。それ以上でもそれ以下でもないですって」


「え~、そうなんだ~! いが~い! ……じゃあ、私が先輩の彼女に立候補しちゃおうかな~……!」


「……はい?」


 一瞬にして流れがおかしくなったことに困惑する枢へと、体を寄せる紗理奈。

 そのたわわな胸を強調しながら、どこか大人っぽさを感じさせる上目遣いで枢を見つめながら、彼女は甘い声で彼へと囁く。


「蛇道先輩ってぇ、巨乳好きなんですよね~? だったら私、結構自信あるんだけどな~……? 二人で抜け出して、確かめてみません? 私、枢先輩ともっとなりたいですし……!」


「はいストップ! スト~ップ!! おかしいっすよね? なんですか、そのムーブ!? 完全に彼氏を惑わせる悪女じゃないっすか! これが何のお手本になる……ぐっ!?」


 明らかにおかしい言動をし始めた紗理奈へとツッコミを入れつつ、演技を終了する枢。

 どこからどう考えても浮気女ムーブだったじゃないかと若干焦りながら怒る彼であったが、不意に脇腹を掴まれると共に背後から響いた冷たい雰囲気を感じ、身を竦ませた。


「……枢くん? ちょっと、お話があるんだけど……こっちに来てくれるかな?」


「いや、芽衣ちゃん!? 今の俺は悪くないよね!? どっちかっていうと悪いのは左右田せんぱ――」


「こっちに、来てくれるかな?」


「……はい」


『ただいま、映像が乱れております。回復するまで少々お待ちください……』


 有無を言わせぬ迫力に圧され、引き攣った表情を浮かべながら頷くしかなくなった枢が乾いた声で返事をする。

 その後、アイキャッチ代わりの画像(食事を楽しむ一同の姿)と共にそんな注意書きが表示され、またしてもクリアニは場面転換を迎えるのであった。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る