登場、ビッグ3

「こんばんは~! 蛇道枢くん、お誕生日おめでとうございます!」


 そう、はきはきとした声で誕生日凸のお手本のような挨拶をする早矢。

 彼女の明るく元気な第一声を耳にしたリスナーたちが【!?】や【!!!】といった感嘆符だけのコメントで驚きを露わにする中、リアルで早矢と同じ場所にいる人物が枢へと祝福の言葉を贈る。


「誕生日おめでとう、枢。ちょっとバタバタしてるけど、気にしないでくれ」


 前々から交流があった、事務所のNo.2である獅子堂マコト。

 彼女もまた枢の誕生日を祝うために駆け付けてくれたことをリスナーたちが喜ぶ中、高まる期待に応えるようにして最後の一人が言葉を発する。


「枢……私は、お前を誤解していたよ。私から炎上キャラやハーレムシチュを奪った憎い野郎だと思っていたが、それ以上のものをくれたんだ……!」


「はあ。あの、どういう意味でしょうか?」


 初対面の際に見せた、怒りと憎しみをこれでもかと前面に出した態度から一変、穏やかな雰囲気で自分へと語り掛けてくる乙女の様子に困惑した枢が質問を投げかける。

 その問いに対して、一気にテンションをぶち上げた彼女は、正直に欲望を解放した答えを口にしてみせた。


「後輩含め、この配信で女の子たちのおっぱいの大きさがバンバン暴露されてる!! さ~いこ~だぜ~っ!! たらばのHなたわわとか、サソリナのGカップロリ巨乳とか、知れてよかった~!! あ、当然マコトも教えてくれるよね!? ねっ? ねっ!?」


「……わかってはいたけどさ、お前って本当に馬鹿だよな」


「あははははは! 乙女ちゃんは正直者だ! でも、あんまり後輩くんに迷惑かけちゃだめだよ?」


【うおおおっ!? ビッグ3じゃん!】

【マコトの姉御は来るかもと思ってたけど、早矢ちゃんと乙女が来るのは完全に予想してなかったわ】

【配信でビッグ3が揃うのって結構珍しい。枢の誕生日でこれはすごいサプライズだわ】


 【CRE8】が誇る看板タレント三人が一堂に会している。

 その事実だけでも十分に驚きではあるが、この配信の主である枢とこれまで全く接点がなかった早矢と乙女の二人がいきなり登場したことが、リスナーたちが感じている驚きを更に加速させていた。


 事務所を代表する先輩たちが一気に自分を祝いに現れたことに驚きつつも、事前の打ち合わせでこうなることは知っていた枢は高ぶる心臓の鼓動を必死に落ち着かせると共に、彼女たちに感謝を述べる。


「お忙しい中、わざわざ祝いに来てくださって本当にありがとうございます。3Dライブの準備はどうですか?」


「順調だよ~! 応援してくれてるみんなに楽しんでもらえる最高のライブにするから、期待しててね!」


「ただ歌うだけじゃなくって動きとか演奏も合わせてやるから大変だけどね。でも、その分やり甲斐を強く感じてるよ」


「乳揺れが若干抑えめなのが残念だ。お披露目までにはもっと揺れるように要望出さなきゃ……!」


【う~ん、一人だけ完全におかしいこと言ってるなぁ……】

【乙女はどこに行っても変わらんwww】

【3Dライブももうすぐだしね。本当に期待してます!】


 宣伝というわけではないが、彼女たちが揃って凸した理由でもある年末の3Dライブについて言及すれば、リスナーたちからも期待しているとのコメントが飛んできた。

 色んな要因はあるとは思うが、やはり注目されている大きなイベントなのだなと考えた枢は、そこから更に話題を転換していく。


「お三方が揃ってる珍しい機会ですし、折角だからこの機会にお聞きしたいんですけど……ぶっちゃけ、俺が……っていうか、男性のVtuberが後輩としてデビューするって聞いて、どう思いました?」


「う~ん……それに関してはもう私は最初に言っちゃったからな~。私のハーレムを壊しやがって! って感じ。マコトもどっかで言ってるんじゃない?」


「まあ、アタシは前々から絡みが合ったし、裏で枢に直接話したような気もするし……早矢だけなんじゃないか、その辺のことについて語ってないのは?」


「そうっすね。【CRE8】のNo.1タレントとして、率直なご意見を聞かせてください」


「え~? なんか緊張しちゃうな~! でも、う~ん……どう思ったかって聞かれたら――」


 少しだけ……いやかなり、枢は緊張していた。

 同じスカウト組としてシンパシーを感じていたマコトと、(諸々の事情が絡んだ末に)あまり歓迎する気分ではなかったという乙女。

 それぞれの感想を聞いた今、事務所を代表するタレントである早矢は男性タレントであり後輩である自分に何を思っているのか? という部分が気になっていた枢が彼女の答えを聞く耳に意識を集中させる中、満を持して早矢が口を開く。


「誕生日だからお世辞を言っているとか、建前とかじゃあなくって……本当に嬉しかったかな。うん、そんな感じ」


「ほう? どうしてそう思ったわけ?」


 これまた模範解答のような優等生らしい答えを口にした早矢へと乙女が一歩踏み込んだツッコミを入れれば、彼女は静かな声でその理由を教えてくれた。


「だって、私の夢の実現のために必要なことだと思ったから。枢くんの存在と活躍は、間違いなく私の糧になるって……そう思ったんだ」


「えっと……すいません。俺、夢川先輩の夢がどんなのか知らないんですけど、教えてもらっていいですか?」


「お~? しょうがないな~! じゃあ、一回しか言わないから……ちゃんと聞くんだよ、後輩くん!」


 くすくすと笑いながら、上機嫌に声を弾ませながら、枢をからかうようにそう言う早矢。

 わざとらしく咳払いを一つした後、愉快気な雰囲気を漂わせた彼女は、数万のリスナーたちと枢の前で、自身の夢を堂々と言ってのける。


「知ってる人は知ってると思うけど、私の夢は……【CRE8】みたいな事務所を作って、そこの社長になること! それもVtuberだけじゃなくて、歌い手とかゲーム実況者とかネットアイドルとか、そういう配信活動をしている人たち全般を集めた事務所を作りたいんだ!!」


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