七番手、兄の彼女

【初っ端からアクセル全開で草なんだがwww】

【見事なまでのロリ巨乳、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね】

【流石はサソリナ、堂々としてやがるぜ……!】


「は~い、もう帰ってほしい気しかしないんですが、どうすればいいっすかね?」


「ひどい! やっぱり枢くんはあたしの体目当てだったのね!? おっぱいのサイズさえ聞ければそれで用なしなんだ! え~ん!!」


「人聞きの悪いこと言わないでくださ~い。もう折角しずくちゃんが空気をリセットしてくれたのに、全てが台無しじゃないですか」


 セーフとアウトのラインを反復横跳びどころか、完全にアウトの領域でタップダンスを踊り続ける紗理奈の発言に頭を抱える枢。

 よくもまあ地雷原で踊り狂えるなと思いながらも、凸に来てくれたことへの感謝を告げる。


「左右田先輩も遊びに来てくれてありがとうございます。まだ出会って一か月くらいですけど、こうしてお祝いしていただけて嬉しいですよ」


「まーね! かわいい後輩ちゃんの誕生日だし、まだ間もないとはいえ配信の企画で協力した仲だしね! ……うん、あれからそう時間が経ったわけじゃあないけれど、遠い昔のことの様に感じちゃうなあ……」


 Vtuber界隈に蔓延した悪いイメージを払拭するために行った、声劇コラボ。

 多くの人々が協力し、参加してくれたその配信や準備期間を振り返った紗理奈が複雑な感情を匂わせる呟きをもらす。


 枢もまた、彼女と同じ人物のことを頭の中に思い浮かべつつ、口を開いた。


「……元気にしてますかね、【トランプキングダム】の人たち。左右田先輩、連絡とか来てます?」


「何人かの女の子からは来たかな~……みんな、新しい道を進み始めたってポジティブな報告をしてくれたよ。だからよかったと思ってる、うん」


【名前出していいかわからないからぼかすけど、ハートの騎士さん……】

【くるるんもそうだけど、サソリナも会いたいよな……】

【いい奴ほど早く消えていくっていうのは、どこの世界も同じなのかもしれない】


  、という表現で遠回しにからは連絡はきていないことを枢へと告げる紗理奈。

 逆に、彼女の方も枢の口振りから彼の方にも連絡がきていないことを察して、小さくため息を吐く。


 それでも、かつて共に企画を成功させた仲間たちが新たな人生を歩み始めたことを喜ぶ気持ちに嘘はないようで、自分の前からいなくなってしまった彼のこととは別の問題として割り切っていた。


「何してるのんですかね、本当に……連絡の一本くらいくれればいいのに」


「忙しいんだよ、きっと。その内、ひょっこり顔を出してくれるって」


「そうだといいですね。うん、そうだといいなあ……」


 別れ際、彼は解散した事務所の仲間たちの人生を支援すると言っていた。

 それが終わってから、自分自身のことを考えるともだ。


 少しずつ、【トランプキングダム】の元メンバーも新たな人生を歩みだしている。

 ならばきっと……彼が自分たちの前に姿を現す日もそう遠くはないはずだと自分自身に言い聞かせながら、枢と紗理奈は話題を別のものへと転換させていった。


「そうだ! 今度さ、クリスマスのボイスが事務所から出るじゃない!? 枢くんも声劇コラボで磨いた演技力を発揮する機会があって嬉しいでしょ!?」


「あ~……恥ずかしくはありますけどね。でも、やっててよかったなとは思いましたよ。教えてもらったことを忘れないようにして、やってみようと思います」


「今回の台本、結構出来がいいんだよね~……! ちょっとジェラるレベルの内容だから、リスナーたちも楽しみにしてて!」


【わっほい! くるるんとクリスマスだ!】

【クリスマスボイス……俺と枢が二人でデート……!!】

【事務所主導とはいえ初のボイスが出るのは嬉しい。運営に感謝】


 少しだけ暗くなってしまった雰囲気を払拭するように明るい話題を提供すれば、リスナーたちもクリスマスボイスへの期待をコメントとして二人へと送ってみせる。

 気分も場の空気も上向きになり始めた頃、紗理奈は一つため息を吐くと自身の凸を締めくくるように枢へと言った。


「さっきしずくちゃんとの会話で出てたけど、色んな可能性を広げるのっていいことだと思うよ。歌や演技、他にも沢山の楽しいことがその辺に転がってる。もう少しでデビューから一年が過ぎて、活動にも余裕が出てきたらさ、そういうのに目を向けてチャレンジしてみるのもいいんじゃないかな?」


「そうっすね……実は、前にに言われたんで、ちょっと挑戦してみたりもしたんですよ。その成果がもう少ししたらお見せできると思うんで、リスナーたちも含めて楽しみにしててください」


「おっ、マジか!? それは楽しみですな! にししっ!」


 大切な人からのアドバイスを受けて、何かをしたという枢の言葉に二重の意味での笑みをこぼす紗理奈。

 それは彼女にとっても大切ながこの世界に何かを残してくれたことへの喜びと、その想いを受け継ぐ人間が目の前にいてくれることへの感謝から出た笑みだったのだろう。


 枢もまた気恥ずかしそうに笑う中、祝福を終えた彼女がからからと笑いながら彼へと告げる。


「よ~し! じゃあ、枢くんの頑張りがどんなものになるのかを想像しながら、全裸待機しちゃいましょうかね! 寒いから風邪をひく前によろしくぅ!」


「危ない発言しないでくださいって、もうこの配信、結構ヤバい感じなんですから!」


「にししっ! でも、これからもっとヤバい人たちが来るよ~!? 枢くんとリスナーたちはこの衝撃に耐えられるのか!? こうご期待! というわけでロリ巨乳でお尻もおっきいGカップの左右田紗理奈ちゃんでした~! じゃあね、バイバイ!!」


 ぷろろんっ、というやや低めの音と共に、騒がしくこの場を去った紗理奈との通話が切れる。

 どこまでもマイペースな彼女の振る舞いに苦笑を浮かべつつも、確かにこの後にやって来る人たちの方がヤバいなと思い直した枢もまた、深呼吸で自分の心を落ち着けてからリスナーたちへと語り掛けた。


「さ~て……次は本当にヤバい人たちが来るから、心してくれよ? 俺もマジで緊張しっぱなしだからさ」


【お? 誰々? 芽衣ちゃんでフィニッシュじゃあないの?】

【他事務所の人たち? 複数形ってことはグループとかユニットで来るの?】

【誰やろな~……? ちょっと怖いわwww】


 珍しく緊張を露わにした枢の言葉に、リスナーたちも期待と不安を入り混じらせながら配信を見守り始める。

 ややあって、通話が繋がった高めの軽い音と共に、想像を遥かに超える豪華なメンバーが一度に姿を現した。


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