こちら、クソマロ作りのプロです
「年が明けて、新年度も見えてきてさ。やっぱ進学とかもそうだけど、新社会人に関する悩みみたいなのも出てきてるみたいなんだよ。そういうのがマシュマロとして届けられてるんだけど、どうしても気になるものがあってさ……これとかなんだけど」
そう前置きをした後で、気になってしまったマシュマロを枢が画面に表示する。
その内容は以下の通りで、それを目にしたリスナーたちはつい変な声を出して笑ってしまった。
『就活が上手くいかないんでクソマロ作家になろうと思うんですがどうしたらいいですか?』
「百歩譲って就活が上手くいかないことに関する愚痴をこぼすならいいぞ? クソマロ作家になるってどういうことだよ、おい?」
【ただひたすらに枢を困らせるだけの仕事じゃねえかwww】
【人生やけっぱちになってませんかね……?】
【頑張れよ就活生、まだ希望はあるぞ……多分】
「なんだよクソマロ作家って? なんの生産性もない仕事……っていうか仕事じゃねえっつーの! 目指すんじゃねえ、そんなもの! ……って言おうと思ってたんだけどさ。ちょっと、ちょっとな? これ関連ってわけじゃないんだけど、こんなマシュマロも届いてやがってさ……」
『くるるんにクソマロを送る仕事で生計を立てています。月収三十五万です』
「結構稼いでる奴がいたんだわ! しっかり仕事になってたんだわ、クソマロ作家! 月収三十五万!? 俺、まだデビューして一年経ってないんだけど、そんなVtuberにクソマロ送るだけで月に三十五万貰えるの!? そりゃあ人気が出るわ!」
【俺より給料いいんだが??】
【その仕事、どこで紹介してもらえますか?】
【クソマロがビジネスになる時代か……】
「お前らだって目の色を変えるよな!? これだけで金を貰えるんだから、そりゃあそうなるよ! しかもな、これで話は終わりじゃあねえんだよ! これを見てくれ!」
『このマシュマロ送る仕事って出来高なんだけどさ、単価上がらんかな? くるるんからも言ってやってくれよ』
「別の企業も参入してるんだよ! 完全給料制と出来高制の二パターンがあるんだよ! 一つの企業だけじゃなくて複数が参入するような業界か、これ!?」
【クソマロの出来高とはこれいかに?】
【配信でくるるんが読んでくれたら給料が入るシステムなんやろうな……】
【前者は安定、後者はドリームか……どっちにするか迷う……】
「いやもうわかったよ。どうして俺のところにこんなにクソマロが届くんだろうなって、いつも不思議だった。けどこういうことだ。金貰って書いてる奴がいるんだ。これが仕事になってるんだ。頼むから廃業してくんねえかな? そうすればかなりマシになると思うんだ」
クソマロの多さの理由が見つかった枢が半ば呻くようにして懇願すれば、そのマロの内容も合わせて面白さを感じたリスナーたちが【www】や【草】といったコメントを大量に寄せ始めた。
死んだ目をしながら配信の盛り上がりを眺める枢はというと、疲れ切ったため息を吐きながら次のマシュマロを紹介していく。
「はい、というわけでね……金を貰ってクソマロを送ってくる奴がいるってわかった以上、こっちも厳しい目で精査させてもらうことにするわ。今までみたいに中途半端なクソマロでも、まあいいか~……とは、もうならないからな? 金が出てるんだったらこっちだってガチでいくよ! で、その厳しい基準を満たして面白いと思ったクソマロがあったから紹介するわ」
【くるるんがここまで言うとは……次のマロはかなりレベルが高いぞ……!】
【レベルが高い=クソ濃度が高い】
【ハードルを上げて下をくぐる戦法だったら炎上するな】
【金を貰ってクソマロを作るってことは、クソマロのプロだからな。クソマロソムリエである枢のお眼鏡に適うマロとはいかなるものなのか……?】
【今さらだけど、どうしてクソマロにここまで夢中になってるんだろうな、俺たち】
精査に精査を重ねた上で選んだ一通のクソマロを紹介するとの枢の言葉に、リスナーたちも期待を高めている。
本当に面白いのか? ハードルをくぐっていくタイプのマロなのか? この状況でどう枢がオチを作るのかと彼らが見守る中、配信画面にそのクソマロが表示され、そして――
『超合金ラブリー』
「……何一つとして意味がわからねえ! シンプルイズクソじゃねえか!!」
――とても悲しい、枢の叫びがこだました。
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