一方その頃、炎上シスターズは……
「うわ~ん! 炎上した~っ! マヂムリ……ヤケ酒しよ……」
「新年一発目の炎上、おめでとうございま~す! 流石は流子ちゃんだよね~!」
「その流子ちゃんより早い坊やってなんなんすかね? 流石以上の流石ってことっすか……?」
「その話は止めてください! 今もその話題になると、有栖ちゃんの目が鋭くなって、思い出しただけで心臓が、心臓がぁ……っ!!」
「有栖ちゃん……うぐぅ! 悪気はなかったの! そんなつもりじゃあ! ああっ! 私をそんな目で見ないで! ちょっと興奮しちゃう……!!」
「う~ん、救いようなし! どうしようもないね~! にゃっはっはっは!!」
一方その頃、某所にある居酒屋の個室ではだめな大人たちが集まって鍋をつついていた。
メンバーはおじさん構文ツイートを芽衣(有栖)に送ったせいで大絶賛炎上中の流子と少し前に枢(零)を炎上させた天、そこにそこそこの頻度で炎上するサソリナこと澪とダメ人間筆頭の梨子という顔ぶれだ。
炎上した流子を慰めるために集まった(というよりも本人が慰めてくれと呼んだ)メンバーは各々ドリンクやら酒やらを飲みながら、嘆きと笑いという相反する様相を呈しつつ、箸を進めている。
その中でも一番酒が進んでいる流子が、おいおいと泣きながら隣に座る梨子の腹を揉み始めた。
「お~いおいおい! 炎上した私を癒してくれるのはこの柔らかさだけだ~! でも本当はおっぱいが揉みたかった! 巨乳爆乳を揉みしだきまくりたかったよ~! うお~ん!」
「流子ちゃんは本当にダメ人間っすね~……自分が言うくらいなんだから、相当っすよ?」
「ここに集まったメンバーってそこそこダメ人間だと思うんですけどね。特に酒癖と炎上に関するレベルでは、他の追随を許さないと思います」
「まあ、そんくらい尖ってなくっちゃVtuberなんてやってられないでしょ! 零くんみたいに色々気を遣ってても燃える時は燃えるんだし、やりたいことやったもん勝ちだよね~!」
「零の場合はな~、外的要因で燃えてるから平和な炎上が多いんだよな~。ダメなママとかうっかりで放火する同期とかさ~……」
急に素に戻った流子の一言を受けた梨子と天が苦し気に胸を押さえる。
そんな様子を楽し気に見ながら肉をパクつく澪に対して、半泣きの流子が訴えかけるように声をかけてきた。
「ね~え~! みおみお~! ちょっとでいいからおっぱい揉ませてよ~! 梨子さんのお腹じゃあ物足りないんだって~! 最ママとたらばのHなたわわに並ぶサソリナのロリ巨乳を揉みしだかせてよ~!」
「だめ~! 梨子さんのお腹で我慢しなさ~い!」
「うおぉぉんっ! どうしてだ!? なんでだ!? 前は気軽に揉ませてくれてたじゃあないか! さては男ができたな!? そいつに束縛されてるんだろ!? 俺以外の奴にその乳揉ませるなって言われてるから、私に揉ませてくれなくなったんだな!?」
「……むしろ逆なんだけどね。いなくなったから、色々と変わっちゃった感じ」
流子の叫びを受けた澪が緑茶が入ったジョッキを傾けながら自嘲気味に呟く。
その一言が発する重さに氷点下まで空気が凍る中、雰囲気を立て直すように天が必死に話題をすり替えていった。
「そ、そういえば、有栖ちゃんは何鍋を食べてるんでしょうね? 私たちもなんか鍋が食べたいなって感じでこの店入っちゃいましたけど、色々種類ありましたし……」
「ぶっ、無難に旨塩鍋とかじゃないっすかね!? あっさりしたのが好きそうだし、海鮮系もあり得るっすよね!」
「この時期は何鍋を食っても美味いからな~! あとはお酒があれば完璧だい!」
あせあせと焦りながら話題を転換した天に乗っかって梨子がそう言えば、気まずそうにしていた流子も日本酒を煽りながら大声を出してみせる。
そんな中、禁酒組の一人である澪が、口の中に入っていた白菜を緑茶で流し込んだ後でふとこんなことを言い始めた。
「っていうか、有栖ちゃん一人でお鍋を食べ切れるのかな? 前に一緒にご飯食べたことがあるけど、あの子って結構小食じゃない?」
「確かに。一人用の鍋セットとかありますけど、それでも多いかもですね……」
「そもそも家にお鍋があるんすかね? 自分もそうですけど、一人暮らしで土鍋とか使わないですし、持ってないんじゃないっすか?」
「零だったら持ってそうだけどね。案外、二人で鍋パーティーでもしてたりして」
流子がなんとなく発した一言を切っ掛けに、全員が顔を見合わせる。
暫し無言でそうした後、一同は一斉に噴き出すと共にこう言った。
「ないない! あり得ないですよ! あの零が、夜に女の子の家に行って二人きりで過ごすだなんて、流石にないですって!」
「そんなのもう付き合ってるのと同じじゃん! あたしだったら、そのままイケイケドンドンしちゃうよ~!」
「坊やのことですし、お邪魔するとなったら手土産にデザートの一つや二つは持っていくでしょうし、洗い物も手伝うでしょう。そうなったらきっとこの時間くらいまで有栖ちゃんの家に居ることになるんすよ? 流石にこんな遅い時間にいるのは……ねえ?」
「あはははは! だよね! そんなチャンスを見逃す男がいるわけないよね! 私が零だったらデザートは有栖ちゃんだ~! って襲うよ、間違いなく!」
「そうそう! ないですよ、ないない!」
「おじさん構文といい、流子ちゃんは頭の中がおっさん臭いんすよ。さっきの失言もそうですけど、そんなんじゃまた炎上しちゃうっすよ?」
自分で言っておきながらおかしいよなとこの場の全員+自分自身によるセルフツッコミを入れた流子が梨子と共にがぶがぶと酒を飲む。
酒を飲んでいない側の天はそんな二人のことを仕方がない人たちだな……と、苦笑しながら見つめていたのだが――?
「……でも、あたしの知り合いはその状況で絶対に手を出さない人だったしな~……その人と波長が合ってるっていうか、基本似た者同士な零くんだったら……」
「え? ……え?」
隣から聞こえてきた澪の意味深な呟きに困惑する天。
確かにあの零ならばこんな大チャンスでも有栖に手を出さない可能性……というより、逆にあいつが手を出す可能性の方が低いじゃないかと気付く彼女であったが、同時にもう一つ気になったことがあった。
なんだかすごく無念というか、腹立たしさを感じさせる今の呟きから察するに……澪も同じシチュエーションに遭遇したことがあるのではないだろうか?
その状況でこのロリ巨乳に手を出さないとか、あの人は相当に奥手なのか澪のことを大事に思っているのかどっちなんだ? と考える彼女であったが、深くは考えないことにした。
「ッスゥー……お鍋、美味しいですね」
「そうだね。やっぱ寒い日は温かいものに限るな~……」
温かいものを食べているはずなのに体の内側が凍えきっているのはなんでだろう?
そう思いながら、無心で箸を進める天は、そのうち考えることを止め、肉と野菜を貪るだけの存在と化すのであった。
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