初めての手料理、ごちそうさまでした!

「……はい、というわけで実食のお時間で~す。ご飯とスープは俺からのサービスってことで、よろしくお願いしま~す」


「ご飯はまだしも、どこでスープ用意してたのよ? っていうかこれ、普通に中華料理屋で見たことあるんだけど? 私の酢豚より手間かかってない!?」


「んなことないっすよ。蛋花湯タンファータンなんて、結構手軽に作れますし」


「た、たん……? なんですって?」


「そういうのは後でいいんで、料理が冷める前に食べちゃいましょうよ。いただきます!」


 白いご飯と、中華風の卵スープと、メインディッシュである酢豚。

 ランチョンマットの上に並べられたそれらは、料理店で出される酢豚定食と言われても信じてしまえそうな出来栄えをしている。


 この主菜を作ったのが自分だなんて信じられないな……と思いながら、枢に続いていただきますの挨拶をした愛鈴は、自作の酢豚の肉を箸で摘まんで口に運ぶと、驚きに目を見開きながら感想を述べた。


「んっ! うんま~っ!! 衣が付いたお肉によく甘酢のあんが絡んでて、食感も味も抜群じゃない! えっ? これ本当に私が作った料理?」


「野菜も火の通りがいい感じですね。しなっとしてなくて、しっかりいい味出してます」


「んで、口の中が酢豚の味になったところでこの卵スープを飲むと……ああ、優しい味でほっとする~……! こうやってリセットしてから食べる酢豚がまた美味いんだ!!」


「スープってのはそういう目的もあって出される料理っすからね。味の濃いものと出すなら、こういう温かく薄味のやつを合わせるとバランスが良くなって、箸も進むってもんですよ」


 カリッ、じゅわっ、という擬音がぴったりの食感を持つ肉は、衣の硬さと中の肉の柔らかさが両立されており、そこに絡む甘酢の味がしっかりと際立つ出来になっている。

 強過ぎない酸味と甘みによって箸を進ませる愛鈴が肉と野菜をパクパクと平らげていった後で卵スープを飲めば、その温かく優しい味に胃が落ち着くと共に、甘酸っぱさが充満していた口の中がリセットされ、また改めて酢豚の味を堪能できるようになった。


「いや、マジで美味いわ! 私もなかなかやるもんじゃない! がはははははっ!」


「あんまり調子乗らないでくださいね? 俺のハリセンがなかったら、マジで指切ったり食中毒の原因作ってたりしてたんで」


「わ、わかってるわよ! でもいいじゃない、ちょっとくらいは悦に浸ったって! お尻を痛めた甲斐あって、こんなに美味しい酢豚を作れたんだからさ!」


 これ見よがしにハリセンで叩かれまくった尻を撫でながら枢へと抗議する愛鈴。

 枢の方はそんな彼女へと視線を向けることはなかったが、小さく鼻で笑ってからこう言った。


「……まあ、そうかもしれないっすね。初めての料理を楽しんで、美味しいものが作れたって喜ぶことはいいことですよ。だから、今後も継続的に料理をして、まともな食生活を送れるようになってください」


「おうふ……!? な、なんかそう優しく説教されるとそれはそれで困るわね……」


「そもそもこの番組のコンセプトが料理できない人たちにまともなものを作ってもらえるようになるっていうものですからね。自炊のじの字すら出てこない人間ツートップの一人である愛鈴さんには、特にそう思ってますし。健康を維持するためにも、食べるものには気を遣ってくださいよ」


「うっ……! ま、まあ、善処するわ。できるかどうかはわからないけど……」


 真面目に心配されると弱い同期の反応にふふっと笑みをこぼした枢が箸を置く。

 お茶を飲みながら、話していたせいで食べるのが遅れていた愛鈴を待っていた彼は、酢豚を食べ終わった彼女が自分と同じく机の上に箸を置いたことを確認してから、小さく頭を下げ、口を開いた。


「愛鈴さん、今日はごちそうさまでした。美味かったですよ、酢豚」


「いや、まあ、その……こっちこそ色々と教えてくれてありがとうね。前の二人とは違った感じだったしケツも痛いけど、楽しかったわ」


「今日作った酢豚と蛋花湯のレシピはお渡しするんで、月一くらいのペースで作ってください。んで、俺に報告してください。わかりましたね?」


「あれ? ガチで枢ママによる食生活改善計画が実行されようとしてる? え? これ新企画始まるパターン?」


 割と本気で自分の食生活を改善しにかかっている枢の言葉に困惑する愛鈴の反応に、スタッフたちの間から笑い声が飛び出す。

 調理と食事を終えた一同は、収録の締めとしていつものあの言葉を揃って口にしてみせた。


「では、皆さんもご一緒に……ごちそうさまでした!!」




 ……ちなみにではあるが、この動画を見たファンたちから【三下相手にSMプレイをするな】や【LOVE♥FUNです、もう少し強く叩いてあげてほしかったです】、更には【十分イチャついてるんだが自覚がないのか?】、【黒羊さんがこの動画を見たらどう思いますかね……?】というコメントが大量に寄せられた結果、蛇道枢は愛鈴と一緒に仲良く無事に炎上した。


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くるるんキッチン、第四回のゲストは……実は意外と料理ができる!? 同い年のあの先輩!

いいお友達と一緒に和やかにお料理を楽しむ、ほのぼの回になる……よね!? 大丈夫だよね、くるるん!?

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