二期生・羊坂芽衣について

「芽衣ちゃんは本当にかわいい子だよね~! 保護欲をそそるっていうか、なんて言うかさ~!」


「でも、芯がしっかりしてる子でもあるよね。強くなりたいっていう夢を叶えるために、一生懸命頑張ってる」


「そこもいいのよ! 実にいい! 気弱な女の子が勇気を振り絞って目標に向かって突き進む……その姿からしか摂取できない尊さがある!」


「気持ちはわかるけど……なんだろう、こいつに同調したくないって気分しかしない」


 弱気ではあるが、心の奥底に秘めた想いの強さは二期生でも随一だと芽衣を評する三人。

 リアほどではないだろうが、第一印象と現在の印象とが大きく違っているであろう後輩の一人である彼女の性格について、マコトが更に話し続ける。


「同性が苦手だっていうのに、わざわざそんな連中が集まるVtuber界隈に飛び込んできた時点で、結構ガッツあるなって思うよ。愛鈴もそうだけど、アタシはそういう心意気がある奴が好きなんだよな」


「なぬっ!? マコト、貴様さては芽衣ちゃんを狙っているなっ!? そうはさせんっ! そうはさせんぞっ!!」


「なんでそうなる。いや、もうツッコむのも疲れてきたんだが?」


「う~ん……二人が芽衣ちゃんのことを好きだって気持ちはわかるけど、無理なんじゃないかな? もうしてるでしょ?」


「デュエアアアアアッ!! それを言うなああああっ! 私は諦めてない……! 寝取ってやる、寝取ってやるぞぉ……!!」


「……待ってくれ。なんかアタシも巻き込まれてないか?」


 天然な早矢と、奇声を上げて暴走状態に入る乙女と、困惑気味なマコト。

 彼女たちが三者三様に反応を見せる中、一番まとも(?)な雰囲気の早矢が難しい表情を浮かべながら口を開く。


「これは正確には芽衣ちゃんだけの話じゃあないんだけどさ……事務所初の男女CPとしてファンのみんなから認知されるのって、どういう気分なんだろうね?」 


「言われてみるとそうだな。アタシたちにはそんな経験ないし、本気でわからないや」


「そもそも、私たちの場合はあんまり男性Vtuberと絡んでこなかったもんね。事務所の中に男がいなかったってこともあるけど、本当に未知の領域だ」


 という事務所内で唯一にして初の男女CPを担っている芽衣は、ある意味ではビッグ3ですら経験していないことを経験しているということになる。

 別に二人がてぇてぇ売りをしているというわけではないのだが、周囲からそういった目で見られることに関して、どう思っているのか? という部分が気になっている三人は、思い思いの意見を述べていった。


「別にそんな意識してるとは思わないけどな。あいつらは普通に話をしたり遊んだりしてるだけで、カップルみたいに振る舞おうとはしてないと思うぞ」


「そうなんだよね。あの二人の場合、素がイチャついてるっていうかさ……距離感がねえ、既に夫婦のそれなの」


「許せねえ……! かわいい嫁に加えてノーガード爆乳お姉さんまで侍らせているだなんて……! 片方寄越せ、両方とも寄越せぇ……っ!!」


「普通に考えてあれだよな。かなりの頻度で料理のお裾分けをしている時点で、ただのご近所さんを超えてるような気がする」


「私たちがこういうことを言うと他のCP推しの人とかに怒られそうな気がするけど、本当に仲がいいよね、あの二人。それでいてしっかり相手のことを尊重してるから、いいパートナーなんだな~って思うよ」


「お互いがお互いの足りない部分を補っているっていうか、長所を伸ばしてるっていうか……うん、そんな感じがする。そういうてぇてぇとかじゃなくって、普通に志を同じくする者同士の絆みたいなものがあるよな」


「芽衣ちゃんが守られてるように見えて、案外彼の方が芽衣ちゃんに助けてもらうこともあるみたいだしね。動画の編集とかサムネイルの作成に関しては、特にそんな感じらしいしさ」


「表でも裏でもイチャつきやがって……! やはり奴は許せねえ。私から何もかもを奪ったあいつから、芽衣ちゃんを奪ってやるからな……!」


「……断言するけどさ、お前、その言動が原因で近々燃えると思うぞ? 賭けてもいい」


 一人だけ完全に恨み節をぼやいているだけの乙女へとツッコミを入れるマコト。

 そんな彼女の言葉が本当に近いうちに現実になるのだが、この時点の乙女にはそれを知る由もない。


 ただまあ、「芽衣ちゃんを奪う」と言っているということは、既に彼女が他の誰かのものであることを認めているということになる。

 実質的な敗北宣言をしつつ、諦めの悪い悪役ムーブを見せる彼女の言葉に苦笑を浮かべながら、早矢はぱんっと手を叩いてこう続けた。


「じゃあもうちょうどいいし、最後の一人について話をしていこうか! 結構話すことがあるんじゃない?」


「まあな……アタシもそこそこ付き合いがあるし、この中では話をしてる方でもあるしな」


「許さん、許さんぞ、蛇道枢……!! 私から全てを奪った、憎きあんちくしょうめ……!!」


 話も大詰め、残る最後の一人。

 二期生だけでなく、現在の【CRE8】の中で唯一の男性タレントである蛇道枢の名前を出した三人が、彼について一度振り返る。


 そうした後で自分なりに感想をまとめた一同は、順番に彼のことを語り始めた。

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