しゃぼん号泣、からの――
最後のユニットメンバーが発表された直後、静寂を切り裂いて梨子の叫びが会議室に響く。
さっきからぶつぶつ呟いたりぼやいたりしていたのは彼女だったのかと気付いた零をはじめとする面々が彼女へと視線を向ける中、大慌ての梨子は薫子へと物言いをつけていった。
「いや、どう考えてもおかしいでしょ!? 事務所のNo.2であるロッカー玲央ちゃんとクールでカッコいい坊やが一緒なのはわかりますとも! そこになんでおちゃらけちゃらんぽらんなギャグ担当の自分がぶち込まれてるんですか!? カツとカレーを組み合わせてカツカレーを作ったのにその上から生クリームぶっかけたみたいになってるんですが!?」
「うるさいねえ……スタッフの間では、これが最善だって話になったんだよ」
「絶対にノー! 明らかにバッド!! 絶対あれでしょ!? 薫子さんたち、ライオンと蛇とヤギでキメラじゃんか~! これにし~ようっと! みたいな感じで自分の所属ユニットを決めたでしょ!?」
ユニットのコンセプトの中で明らかに自分だけが浮いていると絶叫しながら指摘する梨子。
そんな彼女の叫びを若干やかましそうにしながら聞いていた薫子は、逆に梨子へとこう尋ねる。
「じゃああんた、自分がどこのユニットに所属すべきだと思ってるんだい?」
「絶対に『ヴァルゴハーレム』! カオスなそこにしか居場所はないでしょうが!」
「いや、梨子たんをハーレムの一員として見るのは無理かな……せいぜい、庭で飼ってるペット?」
「ペットでもいいからせめて家の中に入れて! っていうかそういう話じゃないの! わかる!?」
「はぁ~……いやまあ、そう言うと思ってたよ。でもね、梨子……あんた、自分が流子と同じユニットになった時、どんだけのカオスが生まれるかわかってんのかい? スタッフたちが尻拭いできるレベルのはっちゃけ具合に収まるとでも?」
「うぐっ……!?」
やりたい放題できる『ヴァルゴハーレム』に自分を入れてくれと訴える梨子であったが、返す刀で薫子の反論を受けてバッサリと斬り捨てられてしまった。
確かに彼女の言う通り、自分と流子という事務所の混沌を招く二人組が揃ってしまったらとんでもない事態になることは目に見えていると、スタッフたちの苦労を考えたら一緒のユニットに所属させるわけにはいかないという意見に納得してしまった梨子に対して、薫子はこう続ける。
「私だってお前が色物だってことはわかってるよ。でも、流子と組ませられない以上は仕方ないだろう? それともあんた、正統派アイドルやるかい? 今からロリキャラに転向する?」
「ふぐぅ……! うっ、うっ……! カバーソングアルバムの参加メンバーから自分を外していただくことってできないでしょうか……?」
「できない、無理、馬鹿言うな」
「ぐへえっ……!」
またしても薫子にバッサリと斬り捨てられた梨子がその場に崩れ落ちる。
よよよと涙を流して予想外の事態を悲しむ彼女を不憫に思った零と玲央は、ぽんぽんとその肩を叩いて慰めの言葉をかけてやった。
「元気出しなよ、梨子姐さん。普段とのギャップでファンを驚かせるつもりで一緒にかましてやろうよ」
「そうっすよ、母さん。スカウト組だとか、動物を組み合わせるとキメラだとか、色々と共通点みたいなものもあるわけですし、結構相性いいでしょ、俺たち? そんな凹むことないですよ」
「うぅぅぅぅ……! 二人の優しさに涙が止まらない……! でも絶対ママはロック系じゃないと思うの。弾けるって意味ではパンクしてるけど、お笑い系であってクール系ではないのよぉ……」
今はべこべこに凹んでいるが、時間が経てば元通りになることを零は知っている。
あまり心配はしていないが、気後れしてしまう梨子の気持ちもわかる彼としては、上手いこと彼女をフォローしてあげたいなと思っていたのだが、そこに薫子からの予想外の一言が飛んできた。
「零、他人の心配もいいが、あんたの方こそ大丈夫なのかい? 何気に……というか、かなり大事なポジションにいるんだぞ、お前」
「えっ、俺? なんで? そんなこのユニットでやることあります?」
No.1タレントである明日香と組むことになった沙織やメンバーを引っ張ってほしいと頼まれた天のように、自分がこのユニットでやるべきことがあるのだろうか?
いまいちそれがわからないで首を傾げた零であったが、薫子は違う違うと首を左右に振ってから全く別の部分について指摘する。
「お前、もうじき誕生日配信をやるんだろうが。ファンたちの期待も注目も高まってる、いわば年末年始イベントの前夜祭みたいな位置付けなんだぞ? 準備、できてるんだろうね?」
「ええ? ああ、いやまあ、できてるっちゃできてるっていうか、その……」
そういえばそうだったと、薫子の指摘を受けてそのことを思い出した零が歯切れ悪く彼女に答える。
十二月十一日、胃にいい日の語呂で覚えていたその日は蛇道枢の誕生日配信が行われる日だったと思い返した彼は、これもいい機会だからと所属事務所のタレントたちがほぼ揃っているこの場でそのことについて話をし始めた。
「あ~、誕生日なんですけどね。無難にその、凸待ちでもしようかなって思ってまして……その、差し出がましいというか、調子乗ったお願いだと思うんですが――」
自分でこういうことを言うのは結構恥ずかしいものだなと、そう思いながらも言うべきことは言わないとと考え、羞恥を堪えながら言葉を紡いでいく零。
息を吸い、覚悟を決めた彼は、同期や先輩たちからの視線を浴びながら、その願いを口にしてみせる。
「その、よければなんですけど……誕生日を祝いに来てもいいよ~って人、いませんかね……?」
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