帰ってきたくるめいデートデー!

零くん、豪運を発揮する

「う~ん……どうすっかなぁ……?」


 その日、零は普段滅多に使わない商店街で買い物をしていた。

 そこでしか手に入らない品があったとか、特売のセールがやっているから来たとかではない。

 彼は今、有栖へのお礼の品を探しているのである。


 先日の一件、優人(ライル)の引退で凹みに凹んでいた自分を慰めに来てくれた彼女は、手料理を振る舞ってくれただけでなく零のありとあらゆる要望を聞き遂げてくれた。

 抱き締めてもらったり膝枕してもらったり、今考えるとやり過ぎとしか思えないあれやこれやの要望に応えてくれた有栖には、流石に何かお礼をすべきだろう。

 ……という考えの下、世話になった有栖へとお礼をすることまではサクッと決まった零であったが、問題はその中身であった。


 シンプルにこちらも手料理を振る舞おうかとも考えたのだが、それはいつもやっていることだからお礼感があまりない。

 そもそも、料理に対して料理を振る舞うことで返したとしても、その後の自分の甘えに応えてくれたお礼としては物足りないが過ぎる。


 食事を奢るというのもなんだか変な雰囲気だし、それだったら手料理の方が心が籠っている感じがあるから、これも却下。

 そうなるとやはり何かプレゼントを送るというのがベターかと考えた零は、そのための品を探し始めたのだが……彼は今、それに思いっきり苦戦していた。


「贈り物、女の子への贈り物……う~ん……?」


 こういう時、何を送ればいいのかがわからない。

 同年代の女子が何を望んでいるのかというデータがあまり頭の中に入っていない零にとって、これは実に難題であった。


 アクセサリー類は趣味があるだろうし、コスメも似たようなもの。そもそも若干失礼かもしれないが、有栖がそういったものに興味を持つ女の子だとは思えない。

 仕事に役立つPC用品は彼女も喜ぶかもしれないが、それだとお礼感が薄まるというか、気持ちが籠っていない気がしなくもないので避けるのが無難だろう。

 食べ物……もあまり料理が得意ではない有栖は困ってしまうだろうし、仮にそういったものを贈るにしても消えものをお礼にしていいのかを迷ってしまう。


 考えていてもきりがないと判断した零はとりあえず色々と見て回ってみようと商店街を訪れ、有栖への贈り物をああでもないこうでもないと吟味しながら店を周ったわけなのだが……結局、ピンとくるものを見つけられずにいた。

 八百屋と肉屋で本日の夕食に使う食材を購入し、帰路に就こうとしていた彼は、答えの出ない問題に苦悩しながら商店街の道を歩いていく。


(有栖さんへのお礼の品、どうするかなぁ……? あんまり時間を空け過ぎてもマズいだろうし、早めに決めねえと……)


 そんな迷いを抱えながら商店街を出ようとしていた零であったが、そんな彼へと声をかける者が現れた。

 驚いてそちらへと顔を向ければ、法被を着た中年の男性が明るい笑顔を浮かべながらこう話しかけてくる。


「ちょいとそこのお兄ちゃん! ウチで買い物してくれたんだろう? なら、福引をやってかないかい?」


「福引? あ、そういえば補助券を貰っていたような……?」


 有栖へのプレゼントについて考え過ぎていて失念していたが、肉と野菜を買った時に福引の補助券を貰っていたことを思い出した零がポケットをまさぐる。

 レシートと一緒に入っていた三枚の福引補助券を取り出した零がそれを男性へと差し出せば、彼は大きく頷くと大声で福引の案内をしてくれた。


「はい! 補助券三枚で福引一回分ね! 豪華な景品もあるから、気合入れて回しなよ~!!」


「はあ……」


 いまいち乗り気になれないながらも、貰えるものは貰っておこうの精神で案内された福引会場へと向かう零。

 基本的に弟が優先されていたせいで滅多に回したことのない抽選機のハンドルを掴んだ彼は、あまり期待しないままそれを回す。


 どうせポケットティッシュくらいの物が当たるのだろうと思いつつ、そんなことよりも有栖へのプレゼントをどうしようかという問題について考えていた零は、抽選機から飛び出した水色の玉を見て小さく肩をすくめた。

 まあ、最低ではないだろうがそこそこくらいの当たりだろうなと、せいぜい商店街で使えるお買い物券千円分とかの景品だろうなと、そんなことを考えていた彼の耳に、けたたましいベルの音が響いた。


「おめでとうございま~すっ! こちらのお客様に三等の景品が大当たり~っ!! 本当におめでとうございま~すっ!」


「え……? さ、三等……?」


 大盛り上がりを見せる福引会場の空気におっかなびっくりした零が驚きながら壁に貼られている景品一覧のポスターへと視線を向ける。

 確かにそこには水色の玉が三等であることが記載されており、一等のお米一年分(これは結構欲しかった)、二等の最新ゲーム機とソフトのセットに続いて豪華なそれが何であるかを確認しようとした彼へと、人の良さそうなおばちゃんが封筒を差し出してきた。


「はい、三等の景品よ。本当におめでとうね」


「あ、ありがとうございます……」


「ふふふ……あなたみたいな人が当ててくれて良かったわ。行くべき人の下に行ったっていうか、なんというか……」


 しみじみとそう語る女性の言葉に首を傾げつつ、受け取った封筒の中身を検める零。

 その中に入っていたのは二枚組のチケットで……これは何なのだろうと考える彼に向け、ニコニコ顔の女性が言う。


「その遊園地のペアチケット、本当にあなたみたいな若い子が当ててくれてよかったわ! 少し早いけど、クリスマスイベントが開催されてるみたいだし……気になってる女の子と行って、勝負をかけてきなさいな!」

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