友達二人で、美味しく実食!

「あ、あのさ、今さらなんだけど、おせち料理とか作らなくて良かったの? これ、新年一発目の放送なんでしょ? ボク、あんまり録れ高とか意識してなかったんだけど、この回もしかしなくても地味過ぎない?」


「いいの、いいの! その辺はほら、あそこら辺にいるスタッフさんたちが編集という名の魔法でどうにかしてくれるから! ……ってか多分だけどある意味では今回よりも前回放送の方が大変そうだと俺は思うけどな」


『※枢くんの言う通り、愛鈴さんの回の編集は大変でした……』


 お待ちかねの実食タイム。そこに入る前にしずくがぽろりと不安を吐露すれば、即座に枢がフォローに入る。

 更にそこにかなりぶっちゃけたスタッフのテロップが入ることで見事なまでのギャグ展開が繰り広げられ、しずくの一言をきっかけに録れ高が発生した。


「いいかい、しずくちゃん。俺たちはね、ただ楽しく料理を作って、それを美味しく食べればいいんだよ。しずくちゃんはホイル焼きを作るの、楽しんでくれた?」


「あ、うん。それは間違いなく楽しかったよ。枢くんの教え方も上手だったし、こんなに美味しそうな料理が作れて嬉しかったしさ」


「それならもう大成功です。料理の作り方だけじゃなくて、料理をする楽しさも教えるのがこの番組の目的だからね」


「そっか……なら、いっか!」


 料理というものは、一度作って終わりではない。健康的な生活を維持するためには、継続してバランスの取れた食事を取り続けなければならないのだ。

 ただ料理を作るだけならばレシピ本を見ながらそうすればいい。くるるんキッチンの目的は、この経験を通して料理の楽しさを知り、これからも続けてみようと生徒としてやってきたタレントに思わせることであるとの枢の言葉に納得したしずくが笑みを浮かべ、頷く。


「ではでは、料理が冷める前に食べちゃいましょう! 今回は既に用意しておいたご飯と味噌汁を合わせて、鮭のホイル焼き定食にしてみました~! ぱちぱち~!」


「ぱちぱち~……! こうして見ると、しっかり料理できてるって感じがするね。ボクが作ったのは主菜だけだけどさ」


「それが大事なんだよ。メインディッシュが作ってて一番楽しいんだからさ。さっきも言ったけど、楽しまないと! そんで、作った料理を美味しく食べられれば更に良し、ってね!」


 白いご飯に豆腐とわかめの味噌汁、そこにメインディッシュである鮭のホイル焼きを加えれば、お店で出しても恥ずかしくない定食が完成する。

 自分が作ったとは思えないその出来に感動するしずくに笑みを向けながら手を合わせた枢は、彼女と一緒に手を合わせると、大声で食前の挨拶を口にした。


「「いただきます!」」


 元気よく挨拶してから箸を手に取り、早速自分が作ったホイル焼きを頬張るしずく。

 バター醬油+レモンという鮭と相性抜群の調味料と鮭自身の味が絡み合い、口の中で豊潤な味わいを生み出すことを感じながら、彼女はその感動を露わにして感想を述べる。


「美味しい! 鮭だけじゃなくて、キノコもすごく美味しいよ!」


「おっ! 気に入ってくれたみたいだね~! じゃあ、こっちも食べてみる? しずくちゃんは醤油とレモンで仕上げたけど、こっちはポン酢をかけたからまた違う味付けになってるよ!」


「あ、じゃあ、お言葉に甘えて……いただきます。はむっ……ん~っ! こっちも好き! バターとポン酢ってこんなに合うんだね!」


 塩味と酸味のハイブリッドである醤油+レモンもいいが、酸味を強めたポン酢もまた違った味わいと風味を楽しめていいなと頬を綻ばせて笑いながら言うしずく。

 文字通り、頬っぺたが落ちるくらいに美味しいこの料理が本当に自分が作ったものか逆に信じられなくなってきた彼女であったが、今度は自分を卑下することなく箸を進めていく。


「お魚とバター醬油の味で口がいっぱいになってきたところでご飯を食べて、お味噌汁を飲んでほっと一息ついて……ああ、すごい、なんだろう……? ホイル焼き単品でも美味しいけど、こうして定食にするともっと美味しく感じられるね……!」


「そうだよね。主菜だけでも美味しいっちゃ美味しいけど、食事っていうのはこういう主食とか汁物も加えて取るものだから、こういうふうにして食べるとより美味しく感じられるよね。あとは小鉢とか副菜があれば更に良し、って感じかな」


「小鉢……確かにちょっと冷ややっこ食べたくなってきたかも。でも、ホイル焼きにも醤油かけちゃってるし、お味噌汁の具材も豆腐だし、どっちも使い過ぎって言われちゃうかな?」


「そんなことないって! いいじゃない、冷ややっこ! 他が温かいものばっかりだから、そういう冷たいものも欲しくなるよね!」


 更に定食としての完成度を高めるようなしずくの意見を褒め、賞賛する枢。

 食育というわけではないが、彼女がまた別の料理を作ってみたいと思ってもらえるようにしつつ、中々にセンスがいい彼女を素直に褒めれば、しずくも嬉しそうにはにかんでくれた。


 普段ならばこのまま食事を終え、感想を言い合ってから手を合わせてごちそうさまで終わりになるのだが、今日はいつものパターンとは違うようで……?

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