鮭のホイル焼き定食、完成!

 キッチンの上にある程度の大きさで切ったアルミホイルを置いた枢が、しずくと並んで食材を並べ始める。

 まず最初にメインの食材である鮭を乗せ……るのではなく、それを乗せるための下準備として、油を少量中央に垂らしてみせた。


「枢くん、なんで油を垂らしたの?」


「くっつき防止のためだね。フライパンに油を敷くのと同じだよ。あんまり多く敷く必要はないから、少しだけ垂らして……あとは切ったニンジンを使って薄く広げていこうか」


『※アルミホイルの長さは大体三十センチくらいがちょうどいいそうです! 油に関しても鮭が上に乗るくらいの大きさに広げれば大丈夫だって、枢くんが言ってましたよ!』


 テロップでの補足説明を入れつつ、今度こそ準備を整えた二人がアルミホイルの上に食材を並べていく。

 皮を下にしてメインの鮭を置いた後で一旦箸を置いた枢が、おどけた様子でしずくへとこんな問題を投げかけた。


「さて、ここでしずくちゃんに問題です! 鮭の次に乗せるのはどの食材でしょうか!?」


「えっと……火が通りにくそうなニンジンさん、かな……?」 


「正解! いや~、しずくちゃんは賢いなあ~! 愛鈴の奴だったら、どれから並べても同じじゃないの? くらいのことは言うだろうから、それと比べると本当にしずくちゃんは賢いよ!」


「い、言っちゃなんだけど、比較対象があまりにもあれ過ぎてあんまり嬉しくないね……」


 スタバトをプレイしているが如く二人して愛鈴に言葉の銃弾を浴びせ掛けた後、枢としずくが火の通りにくいものから順番に並べていく。

 鮭を取り囲むように細切りにしたニンジンを並べ、切り身の上にキノコ類を置き、その上に更にバターを乗せ……と、綺麗に食材を盛りつけた二人は、アルミホイルの端を重ねると、蒸気が漏れぬようにそれを折りたたみ始めた。


「隙間が漏れないようにね、奥と手前のアルミを重ねて折っていく感じ。うんうん、そうそう!」


「こ、こんな感じで大丈夫かな……? そしたら、今度は横の部分か」


「うん、そうだね。食材が入ってない部分は、キャンディーの包み紙みたいな感じで軽く潰して、捻じって、丸めて……取っ手になる角の部分を作るイメージでまとめていけば大丈夫だよ」


「は~い! 角、角、角……っと」


『※角の部分を作っておくと、そこを取っ手として加熱後も安全に持つことができます! みんなも意識してね!』


 これまた補足説明の後、枢としずくがそれぞれ作った鮭のホイル包みが画面に表示される。

 若干、しずくの方が不格好ではあるものの、十分に合格点といえるその出来にスタッフたちが頷く中、枢がその二つのホイル包みをフライパンの上に並べていった。


「ここまできたらあとは簡単! フライパンの上にこいつらを並べて、中火で五分! その後に弱火にして七分蒸し焼きにするよ! 蒸し焼きだから、蓋をするのを忘れないでね!」


「わっ……! フライパンを持って煽ったりしなくていいんだ。これなら非力なボクでも大丈夫だね……!」


「タイマーさえセットしておけば、あとはほとんど放置で大丈夫だっていうのもこの料理の魅力かな? この間に食事の準備をしておくと時間が無駄にならなくていいね! ……というわけで、準備しちゃいましょう!」


 これでもうほとんど調理は終了だと、本当に簡単なホイル焼きの作り方を教えた枢がぐっとサムズアップしながらしずくへと言う。

 画面が切り替わり、テーブルの上に火を入れ終えたホイル焼きと共に白米、味噌汁が並ぶ中、ついにその時がやってきた。


「はい、調理が終わりました! 主食と汁物も盛りつけ終わって食べる準備は万端! あとは、主菜の出来を確認するだけです!」


「どきどき、どきどき……!」


「ホイル焼きはこの瞬間が楽しみなんだよな~! というわけでしずくちゃん! 鮭の様子を確認してみましょう!」


「は、は~い……! 上手く作れてますように……!」


 緊張の一瞬、鮭や野菜たちの様子が確認できないことを不安に思いながら、どうか問題なく火が通っていますようにと祈りながら、皿の上のホイル包みに手を伸ばすしずく。

 意を決した彼女がその包みを破り、中の様子を確認してみれば、ふわりと甘いいい匂いが漂ってきた。


「あっ、いい匂い……! ほんのり甘い、バター風味の香りだ……!」


 熱されて溶けたバターが漂わせるあの食欲を誘う香りに加え、蒸し焼きにした野菜たちの味が溶け出した甘い匂いがしずくの鼻をくすぐる。

 強過ぎず、優しくお腹を空かせる美味しそうな匂いにごくりと涎を飲んだ彼女が箸でキノコを退かしてみれば、その下に置いてある鮭が姿を現した。


 火が入ったことで若干白っぽくなり、オレンジからピンクに色を変えた鮭は、野菜の甘さとは逆にしょっぱそうな匂いを漂わせている。

 そのコンビネーションがまた食欲を誘い、そこにバターの風味が加わることで更に美味しそうに感じられるホイル焼きの出来栄えに感動したしずくが言葉を失う中、悪魔のような笑みを浮かべた枢が天使の囁きを口にしてきた。


「ふっふっふっふっふ……! まだこれで完成じゃあないよ、しずくちゃ~ん……! ほ~ら、レモンと醤油だよ~! これをかけてごら~ん!」


「あっ! あっあっ! しゅ、しゅごい……!」


 鮭のベストパートナーといっても過言ではない存在であるレモン。

 それを搾って全体に汁を振りかけた枢は、次いでバターとの相性が抜群な醤油をも鮭と野菜たちにかけ、料理を完全体へと仕上げていく。


 鮭のしょっぱさに対するレモンの酸味。バターの風味に加わる醤油の味。

 それらが合体し、最高の相性を持つ二つの食材と調味料とのマリアージュが更にコラボを果たす様を目にしたしずくは、声を震わせて感激しながら恍惚とした表情を浮かべている。


 最後に緑色成分でもある小ねぎを追加して、軽く鮭の身を解せば……実に美味しそうな鮭のホイル焼きの出来上がりだ。

 画面の向こうに香りが届かないことを残念がりながら、しっかりとその出来栄えをカメラへと見せつけた枢がしずくを含めた面々へと言う。


「はい、これで完成! ではでは、お楽しみの~……実食タイ~ム!」


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