報告、三つ

「す、3Dライブ配信んっ!? うっそ!? ほ、本当ですか!?」


 事務所の代表である薫子の口から告げられた衝撃の内容に大いに驚いた天の叫びが会議室に響く。

 実にいいリアクションを見せてくれた彼女へと笑みを向けながら、薫子は大きく頷くと共にその話について詳しく説明していった。


「本当だよ。【CRE8】初の3Dモデルを使用した配信、それもビッグ3が勢揃いするライブということで、大々的に盛り上げていくつもりだ。年末年始の目玉イベントとして、事務所もこのライブの成功に向けて全力を尽くしていく。他のメンバーには不公平感があるかもしれないが、どうか許してほしい」


「3Dモデルを使ったライブの開催かぁ……!! なんか、ついにここまで来たって感じだね!」


「明日香ちゃんたちは薫子さんから聞かされてたのよね~。ふふふ、口の軽い流子ちゃんがよく言うのを我慢できたわね~。すごいわ~」


「そりゃあ、事務所のトップシークレットですし、うっかりぽろりしたら薫子さんからどんな折檻を食らうかわかったもんじゃないですし。ぽろりすんのはおっぱいだけで十分ですしおすし」


 若干変な発言が混じったような気もするが、3Dライブの開催という報告を受けた一期生たちの感慨深そうな呟きには零にも同意できた。


 平面の2Dモデルから大きく進化した3Dモデルを用いての配信を行うというのは、Vtuberとして一つの到達点に手が届いたという気持ちになる。

 事務所の代表である三人の3D化を皮切りに、どんどん他のメンバーたちも3Dデビューを果たしていくのだろうなと、自分たちの成長を強く実感できる薫子からの報告には、一同がある種の感動を抱いていた。


「ライブの開催もそうだが、そこから少し間を空けて三人の3Dモデルのお披露目配信も行う。そっちの準備も必要だからねえ……明日香たちは色々と大変だろうが、気合を入れて頑張ってくれよ」


「はい、もちろんです!」


「これまでとは違ったライブの開催、しかも事務所が全力でバックアップしてくれるっていうんだ。気合が入らないわけないですよ」


「とりあえず乳揺れをもう少し強くですね……私らはまあ置いておくにしても、太鳳ママと澪っちとたらばのたわわなたらばはばるんばるん揺れる感じにしてもろて……」


 やっぱり一人だけ言ってることがおかしいような気がするが、もう気にしないことにしよう。

 三人が三人、事務所の看板を背負った一大イベントに臨むに当たっての気合を見せる中、薫子が他の面々に向けてこんなことを言う。


「あ~、それとだな……こっちは年末年始とはそこまで関係ないんだが、ちょうどいいから報告させてもらうよ。まず一つ、一月後半から二月の頭のどこかで、【CRE8】三期生をデビューさせるつもりだ。この事務所にまた新しい仲間が増える。先輩として、仲間として、良くしてやってくれ」


「三期生……デビュー……? えっ、つまりその、私たち、先輩になるんですか……!?」


「ああ、そうさ。既にメンバーも決まっていて、色々と話を詰めている真っ最中でね。もしかしたら、年明けからデビュー配信の間に社員寮に引っ越してくる奴もいるかもしれない。顔を合わせることがあったら、よろしく頼むよ」


 さらっととても大事なことを報告してきた薫子の言葉に、驚くやら喜ぶやらする零たち。

 これまで事務所の新参者であった自分たちが先輩になって、後輩ができるという事実に緊張しながらも、零は挙手すると共に薫子へとこう問いかける。


「あの! その後輩たちの中に男性のVっていますか? 地味に、気になるんですけど……」


「あ~……それはまだ秘密で! 悪いね、零」


 これから誕生する後輩の中に、自分と同じ男性のタレントは存在しているのか?

 【CRE8】唯一の男性Vtuberである蛇道枢に同性の仲間ができるかどうかが気になって仕方がない零であったが、そこははぐらかされてしまった。


 ただ……薫子が、という言い方をしたことが引っかかった零は、もしかしたらという淡い期待を抱く。

 まあ、ここにはうっかりの女神こと沙織もいることだし、必要以上の情報を出すことは薫子的にも避けたいのだろうなと思いつつ、これ以上は聞くのも野暮かと判断した彼はそこで口を噤み、視線で薫子へと次の報告を促した。


「で、だ……もう一つはお前たち全員に直接関わることになる報告さね。めでたいことに、【CRE8】初のカバーソングアルバムを出すことが決まった。ネット上だけでの配信にはなるが、それでも一期生と二期生が合流しての企画であることは間違いない。そのアルバムの発売に際して……お前たちには、ユニットを組んでもらう!」


 堂々とそう言い切った薫子の言葉に、一同の間に緊張が走る。

 CDデビュー……というのかはわからないが、こちらもかなり大きな企画に関する報告であり、重大な発表だ。


 自分たちの歌が、商品として販売されることになったという発表に気の弱い有栖や陽彩が息を飲む中、メンバーの反応を確認した薫子が一拍の間をおいてからこう切り出す。


「既にユニットの振り分けとメンバーの選定も決まっている。それをここで発表させてもらうよ。お前たち、覚悟はいいね?」


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