Vtuberってめんどくせえ！

12月11日、蛇道枢誕生日配信！

【くるるん誕生日おめめめめめめめめめめ!!￥5000】『ニヤニヤニーヤさん、から』

【生まれてきてくれたことに感謝。これで好きなもの買ってね！￥10000】【バギブソンさん、から】

【￥20000】『いのりちゃんねる（公式）さん、から』

【人生初スパチャをくるるんに捧げます！　お誕生日おめでとう!!￥3000】【里中亮一さん、から】

【本当に誕生日おめでとう、枢。お前と出会ってから俺の人生は本当に実りあるものになったと思う。今日という記念すべき日に心の底からの想いを伝えさせてほしい。愛してるぞ！　枢！　お前には芽衣ちゃんがいることはわかっているがそれでもやはりこの想いは止められない！　良ければ今夜、この鍵を使ってホテルのスイートルームに（文字数）￥20000】『Pマンさん、から』

【俺くる民は絶対に許さん。くるめいを享受しろ￥20000】『いのりちゃんねる（公式）さん、から』

　十二月十一日、夜九時から始まる配信の待機所では、まだ開始前だというのにも関わらずリスナーたちが大いに騒ぎ続けていた。

　高速で流れるコメントの中には赤やオレンジの高額投げ銭を表す色がついたものが多々見受けられ、その内容もまた濃いものの枢へのお祝いのメッセージが大半であった。

　一年に一度の推しの誕生日、その記念日を大いに祝うべく配信を盛り上げていくリスナーたち。

　その中には、本日の主役である蛇道枢と関わりが深い同業者たちの姿も存在していた。

【おたおめ～っ！　またコラボしようね！　メンバー代表して私からお祝いです！￥3000】『春日野さくら（SEASON所属）さん、から』

【お誕生日おめでとう！　本当、色々お世話になりました……！￥2000】『緑縞穂香VGAさん、から』

【枢くん、誕生日おめでとうね！　次に勝負することがあったら負けないよ！￥3000】『三三檸檬・VGAさん、から』

【お誕生日おめでとう￥5000】『夕張ルピア・VGAさん、から』

　ちょくちょく見受けられる他事務所のタレントの名前と彼女たちからの祝いのコメントが、枢の人望の厚さを表している。

　デビューからまだ一年も経っていないVtuberである彼だが、その中で経験した無数の炎上を経て得たものはアンチだけではない。

　こうして誕生日を盛大に祝ってくれる人々と出会えたことこそがそれを証明していると……デビュー直後の大炎上からは想像もできない人気タレントへと成長した彼は、時間ちょうどに画面を切り替えて自分のことを待ってくれていた人々の前に姿を現した。

「おいっす、どうも～……ゆるっと始まったな、マジで」

【おっす！　お誕生日おめでとう、くるるん！】

【本当におめでとう！　自分のことのように嬉しい！】

【推しの誕生日を祝えることに感謝】

「いや、こっちこそ本当にありがとうな。想像以上にお祝いのコメントが送られてきてるし、スパチャも額がやべーって！　ここまで祝われるとか流石に予想外だったから、実はめっちゃびくびくしてたりするんだわ」

　配信だけでなく、SNSの方にまで寄せられる誕生日を祝う無数のコメント。

　信じられないくらい大量に送られてくる高額の投げ銭コメントたち。

　リスナー、同業者問わず誕生日配信に駆け付けてくれた人々の数は余裕で五万を突破しており、ここから更に増えることを考えると本当にすさまじい盛り上がりを見せているとしかいえないだろう。

　まさか自分がここまで大勢の人たちから祝われるような存在になるなんて……と、若干卑屈なことを考える枢。

　デビュー直後はとっとと引退しろと言われていた自分がこんなにも多くの人たちから認められ、こうして愛される存在になれたことを心の底から喜ぶ彼は、その感情を隠すことなくリスナーたちへと伝える。

「今日は俺の誕生日配信に集まって来てくれて本当にありがとう。正直、ここまで盛り上がるとは思ってなかったから、すげー驚いてる。なんか、うん、自分で言うのもなんだけど、愛してもらえてるんだなって実感するわ」

【愛してるぞ、枢！　これからも言い続けるからな！】

【炎上続きなせいかくるるん自己評価低いけど、普通に二期生で一番の人気タレントだからね？　愛してくれる人はわんさかいるってこと忘れないでな】

【まあ、これから自分が愛されてるかどうかわからないなんて言えないくらい応援してやるから覚悟しとけよ】

「ホント……ありがとうな。なんかだめだ、気を抜くと感謝の言葉しか出なくなってくる。さっさと本題に移るか、うん！」

　今までの人生でここまで盛大に誕生日を祝ってもらった記憶のない枢にとっては、こうして祝福のコメントが無数に送られている状況自体が夢のようだ。

　言葉が詰まってしまうほどの感動を胸いっぱいに湛える彼は、深呼吸を一つ置いてからこの配信のメインイベントを始めていった。

「タイトルにもある通り、今日は凸待ち配信をしてみようと思います。誕生日を祝いに来てもらうっていうのも恥ずかしいけど、一年に一回くらいはいいだろ、の精神でやっていくぞ～！」

【わくわく、テカテカ】

【誰が来るのかな～？】

【嫁が来るまで全裸で待機してますね～！】

　Vtuberが誕生日に行う定番の企画、凸待ち配信。

　その開始を宣言した枢がPCの通話アプリを起動すれば、即座に会話チャンネルに人が集まってきた。

　その中でも一番に乗り込んできた人物の名前を見て笑みをこぼした彼は、愉快気な声でリスナーたちへと言う。

「え～、思ったよりも早く人が来てくれました。早速お呼びしましょう！　どうぞ！」

　ぴろんっ、という音が響き、最初の凸者が枢との通話を開始する。

　リスナーたちがトップバッターは誰なのかという期待に胸を躍らせる中、同期の誕生日を祝うとても明るい声が彼らの耳に届いた。

「はいた～い！　お誕生日おめでとう、枢くん！」