制服ボイス、GO!GO!GO!
『い、いらっしゃいませ~。Cマートへ、ようこそ~……あぅ、やっぱり固いなぁ。接客業って緊張するし、私には向いてないんじゃ……ぴぇっ!? い、今の話、聞いてた? は、恥ずかしいよぉ……!!』
羊坂芽衣制服Verのボイスは、そんなぎこちなさがはっきりと感じられる演技から始まった。
店員としての業務に慣れている雰囲気の枢とは違い、引っ込み思案で気弱な芽衣の性格を反映している台詞の後、彼女は一つため息をこぼしてからこう続ける。
『……向いてない、って言って逃げてるだけじゃだめだよね。できないことをできるようにするためにも、お店に来てくれるお客さんに気持ち良くお買い物をしてもらうためにも、しっかりしなきゃ! それじゃあ、改めて……いらっしゃいませ! Cマートへようこそ!』
「うんうん、いい! おどおどしてるけど一生懸命に前向きになろうとしているところなんて、芽衣ちゃんらしさがしっかり出てるじゃないか!」
枢同様、二言三言だけのボイスではあるものの、その短い時間と台詞の中でそれぞれのキャラクター性を感じられるような出来に仕上がっているボイスの内容には、二期生全員のファンでありくるめい過激派でもある界人もご満悦のようだ。
脚本を担当した紗理奈を心の中で賞賛しながら、彼はそっと私服Verの枢と芽衣のファイルをテーブルの端へと寄せる。
「トリを枢に任せるとなると、芽衣ちゃんはその前になるよな。これである程度の順番は決まったし……どうせなら、まず全員の制服Verのボイスを堪能するか!」
くるめい過激派として、枢と芽衣のボイスを順番に聞かないという選択肢はあり得ない。
ラストを枢に飾ってもらうと決めている以上、芽衣の順番は自然とその前ということになる。
こうしてある程度の順番を決めた界人は、ここまで連続して制服Verのボイスを聞いているのだからどうせならまずそちらを全員分聞いてしまおうと考えた。
というわけで、三番目に聞くボイスをどれにしようかとクリアファイルを眺めた彼は、あまり迷うことなく三枚のファイルの中から一枚を選ぶと、そこに刻まれているバーコードをスキャンしてみせる。
ややあって、読み込みが終わったスマートフォンから流れてきたのは、陽気で明るい沖縄語交じりのボイスであった。
『めんそーれー! Cマートにようこそ~! いや~、まだまだ暑い日が続くね~! 沖縄育ちのお姉さんも、この気温にはびっくりさ~! 食欲がなくなっちゃう気持ちもわかるけど、栄養ドリンクとかゼリー飲料だけで乗り過ごそうとしちゃだめだよ~? そんなんじゃあ元気出なくて、バタッと倒れちゃうさ~! しっかり栄養のあるものを食べるんだよ~!』
お姉さんらしく、まだ夏の暑さが残る近頃の気温について触れつつ、ボイスを聞く者たちの食生活を注意するたらば。
明るさと大人っぽさが同居するその内容に胸を躍らせる界人に対して、彼女はこう続ける。
『お姉さん、君には健康でいてほしいからね~。お肉と野菜のバランスが取れたお弁当に、熱中症対策にもなるドリンク、ひんやり美味しいデザートとか、Cマートには色んな物が揃ってるよ~! サービスでプレゼント……は、できないけれど、代わりにお姉さんのスマイルをプレゼントするね! これで元気出すさ~! ちばりよ~!』
クリアファイルに描かれている太陽のような明るく弾ける笑顔を見せているたらばからの励ましは、それを聞く者たちにとって大いに励みになっただろう。
別に彼に不満があるわけではないが、近所のCマートの店長がたらばのようなお姉さんだったらな……と考えた界人は、ままならぬ現実に歯噛みしながら次のボイスを読み込んでいく。
本当は一つのボイスを聞く度にその感動を噛み締め、神に感謝したいところなのではあるが、そんなことをしていたら夜が明けても鑑賞が終わらなくなってしまうだろう。
その作業は最後に一纏めにして行おうと心に決めながら、ビールをちびちびと飲みながら、界人は新しいボイスという最高の肴を堪能していった。
『いらっしゃいませ♡ Cマートへようこそ☆ 一日店長のラブリーです♡ きゃはっ☆ ……おい、なんだその目は? キツイとか言うんじゃねえ! みんな大好き初期ラブリーだぞ!? 最近は三下キャラが定着して滅多に見られなくなったキラッキラできゃっぴきゃぴの私だぞ!? もっとありがたがれよ! 涙を流して感謝しなさいよ! ねえっ!?』
これはまたひどい内容(褒め言葉)だなと、ここまで聞いてきた三人のボイスとの落差が凄い愛鈴のボイスに対して苦笑を浮かべる界人。
ある意味では最も彼女を輝かせる内容であるこのボイスは、愛鈴自身の高い演技力も相まってかなりの完成度に仕上がっている。
そういえば愛鈴にもこんな時代があったんだな……と、まだキャラが崩壊してから間もないというのにも関わらず、随分と昔のことのように思えるラブリーアイドル系キャラをしていた彼女のことを思い出した界人は、今の彼女は別ベクトルではあるがその頃以上に輝いているぞと心の中でエールを送った。
『ちくしょう! どいつもこいつも私を馬鹿にしやがって……! こうなったら今日一日の売上で奴らの度肝を抜いてやるわ! 総員、全力で売って、売って、売りまくるわよ! 一日店長愛鈴さまの凄さを見せつけてやるわ! ……当然、あんたも協力してくれるわよね? 特別にドリンクと、お弁当と、ホットスナック一つ分くらいのお買い上げで許してあ~げ~るっ!!』
「う~ん、これはこれでなかなか乙なものが……!」
初期キャラからの三下キャラからの強引な我がままムーブという、愛鈴の演技力をこれでもかと活かしたボイスの内容に驚きつつ頷く界人。
他の三人と尺は変わらないというのに、ボリュームが何倍にも感じられるのは彼女の類稀なる演技力のお陰(あるいは濃すぎるキャラのせい)だろうと考えた彼は、ここまで二期生の強みを活かした脚本を書き続けている紗理奈に対して、改めて敬意を表した。
その上で、とても比較が楽しみになっている二種類のファイルを両手に一枚ずつ持った彼は、ニマニマと笑いながら一人呟く。
「さて、この二つはどうなってるのかを確かめる時間がやってきたぞ~!」
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