誕生日配信に向けて、協力者募集中

 誕生日の主役として客を待ち、お祝いの気持ちを伝えてもらう王道の企画、凸待ち配信。

 その協力者を零が募れば、即座に同僚たちが了解の返事をしてくれた。


「いいに決まってるよ! 絶対にお祝いしに行くから!」


「まあ、同期だしね。逆に行かないって選択肢はないでしょ?」


「スイちゃんにも連絡取っておかないとね~! 一人だけ仲間外れにしたら可哀想だよ~?」


 当たり前の如く参加を表明した二期生たちが零へと温かい言葉を贈る。

 それに彼が感動する中、先輩である一期生たちもまた声を上げ始めた。


「まあまあ、ママとしては行かざるを得ないっすよね! なにせ坊やと初めてコラボをした一期生は自分っすし!」


「ぼっ、ボクも、行っていい、かな……? あ、あんまりお喋り上手じゃないけど、零くんにおめでとう、って言いたいし……」


「はいは~い! あたしも行く行く~っ! 断るだなんて言わないよね? ねっ!?」


「皆さん……! 本当にありがとうございます!」


 ママである梨子、同い年の友人である陽彩、関係を深めた澪もまた、蛇道枢の誕生日を祝うために協力してくれるようだ。

 先輩たちの厚意に零が感謝の気持ちを言葉にしつつ頭を下げれば、残っていた太鳳と玲央が口を開く。


「思っていたよりもいっぱい人が来るのね。なら、私は今回は欠席させてもらおうかしら? まだ配信で絡んだこともないし、お祝いはまた次の機会……ってことにしましょう。それに、私まで参加したら一人だけ参加できなかったふたご座の子が可哀想だものね」


「アタシらは三人まとめてでいいかい? 一人一人だと時間がかかっちまうし、ぱぱっとまとめて話して、次にバトン渡す感じでも大丈夫か?」


「ビッグ3が一気に来てくれるんですか!? 願ったり叶ったりですけど、来栖先輩たちの方こそ大丈夫なんですか!?」


「平気だよ。薫子さんも言った通り、枢くんの誕生日配信は年末年始イベントの前哨戦みたいなものだし、思いっきり盛り上げなきゃだもんね!」


「ふっひっひっひっひ……! 安心しな、れぇい……! しっかりばっちり盛り上げてやるよ。ああ、盛り上げてやるとも、くひひひひひひ……!」


「な、なんか馬場先輩だけは遠慮願いたいんですけど、だめですかね……?」


 事務所を代表する先輩たちまでもが参加を表明したこと(と不穏な流子の発言)に対して、一気に緊張を高める零。

 これは自分が思っていた以上の規模の企画になるかもしれないなと考え始める中、薫子が大声で言う。


「うん、いいことじゃあないか! 後輩の誕生日を盛り上げるためにも、年末年始イベントに向けていいスタートダッシュが切れるようにするためにも、頑張ってくれよ、零!」


「う、うっす!!」


 真正面から期待を込めた視線をぶつけられると、余計に緊張してしまう。

 だが、こうして自分を祝いに来てくれる仲間たちのためにも、ここは楽しく配信をしてファンを盛り上げたい。


 そのためにも、自分がしっかりしなくては……と決意を固めた零が気合を入れれば、薫子は大きく頷いた後でこう話を続けた。


「私から伝えることは以上だ。収録の日程に関しては後で連絡するから、各自メールをしっかりチェックしておいてくれよ。カバーアルバムの選曲もそれぞれの要望を聞きたいから、各ユニットのメンバーで話し合ってくれ。後は零の誕生日配信についての話し合いもここでしちゃって構わないから、自由に使ってくれ。じゃあ、そういうことで!」


 ざっくりとした年末年始のイベントに関する情報を伝達した薫子が、締めの挨拶もそこそこに部屋を出ていく。

 残されたメンバーは顔を見合わせた後、早速それぞれの話し合いを進めていった。


「曲に関してはこの場にいないメンバーもいるし、すぐに決めるのは難しいよね? そっちは一旦置いておくことにしない?」


「それがいいだろうな。各ユニットの特色に合った曲を考えて、次の話し合いの場で発表するっていうのが無難だね。今は零の誕生日配信に関する会議を優先しようか」 

「な、なんかすいません。ここまで協力してもらっちゃって……」


「そう思うなら嫁の乳揉ませろ! 流子ちゃん寝取り劇場の開幕じゃい!」


「止めて! 有栖ちゃんに手を出さないで! 自分が生贄になりますから! どうかかわいい坊やの家庭は壊さないで~!」


「あんたら外出てってもらっていいですか? 話し合いが進まないんで……」


 一気に騒がしくなった室内で、やいのやいのと騒ぎながら誕生日配信に関する会議を進めていく一同。

 やれトップバッターは誰にするかだとか、ラストを誰に任せるかだとか、順番をどうしようかだとかを全員で協議する中、一人その輪から外れている太鳳がくすくすと楽しそうに笑う。


「どしたの、太鳳ママ? なんか楽しそうだね」


「うふふ……! すごく賑やかだなって、そう思ったのよ。人数が増えたのもあるでしょうけど、一年前に比べてすごく明るくなった気がするわ。私たちもVtuberとしての活動に慣れて、色々と楽しくなってきて……新しくできた後輩ちゃんたちとも仲良くなれて、すごく充実してるなって、そう思うとついつい口元が緩んじゃってね」


「そうだね……私もそうだよ。なんか、こんなふうになるだなんて思ってもみなかったや」


 事務所で一番の人気を誇る看板タレント、夢川早矢。

 一年と少し前、自分がデビューした時にこんな未来が待ち受けているだなんて思ってもみなかった明日香が太鳳の言葉に同意しながら笑みを浮かべる。


 しかも今、騒ぎはしゃぐ自分たちの輪の中心にいるのは唯一の男子であるという事態に浮かべていた笑みを更に強めた明日香は、太鳳にだけ聞こえるような声でぼそりと呟いた。


「もっともっと、活気のある事務所になるといいな。そうすれば、私の夢も……」


「そうね。そうなるといいわね。薫子さんも三期生がもう少しでデビューするって言ってたし、期待しましょうね」


「うん! 頼りになる先輩だと思ってもらうためにも、しっかりしなきゃ!」


 ぐっ、と両の拳を握り締めてやる気を見せる明日香の姿に、頬笑みを浮かべながら頷く太鳳。

 どこまでも楽しそうに話し合いを重ねる仲間たちの様子を母のように見守る彼女は、必ず誕生日配信が素敵なものになるだろうという確信を抱きながら、そこに参加できないことを少しだけ後悔するのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る