二幕、姫と騎士

「私は、この国を笑顔あふれる国にしたいの。王も貴族も民も関係ない。みんなが平等に笑って、力を合わせて、未来へと進んでいく……そんな国にしてみたい」


「素晴らしい夢だ。そんな未来が訪れたら、どんなにいいことか……」


「だけど……私にはそのための力がない。力なき者の声は誰の耳にも届かないままかき消されるだけ……」


「落胆なさらないでください、穂香姫。少なくともここに一人、あなたの夢に賛同する者がいます。私はあなたの騎士として、その夢を叶える手助けをさせていただきましょう」


「ありがとう、つらら。とても心強いわ。あなたと一緒なら、きっと――」


 静かでムードのある音楽をバックに、互いの夢を確かめ合う姫と騎士。

 恋愛感情とも主従関係ともまた少し違う、互いの想いを理解し合う仲という特別な関係性を少しずつ深めていくように、話は進んでいく。


「少しでも食料を人々に届けるために、私にできることはないかしら? やっぱり、直接配りに行くしか――」


「ならば私も共に参りましょう。あなたに降りかかる危険は、この剣で振り払ってみせます」


「また増税……! この案が可決されてしまえば、民たちは一層苦しむことになる。どうにか人を集め、却下させないと!」


「私も人々に呼び掛けましょう。まだこの国の中枢にも、心ある者が残っているはずです」


「なんとか民たちの危機を救えたわ。つらら、あなたが協力してくれたお陰ね」


「全ては穂香姫が立ち上がったからこそはじまったこと。人々の心を動かしたのはあなたであって、私はただその手助けをしたまでです」


 国のため、民のため、力を合わせて困難を突破し、二人は少しずつ夢を現実へと近付けていく。

 ひたむきに努力を続けた姫は、気が付けば民衆からの強い支持を得るようになっていた。


 王族や貴族からは邪魔な存在として目を付けられるようになってしまったが、無理に彼女を排除すれば民衆の不満が爆発することが目に見えているために動くことができない。

 力なき状況から一変し、国にとって無視できない存在となった穂香姫は、そんな状況に重圧を感じながらも自分を支えてくれる騎士と出会ったあの庭園で彼と話をしていた。


「つらら……あなたと出会って、短いようで長い時間が過ぎたわ。この国の人々を笑顔にしたいという夢の成就にはまだまだ遠いけど、確かに前に進んでいる実感がある。これからも、私と一緒に歩んでくれる? 遠く果てない、この長き道のりを……」


「……あなたが望むのなら、私は傍におります。私は、あなたの騎士ですから」


 信頼の感情を滲ませる穂香の言葉に、静かな声で返事をするつらら。

 その答えに安堵の息を吐く彼女であったが、騎士であるつららの声には僅かな迷いが感じられる。


 その感情を悟られる前に理由を付けた彼が退場した後も、穂香は一人庭園に残り続けていたのだが――


「くすん、くすん……」


「あら……?」


 微かに、されど確かに聞こえた誰かの泣き声に驚き、周囲を見回す穂香。

 風と共に耳へと運ばれてきたその声の主を探した彼女は、花と花の間に隠れる小さな妖精を見つけ出す。


 芽衣が演じるその妖精の立ち絵が配信画面に表示される中、穂香は彼女へとこう疑問を投げかけた。


「かわいい妖精さん、どうかしたの? なぜ、あなたは泣いているの?」


「くすん、くすん……優しいお姫様、私は悲しくて恐ろしいのです」


「悲しくて恐ろしい? なにが?」


 優しい声色で怯える妖精へと問いかける穂香。

 彼女の演技もそうだが、弱々しく恐怖している芽衣の演技も中々のものであると、彼女が一生懸命にこの声劇に備えて練習を重ねていたということをリスナーたちが感じ取る中、その芽衣が穂香の質問への答えを口にする。


「この国には、とても恐ろしい魔女が住み着いています。今、その魔女が大きな災いを生み出そうとしている……その災いの訪れが恐ろしく、多くの人々が傷付くことを想像すると悲しみで涙があふれるのです」


 涙声でそう述べた芽衣の台詞の後、またしても場面が切り替わる。

 荘厳なオーケストラの音楽に彩られながら映し出されたのは、上流階級の面々が集う城内の光景であった。

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