悲報・私の部下たち、やっぱりめんどくさい

「……って感じで普通にしてたんで、特に心配することもないと思いますよ」


「ふ~ん、へぇ? ほ~お? そうかい、そんな感じだったんだ……鍋、美味しかったかい?」


「ええ、すごく。なんかいいっすね、誰かと食卓を囲むって」


 それは独身で恋人もいない自分への皮肉か、という被害妄想を抱きながら、星野薫子は甥である阿久津零から昨日のことを聞かせてもらっていた。


 別に野次馬根性でそうしているわけではなく、清川乙女こと馬場流子の不躾なツイートが炎上と波紋を呼んだことでその被害に遭った有栖を心配して話を聞いてみたら、何故だか昨晩は彼と鍋パーティーをして夜遅くまで楽しく過ごしたという話が出てきたので、急遽事情聴取をすることになったわけだ。


 昨晩の炎上の件について、零からも話を聞きたいから……と言ったら彼は快く面談に来てくれた。

 なんだか前にも似たようなことがあった気がするなと思いながら、薫子は甥へと質問を投げかけていく。


「まあ、話を整理しよう。昨晩、お前は有栖からお呼ばれしてあいつの家で二人っきりで鍋パーティーと洒落込んだわけだ」 


「ええ、そうですね」


「美味しくご飯を食べ、楽しく会話もして、その後で有栖のお陰で克服できたトラウマの象徴であるプリンもデザートとして持ち込んで、二人で食べたりもした、と?」


「はい。いい感じの出来だったって有栖さんも褒めてくれましたね」


「こたつでのんびり食休みした後で洗い物もして、その後であいつに言われてもう少しだけ一緒にいることになって……そこは間違いない?」


「間違いないですよ」


「うんうん。じゃあ、それを踏まえて質問するんだけど……その後、何をして過ごした? 包み隠さず教えてくれ」


 この流れは前にもあった。具体的に言えば、零と有栖がデートに行った時だ。

 若い男女が遊園地に遊びに行って、その後で延長戦にも臨んで、その後どうなったと尋ねたのはおよそ一か月ほど前だったような気がする。


 その時のことを思い返しながら、同時にデジャヴを覚えながら……真剣な表情を浮かべて零へとそう問いかけた薫子は、一瞬ぽかんとした後で平然とした様子で答えを口にした彼の話を聞いて――


「何をして過ごしたって……一緒に劇場版ドニャーもんを見て過ごしましたけど? んで、それが終わったら帰りました」

 

「やっぱりなああっ!! ふざけんなよ、お前らっ! なんでそうなるんだよ!? どうしてだよ!?」


 ――以前と同じように、困惑と怒りが混在した叫びを上げた。


「お前ら、その、もっとこう……あるだろ!? 若い男女が家の中で二人っきりだぞ!? っていうか零、そのシチュエーションで何もしないってのは男としてどうなんだ!?」


「いや、なんでそうなるんですか? もう、薫子さんまでCP脳にならないでくださいよ。そういうのはリスナーだけで十分ですって」


「このっ……アホンダラっ! ああ、どうして私がこんなヤキモキしなくちゃならないんだ……? 胃が、胃が痛い……っ!!」


 こうなることはわかっていたが、実際に直面するとツッコまざるを得なくなる。

 どうしてうちの甥と部下はこうなんだと、自分だったらそんな美味しいシチュエーションを無駄にするはずがないのにと思いながら、どこまでも冷静な零の態度に腹を立てた薫子が頭を抱えながら呻く。


「お前らはいったいなんなんだ……? くっつくなら早くくっついてくれ……止めないから、むしろ推奨するから……! 社内恋愛も認めるって大々的に掲示するから、もういい加減にしてくれぇ……!!」


「薫子さ~ん? 何を一人でぶつぶつ言ってるんですか? お~い、ちょっと~?」


 薫子の気持ちを知る由もない零は、唐突に俯いて独り言を呟き始めた彼女を心配そうに見つめながら声をかけている。

 どうして自分がこんなことを考えなくちゃいけないんだと思いながら、薫子は甥の口癖を真似するかのように叫んだ。


「お前ら、死ぬほど……っ! めんどくせえええっ!!」





 ……なお、その後に酔い潰れた状態で面談に訪れた流子はここでフラストレーションを溜めた薫子の怒りをもろに食らうことになり、流石に大反省したとか、しなかったとか。

 ついでにヤケクソになった薫子が社内恋愛は禁止ではないというお触れを各社員に通達した結果、大半の面々が困惑する中、一人の男がその内容が本当であるかの確認をしてきたとか、こなかったとか。


―――――――――――――――


短編なのですが、ギフトを送ってくださった方々の中からリクエストを頂くこともありまして、このお話も含めてそういったお声に応えるためにもう少しだけ続けさせていただきます。


早くや三期生を出したい気持ちもあるのですが、色々と忙しくなって本来の予定通り(STARMAPの方での掲載)に進めることが難しくなってしまいまして……本当に申し訳ありません!

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