【CRE8】タレント、集合!(全員集まるとは言ってない)

「……というわけで、お前たちに集まってもらったわけだ。楽しい飲み会をするための案を、どしどし出してほしい」


「既に歓迎会って体を成すつもりもないんですね。最初からわかってましたけど……」


 場面が切り替わり、真っ暗な会議室の中で机に肘をつき、手を組んだポーズというどこか見覚えがある格好をしている乙女が集まったメンバーへとそんなことを言う。

 その言葉にツッコミを入れた枢は、続いて招集をかけられたメンバーと簡単な掛け合いを見せ始めた。


「タダ酒が飲めるって聞いて駆け付けたっす! 対戦、よろしくお願いしま~すっ!!」


「引きこもりのダメ人間のくせに、こういう時だけは決断が早いですよね。普段の仕事もそのくらいの勢いでやってくれません?」


「ご、ごめんね……ボクも引きこもりのダメ人間だし、枢くんに迷惑かけちゃってるし……」


「しずくちゃんはいいんだよ。俺はこのダメを超越した何かことしゃぼん義母さんに言ってるだけだから」


「マイサンッ!? ダメを超越した何かって何なんすか!? っていうか普段に輪をかけて辛辣じゃない!?」


 お決まりのやり取りをママことしゃぼんと繰り広げながら場違いさを感じているであろうしずくにフォローを入れれば、焦り気味のしゃぼんの口から悲鳴にも近しい叫びが飛び出す。

 そんな賑やかなやり取りとは対照的に、この集まりに参加することに対して引け目と罪悪感を感じている者もいるようで……?


「酒……飲み会……悪酔い……うっ!? あ、頭がっ! 頭が割れるように痛いっ!! 止めろぉぉっ! 思い出したくない過去を思い出させるなあああっ!!」


「一人で暴走してんじゃねえよ! っていうか、そうなるんだったらどうしてこの会議に参加した!?」


「夢川先輩から呼び出されたら断るわけにもいかないでしょ!? そんな度胸が私にあると思ってんのか!?」


「根が真面目っていうよりかは三下根性が染みついちまってるだけじゃねえか! 堂々とない胸を張って答えてんじゃねえ!」


 酒というワードに嫌な思い出を持つ愛鈴へと怒鳴り合いに近しい会話を繰り広げつつ、しっかりとツッコミを入れてやる枢。

 まあ確かに、ビッグ3の一角であり事務所を代表するタレントでもある早矢からの誘いを彼女が断れるわけもないよなと思いながら、彼は次の人物へと視線を移す。


「あらあら~! なんだかみんな元気ね~! 見ていて楽しいわ~!」


「……あの、牛尾先輩。言いたくないんですけど、初絡みの場がこんなところで本当に良かったんですかね?」


「うふふ、枢くんは心配性なのね。大丈夫よ、な~んにも心配しなくていいから、ね?」


「……ど、独特過ぎる雰囲気のお方だ。ペースが読めねえ……」


 最後の参加者であるおせろののんびりとした雰囲気に、ツッコミの入れにくさを感じた枢が呻く。

 他の先輩や同期たちとは全く違う初絡みの先輩をどう扱えばいいのかわからずに苦悩する彼の傍では、既に役目を放棄したマコトが缶コーヒーを片手にそのやり取りを見守っていた。


「いや~、枢のお陰で楽ができていいわ~。もうあいつ一人でいいんじゃないか?」


「普段の十倍くらい頑張ってますね。大変そうだなぁ……」


「そう思うのなら助けてくれませんかね? 負担が半端ないんですけど!?」


 どこか呑気さを感じさせるマコトと芽衣の言葉にもツッコミを入れた枢が、もしかしてこの回のツッコミ役って自分しかいないのかと戦慄を覚える。

 そんな中、おせろ、たらば、紗理奈の三人を自分の対面側の席に座らせつつ、芽衣を隣へと誘導した乙女が満足そうな表情を浮かべながら口を開いた。


「我ら【CRE8】が誇る三大巨大山脈を眺めつつ、芽衣ちゃんのちっぱいを愛でる……よきかな、よきかな! さて、これで出席者は全員揃った?」


「そうっすね。残りのメンバーは予定があったり、遠距離だったりで参加できないそうです」


「あっ!? 枢、テメー! 折角私が芽衣ちゃんの席を確保しておいたのに、お前が座ってんじゃねえよ! 私と芽衣ちゃんの間に挟まってくんな!!」


「は? 先輩の方こそ、俺と芽衣ちゃんの間に挟まんの止めてくんないっすかね? 殴り倒しますよ」


「あっ、ッスー……はい、了解です。なんか、すんませんでした」


 割と堂々と言い返すと乙女って引っ込むんだなと学びを得つつ、嫁を守るために彼女と芽衣との間の席に座った枢が頷く。

 空になったコーヒー缶をゴミ箱へと放り投げたマコトもまた席に着く中、会議を取り仕切る役目を担う早矢が、出席者の顔を見回してから話し合いの開始を宣言した。


「それじゃあ、歓迎会についての会議を始めます! 意見を出し合って、私たち……じゃなくて、三期生に楽しんでもらえるような会にしようね!」


「個人的な欲望は隠してくださいね? っていうか、なんか場面転換の時もこんな引きだったような……?」


「気にしない、気にしない! さあ、話し合いを始めるぞ~!」


 若干メタい発言をした枢を宥めつつ、出席者から意見を募る早矢。

 というわけで、こんな緩い雰囲気の中、三期生歓迎会についての話し合いがスタートした。

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