一幕、出会い

【くるるんが脚本を手掛けたと聞いてきました。楽しみです】

【まだちょっと不安……】

【悪徳事務所トランプキングダムは解散しろ! 社員もタレントも全員刑務所行きにすべき!】


 配信開始時刻、コメント欄は良くも悪くも賑わっていた。

 純粋に配信を楽しみにしている者、不安を隠し切れない者、明らかに荒らし目的の者、それぞれの想いをコメントに乗せて出演者たちへと送るリスナーたちは、声劇の開演を落ち着かない様子で待ち続けている。


 そうやって、軽く五桁の同時接続数を叩き出している配信が始まりの時を迎えた時、切り替わった画面にチャンネルの主である枢が姿を現した。

 軽く息を整えた彼は、リスナーたちへと前置きと挨拶をしてから裏へと引っ込む。


「音声、大丈夫ですか? ……うん、ありがとう。では、声劇コラボを始めさせていただきます。よろしくお願いします」


 枢の立ち絵が消え、代わりに中世を思わせる賑やかな街並みのイラストが表示される。

 ざわざわという人の声を挿入し、それが静まった後、ナレーターである枢が劇の始まりとなる台詞を発した。


『昔、昔のお話。とある地に、大きな国がありました。国を治める貴族たちが強い力を持つその王国では、彼らが贅沢三昧の暮らしをする一方で民たちが貧困に喘いでいます』


 配信画面の半分には綺麗な衣類に身を包んだ貴族たちが豪華な料理を貪る絵が、もう半分にはぼろぼろの服を着た民たちが少ない食事を分け合う絵を表示して、文字通り背景設定をナレーションと共に解説する枢。

 再び背景が切り替わり、今度は花が咲き誇る庭園のイラストが表示される。


『自分たちのことばかりを考えている王族や貴族たちでしたが、その中にも民を思いやる人物もいました。心優しき穂香姫は貴族としての地位は低いながらも、民衆を思ってできる限りの支援をしています。ですが、そんな彼女の姿は他の貴族たちの目には異端に映り、彼女はいじめの絶好の的になっていました』


 そこでナレーションが途切れ、三名のキャラ立ち絵が画面に映る。

 主役である穂香姫と、愛鈴とルピアをモデルとした姫のイラストが表示されると共に、彼女たちが演技を始めた。


「なんだか変な臭いがするわね~! どこから臭ってるのかしら?」


「あらあら! そこにいらっしゃるのは穂香姫ではありませんこと? なるほど、このドブのような悪臭の出所はあなただったのね!」


「貴族の立場でありながら下賤な民の下へ出向いているんですもの、臭いが移って当然ですわよね~!」


「そんな、止めてください! 私も民たちも、そんなふうに言われる筋合いはないはずです!」


 ねちっこいいびりに対して、毅然と反論する穂香。

 しかし、そんな彼女の態度が面白くなかったのか、いじわる姫たちは過激な手段に打って出る。


「生意気なことを……! 異端者の分際で、恥を知りなさい!」


「きゃっ……!!」


 ドンッ、という穂香が突き飛ばされたことを表すSEと共に、彼女が小さな悲鳴を上げる。

 脳裏にその光景が思い浮かぶような彼女たちの演技に、リスナーたちは前のめりになって声劇に集中していった。


「なんの後ろ盾もない弱小貴族が! 身の程を理解しなさいな!」


「っっ……!!」


『熱くなったいじわる姫たちは、気に食わない穂香姫の前で腕を振り上げました。彼女の美しい顔にその手が振り下ろされそうになった、その時――』


「そこまでにしなさい。そのような乱暴な振る舞いをするあなたたちの方こそ、恥を知るべきだ」


「あっ……!?」


 状況を補足する枢のナレーションの後、新たに表示される立ち絵。

 つららをモデルとした麗しい騎士が登場すると共に、彼女がその姿に相応しい演技を見せる。


 丁寧ながらも有無を言わせぬ迫力で姫たちの蛮行を止めたつららは、二人のいじわる姫を追い払うと今度は穂香へと声をかけた。


「申し訳ありません。もっと早くにお助けすべきでした」


「いいえ。私を助けてくださったこと、感謝しています」


「騎士として、か弱き者を守るのは当然のこと。あなたのような美しい志を持つ方なら、なおさらです」


『国を思い、そこに生きる民を思っているのは、穂香姫だけではありません。彼女を助けた騎士、つららも同じです。同じ志を持つ二人はこうして出会い、互いに手を取り合って、夢を追う間柄となりました』


 メインキャラとなる二人の出会いを描きつつ、この先の展開にも軽く触れるナレーション。

 それを受けた後、穂香とつららが台詞の掛け合いを行っていった。


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