ユニットメンバー、発表
これに関しては話を聞いた時点で予測できていたので零はそこまで驚かなかったが、有栖は結構緊張しているようだ。
女性恐怖症の彼女にとってはユニットメンバーの振り分けは非常に重要なのだろうと零がその胸中を慮る中、破顔した薫子が軽い口調で言う。
「まあ、覚悟はいいかとか言ったけど、そんな緊張するようなもんじゃないよ。ちゃんとお前たちの適正とかも考えて組んであるから、心配しないでくれ」
そう言いつつ、手元の資料を捲った薫子が咳払いをする。
シンと会議室が静まり返る中、彼女はスタッフ陣で考えたカバーソングアルバムのユニットを発表していった。
「ユニットは全部で四組。十三人を四つに分けるから、三人のグループが三つと四人が一つってことになる。まず、第一のユニットのメンバーは……夢川早矢、花咲たらば、ここにはいないがリア・アクエリアスの三名! ユニット名は『トライアステ』、正統派のアイドルイメージのチームだよ」
「私とスイちゃんが、事務所No.1の先輩と同じユニット……!? う、うわぁ、緊張しちゃうよ~!」
「いやいや! 緊張するのはこっちだって! この三人の中だと、一番歌が下手なのって私じゃん! あ、足を引っ張らないようにしないと……!!」
事務所で最も有名で人気なタレントである夢川早矢とユニットを組むことを知らされた沙織が、その責任の重大さに珍しく慌てた様子を見せる。
逆に、明日香の方も事務所で上位の歌唱技術を持つ後輩二人とのユニット結成に対して、緊張と危機感を覚えているようだ。
「大丈夫だよ、明日香。お前の腕前も二人に引けを取らないさ。沙織、お前とスイなら明日香の横に並んでも霞んだりなんかしない輝きを放てる。緊張するかもしれないが、頑張ってくれ」
「は、はい! 任されたからには全力でやらせていただきます! 全身全霊で、ちばるよ~!!」
任されたポジションの責任は重いが、その分やり甲斐もある。
薫子からの激励の言葉に気合を入れた沙織ならば、その期待にも応えられるだろうと零が確信する中、二組目のユニットのメンバーが発表されていった。
「二組目はやりたい放題する奴ら……というより、流子を主体としたユニットだね。名前は『ヴァルゴハーレム』、清川乙女、牛尾おせろ、またしてもこの場にいないふたご座、
「……ん? あれ……?」
「うっひょ~っ! おっぱい! おっぱい! 最高のユニットだぜ~っ!!」
ユニットメンバーの発表の直後に誰かの戸惑ったような声が聞こえたような気がしたが、その声はハイテンションな流子の声に掻き消されてしまった。
欲望全開な彼女の反応を見ていると不安でしかないが、そこはプロであるはずの彼女を信じようと決めて見守ることにした零は、第三のユニットに関する発表へと耳を傾けていく。
「三組目のユニット、名前は『☆Minutes☆』。小動物系のかわいい女の子たちを集めたユニットで、構成メンバーは左右田紗理奈、魚住しずく、羊坂芽衣、愛鈴の四名だよ」
「ん~? 一人ほど小動物と呼ぶには凶悪過ぎるブツを備えてる人がいますけど、その辺は大丈夫なんですかね? にししっ!」
自分が所属することになったユニットのメンバーと、そのコンセプトを聞いた澪が小柄な体に見合わないたわわな胸を強調しながらいたずらっぽく笑う。
その一方で、大きく安堵のため息を吐いた有栖と陽彩が、お互いに強く抱き締め合いながら安心したように言葉をかけあっていた。
「よ、良かったぁ……! 陽彩ちゃんと一緒のユニットなら安心だよ~……!!」
「ぼ、ボクも、有栖ちゃんと一緒で心の底からほっとしてる……! まともに話せる相手、ほとんどいないから不安だったんだよね……」
これはいいグループ分けなのではないだろうかと、零は思っていた。
女性恐怖症の有栖を初対面の一期生と組ませることはしないだろうとは思っていたが、考える中では最良の振り分けだとは思う。
親友の陽彩に加えて同期の天も一緒だし、澪とも良好な関係を築けている有栖にとっては、非常に活動しやすいチームになっただろう。
コンセプト的にも外れはないだろうし、これは薫子たちスタッフもよく考えてくれたなと零が思う中、その薫子が四人へと言う。
「このユニットにはビッグ3が所属していないから、他と比べると地味な印象になるかもしれない。そこを人数とかわいさでカバーできるよう、頑張ってほしい。特に天、四人の中で一番歌が上手いのはお前だ。そういった部分で他のメンバーを引っ張ってくれるような活躍を期待してるよ」
「……はい。全力で頑張ります!」
名指しで期待していると言われた天は、静かに闘志を燃やしながらユニットでの活動に意欲を見せ始めている。
彼女が空回りしないよう澪も見張ってくれるだろうからここは安心できるなと、思っていたよりもバランスが良さそうな有栖たちのチーム分けに安堵した零は、頭の中でここまでの振り分けを振り返っていった。
(え~と、これで十三名中十人の名前が呼ばれたわけで、残ってるのは俺と……?)
ここまで名前を呼ばれていない自分は第四のユニットのメンバーに入ることは決まっている。
自分以外に名前を呼ばれていないのは誰だったかなと考えていた零であったが、その答えが出るよりも早くに薫子がユニットメンバーの発表を始めた。
「そして最後、四つ目のユニットのメンバーだが……」
「あれ? ちょっ、待って? か、薫子さん? あの、何か間違ってませんか?」
どこかからか細い声でメンバーの振り分けに対する疑問の声が聞こえたような気がしたが、全員揃って無視した。
薫子もその声に対して一切反応を見せないまま、最後のユニットについて発表を行う。
「最後のユニットの名前は『
「待ってぇぇっ! おかしいおかしい! どう考えてもおかしいですって! 明らかに異物混入してますってば~っ!!」
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