絶縁オチなんてサイテー!

「……というわけで、全部私たちの勘違いでした。零くんは、ビールなんて飲んでません!」


「はぁ~……そうだとは思ってたけど、真相がはっきりするとほっとするわね~。零は未成年飲酒どころか、酒を買ってもいなかったと。疑いが晴れてよかった、よかった」


「こんなことなら直接聞いておけばよかったよ~! 回りくどいことをしたせいで、お姉さん説教され損さ~!」


 そして翌日、事の次第を報告した有栖のお陰で、無事に零にかけられていた嫌疑は晴れ……同時に、ここ数日間やきもきとしていた面々も真相を知れたお陰でほっと胸を撫で下ろしていた。

 結構本気で心配していた天が安堵のため息を吐きつつ、抱えていた不安をごまかすように軽口を叩く中、誰よりも明るい口調で誰よりも反省しなければならない人物が嬉しそうに話し始める。


「いや~、そういうことだったんすね~! ま~ったく、薫子さんってば紛らわしいことするんすから~!」


「……一番紛らわすくてあったのって、一人で騒いぢゃー加峰さんだど思うんだばって、ツッコんだっきゃ負げだが?」


「大丈夫だよ、スイちゃん。それはみんなが思ってることだから、敢えて口にするまでもないってやつさ~!」


 結局のところ、騒動を大きくした元凶は誰なのかと問われれば、誰もが口をそろえて梨子だと答えるだろう。

 これは有栖たちにもいえることではあるが、最初の時点で彼女が零に直接発見したビールについて聞いていればこんな事態にはならなかったのだから。


 それがらしいといわれればそれまでではあるが、やはりしゃぼんはしゃぼんというか……余計なことをするのはダメ人間である彼女なんだなと沙織たちは思っていた。

 だがしかし、ここで忘れてはならないのは……全てを知ったのは、この場に集った面々だけではない、ということである。


「……あ、そういえばなんですけど……事の経緯は、零くんと薫子さんにもしっかり説明しておきました。色々とこんがらがっちゃったんで、一から十までお話しておかないと、また変な誤解が生まれちゃいそうでしたから」


「……え゛っ?」


 不意に発せられた有栖の一言に、高笑いを引っ込めてどうやって出したんだとツッコまざるを得ない声で呻く梨子。

 ギギギギギと鈍い動きで首を動かしてPC画面へと視線を向けた彼女は、震える声で有栖へと問いかける。


「あの、有栖ちゃん? 説明ってその、自分が坊やのことを心配してたってことを、二人に話したってことっすかね……?」


「はい。零くんがお酒を飲んでるかもしれないと加峰さんが疑って、真相を確かめるために私たちに協力を募ったということをお話しました。零くんも薫子さんも、大変興味深そうにお話を聞いてくれましたよ」


「あっ、ふ~ん……! へ、へえ……そそそ、そうなんすねえ……!!」


 なんとなく、本当になんとなくではあるが……梨子は、有栖が怒っていることを察していた。

 余計な不安を掻き立て、零のことを彼女に心配させて、その結果が自分の思い違いというあんまりなオチだったことに対して、彼女も多少なりとも怒りの感情を抱いているのだろうなと……黒羊芽衣のオーラをひしひしと感じながら息を飲んだ梨子へと、有栖が穏やかな声で言う。


「それで、これはお二人からの伝言です。まずは薫子さんなんですけど……『くだらないことで悩んでる暇があるってことは、クリスマス衣装のデザインはできあがってるんだろうね? 締め切り、もうすぐだよ』だそうです。進捗、いかがですか?」


「い、いやその~、やっぱ坊やのことが心配で作業が手につかなかったというか、そういう精神状態では絵も描けないっていうか……ねえ?」


「『お前が何もしてないのはいつも通りだろ。ぐだぐだ言ってないでとっとと仕上げな!』……とも仰ってましたよ?」


「ギエピーッ! か、薫子さん、自分の行動パターンを読み切っていらっしゃる~っ!? ややや、ヤバいぃっ!! こんな状況で現在の作業進捗を知られたら、マジで殺されるぅぅっ!!」


 自分の反応すらも見通していた薫子の伝言による叱責に悲鳴を上げて慌て始める梨子。

 だがしかし、彼女に反省を促す人物はもう一人残っていて――?


「……それと、こっちは零くんからの伝言です。『俺のことを心配してくれる気持ちはありがたいですけど、だからといって周りの人たちを巻き込まないでください。とりあえず、薫子さんから振られた仕事が終わるまでは口きかないつもりなんで、そのつもりでいてください。PS.絶縁』……だそうですよ」


「ほんぎゃあぁあっ!! そんな軽い気持ちで絶縁しないで~っ! もっとママとの絆に重みを見出して~っ! せめて追伸じゃなくてメインの文章で絶縁宣言してください! お願いだから! 頼みますから!!」


 もはやおなじみとなった息子からの絶縁宣言に涙を流し、悲嘆にくれる梨子がジタバタと暴れ始める。

 もうこれ以上は話すことはないなと、そう判断した二期生たちは実に冷淡に彼女のことを放置して、通話チャンネルを抜けていった。


「それじゃあ私、そろそろ配信の時間なんで……お先に失礼するさ~!」


「私も配信に備えて準備しなきゃ。んじゃ、また……」


「わっきゃおねんねすます! 明日も学校なんで! おやすみなさい!」


「ままま、待って! せめてもう少し自分とお喋りして、メンタルの回復に協力してくださいよ~っ!!」


 通話を切断する通知音を響かせながら次々と逃げ出す二期生たちに涙声で慈悲を乞う梨子であったが、残念ながらその願いが叶うことはなさそうだ。

 最後まで残っていた有栖もまた、怖いくらいに優しい声色で彼女へと語り掛けると共に、チャンネルを退出する。


「頑張ってくださいね、加峰さん! 加峰さんならきっとできるって信じてますから! それじゃあ、失礼します!」


「あっ! 有栖ちゃんっ!? 有栖ちゃ~んっ!? お願いだから戻ってきて! 自分を一人にしないで! あわよくば坊やと薫子さんの説得に力を貸して~っ! カンバーック! ヘルプミーッ! ほんげえええええっ!!」


 誰もいなくなった通話チャンネルもとい、梨子の家の中に彼女の悲痛な悲鳴(自業自得だが)が響き渡る。

 その後、マジで全く進んでいない作業進捗の報告を受けて般若になった薫子によって地獄の監禁コースにぶち込まれた梨子は、翌日から大泣き状態で仕事をする羽目になったとか、ならなくはなかったとか……。






―――――――――――――――


今回も長い短編にお付き合いくださり、ありがとうございました。

明日より『Vtuberってめんどくせえ!』、五部のお話に入らせていただきます。


それに伴ってちょっとした注意というか、少しお話したいことがありまして、活動報告にその旨を記載させていただいております。

以前に投稿した五部プロローグと合わせてご一読くださるよう、よろしくお願い申し上げます。

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