三幕、変転

「宴だ、宴だ! 酒と食べ物を持ってこい!」


「踊りましょう、歌いましょう! 今日も楽しい夜になるわ!」


 煌びやかな……煌びやかが過ぎるほどに豪華な城内。

 そこでは【反省厨】の男性陣や【トランプキングダム】の一部メンバー、そして先ほど逃げ去った愛鈴とルピアのコンビも加えた王族、貴族メンバーたちが乱痴気騒ぎを繰り広げている。


 この国の現状を表すかのような、無駄遣いとしか思えない豪勢な宴に興じる彼らは、狂ったような笑い声を上げ続けていた。

 そんな狂気に満ちた踊り場の中で、一人の女性だけが周囲とは少し違う雰囲気を発している。

 無邪気に、無垢に、宴を楽しんでいるように見える彼女だが、その純粋さが逆にこの場では異様に見えた。


「歌も、踊りも、食事も、ぜ~んぶ楽しい! もっと、もっと、楽しいことをしましょう!!」


 銀色の長い髪。真っ白なドレス。

 自身の無垢さを表すかのような純白の容姿をしている彼女の名は鏡の魔女、演じているのはリア・アクエリアスだ。


 普通に、いつも通りに、配信で見せている振る舞いを見せているだけの彼女だが、他の演者たちの芝居と流れているBGMによって、その異質さがどんどん際立っていく。


「お腹がはち切れるまで食べましょう! 息ができなくなるまで飲みましょう! 歌い、踊り、騒いで、楽しい夜を過ごす! 私たちは、それが許されている人間だから!」


 普段の津軽弁ではなく、標準語で朗らかにそう読み上げるリアの姿を目にしたリスナーたちは、彼女も芽衣と同じく練習を積み重ねてきたということを感じ取る。

 その上で、他の面々に引けを取らない演技を見せているリアと、普段通りの振る舞いを見せる彼女を異質に仕立て上げる演出に彼らが感嘆する中、騎士役のつららの立ち絵が表示され、彼女の独白が始まった。


「……またしても王たちはこんな宴を催しているのか。あそこに並ぶ料理があれば、いったいどれだけの民が救えるのだろう……」


 声のトーンやため息を使い、感情を込めた演技を行うつらら。

 この国の行く末を憂う騎士としての姿を見せる彼女に続いて、また別の人物が姿を現す。


「つらら、お前も来ていたか。どう思う、この宴を?」


「たらば……」


 軍服を纏った、凛々しい軍人の出で立ちをしているたらばの立ち絵が画面に表示される。

 本来の彼女から女性的なフォルムを切り捨てているものの、上手く特徴を捉えた上でキャラクターに落とし込んでいるその絵のクオリティもすごいが、それよりもすごいのはたらば本人の演技だ。


 陽気さ、温かさ、そういった彼女の最大の特徴を完全に押し殺し、ゾッとするくらいの冷酷さと同時に熱さを感じさせる声で、彼女はつららに語り掛けていく。


「王たちがこんな馬鹿げた宴をしている間にも、民たちは飢えに苦しみながら命を落としていく。俺の部下も同じだ。急ぎ手を打たなければ、この国に未来はない。王や貴族を排除しなければ……!!」


「たらば、そんなことを容易く口に出すな! どこで誰が聞いているかわからんのだぞ……!!」


「この俺がこんなことを口にするということ自体が、国の惨状を物語っているのだ! 民たちの我慢は限界を迎えようとしている! 革命の時が訪れようとしていることは、お前にもわかっているはずだ!!」


 冷酷な熱狂を表現し、過激な思想を大声で叫ぶたらば。

 革命という国に大きな戦乱を巻き起こすその手段に対して、つららは否定的な意見を述べる。


「確かにお前の言うこともわかる。だが、無用な争いを起こして何になるというのだ? 民たちとお前の部下が蜂起したとしても、王に味方する軍もいれば彼らの私兵もいる。双方がぶつかり合えば、それこそ国が滅ぼすほどの大戦争の始まりだ。お前だって、それはわかっているだろうに……!」


「だからこそ、お前に協力してくれと頼んでいるのではないか。お前さえ我々に力を貸してくれれば、この革命は必ず成功する!」


「………」


 狂気を滲ませながらもそれを押し殺したような声色でつららに語り掛けるたらば。

 そのまま、無言を貫く騎士の前で、軍人は己の計画を饒舌に語っていく。


「民から絶大な信頼を誇る穂香姫を旗頭として盛り立てることで、より多くの人間を陣営に取り込む! こちらの軍の規模が膨れ上がれば、肥え太った王の軍勢は尻込みするだろう! そこを一気に討ち滅ぼす! これが最短で、最も被害が出ない革命の方法だ! 信頼されているお前が説得すれば、姫も必ず首を縦に振ってくれる! そうだろう!?」


「……かも、しれん。だが、だが……私は、そんなことを彼女にさせたくはない……!!」


「何故だ!? 国を変えるのが彼女の望みのはずだ! 王たちを排除すれば国は変わる! その後の政治に関してはお前たちに任せるつもりだ! お前たちの望みを叶える、絶好の機会じゃあないか!」


「彼女の望みは国を変えることじゃない! 姫の夢は……この国を、笑顔で満たすことだ。その夢を叶えるために戦争という手段に出ることを、彼女は望まない。だから私は、お前の計画に手を貸すわけにはいかないんだ」


「待てっ、つららっ!!」


 自身を呼び止めるたらばの声を無視したつららがその場を立ち去っていく。

 場面が転換し、ろうそくの明かりだけが灯る暗い部屋の背景が映し出される中、つららは胸中の想いや苦悩を大勢の観客の前で吐露し始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る