お願いだから、もういい加減にしてください

 あっさりと雰囲気を破壊してみせた沙織へとツッコミを入れる零。

 ツッコミどころが多過ぎて最早一言ではツッコミきれないという異常事態に頭を抱えそうになった彼の前で、ダメな大人たちによる妹分への性教育が始まる。


「そうだそうだ~! 口ではああ言ってるけどな、ああいう男が一番スケベなのよ! 今でも虎視眈々と有栖ちゃんのことを食べるタイミングを見計らってるに違いないって!」


「健康的な男の子でいいことさ~! 私的にも、零くんと有栖ちゃんには幸せになってほしいから、気落ちせずに頑張ってね~!」


「いい加減にしろよ、このダメ大人共! っていうかあんたら、彼氏も作ったことないくせに男のあれこれを勝手に語ってんじゃねえ!!」


 ご尤もすぎるツッコミを入れた零が語気を荒げ、頭から湯気を放つ。

 元アイドルであった沙織が恋人を作らなかったことは知っているが、天に関してはそういう情報を一切仕入れていないわけだが……まあ、どうせあの性格ならば彼氏なんてできたことがないだろうなという失礼な彼の直感は見事に的中していたようだ。


「うるせー! そういうお前だってどうせ彼女もできたことがなければ童貞のくせに何言ってんだ! この巨乳好きむっつり炎上芸人め!!」


「はっ、ウケる! 負け犬の遠吠えは聞いてて笑えるわ~! つーか芸人はあんただろうが! 人のこと棚に上げてふざけたことを抜かしてんじゃねえぞ!!」


 わーぎゃーと騒ぎ始めた天を一刀両断し、彼女に大ダメージを与えた零が鼻をふんと鳴らす。

 やっぱり下ネタ関連の話は気まずさと被害しか生まないじゃないかと彼がげんなりとしたため息を漏らす中、再び有栖が口を開いた。


「零くんが虎視眈々と私を狙ってるって、想像するとなんか面白いね。あり得ないことだからこそ、笑っちゃうんだろうけどさ」


「う~ん……わーも想像すたっきゃわんつか噴ぎ出すそうになってまりますた。阿久津さん、そったのどは無縁な気がすます」


「おぉぉ……っ! 平和だ、やっぱりこの人たちは俺のことをわかってくれてるんだ……!」


 有栖とスイからの擁護(?)の言葉に追い詰められていた零はついつい泣き出しそうになってしまった。

 それを受け、悪ノリを続けていた沙織もはははと笑ってからこう述べる。


「まあ、そうだよね~! 零くんの場合、晩ご飯のお裾分けとかで何回も有栖ちゃんの家に上がってたりするわけだし……手を出すのなら、この半年の間にとっくに出してるよね~!」


「考えてみれば凄いわよね。普通の男なら、そんな状況をみすみす何度も見逃すわけないでしょ? 本当にタマ付いてるの?」


「だから言ってんでしょうが、俺は有栖さんのことをどうこうしたいとか思ってないんだって。俺にとって有栖さんは見守るべき存在で、共に夢を追う仲間で、大切な……同期なんですから、そういうふうなことを考えたりはしないんですよ」


 少しだけ気恥ずかしさを覚えつつ、という正しい表現を上手くごまかしつつ、話を軌道修正すべく努力する零。

 これでどうにかこのくだらない状況がどうにかなってくれればいいのだが……と思っていた彼であったが、運命はそう簡単に変えられるものではなくて……?


「……なんとなくですけど、秤屋さんが言ってた気持ちがわかりました。堂々とそういう目で見ないって言われると、ちょっと傷付くしイラッときますね」


「えっ!? ええっ!?」


 何故だか自分の発言が癪に障った有栖の発言は、零に本日最大の動揺をもたらした。

 再び拗ねモードに突入した彼女の反応に零が狼狽する中、同期たちが次々とその発言に乗っかっていく。


「でしょう!? やっぱ有栖ちゃんですわ~! 私の気持ちに寄り添ってくれる女神! エンジェル!!」


「考えでみぃば、おめに女どすての魅力は感ずねってしゃべらぃだようなものすたはんでね……阿久津さん、地味にひどぇ」


「う~ん、これは零くんに有栖ちゃんの魅力を理解してもらえるよう、私たちが一肌脱ぐしかないね! えっちな絵の話なだけに!」


「は、はぁっ!? いやちょっと、あんたたち何を言って――!?」


 どんどん話が悪い方向へと進んでいくことに冷や汗を流す零であったが、もうこの流れを止めることはできないようだ。

 彼が呆然とする中、女性陣はセクハラじみた作戦を堂々と話し合い、実行していく。


「とりあえずサイト巡回して芽衣ちゃんのエロ絵を保存しまくるわ。そいつを零のPCに送りまくるってことでどう?」


「よし、それだ! 不意打ちでお姉さんのえっちな絵も送って、味変を楽しんでもらうさ~!」


「じゃあわっきゃギリギリ全年齢の絵探すてみます! そったのが好ぎなふともいるって聞いだごどありますし!」


「……前に買った水着、どこにしまったっけ」


 これはもう完全にアウトだろうと、どうしてここまでノリノリで自分にセクハラができるのかと、底知れぬ女性陣の恐ろしさに戦慄する零。

 特に最後に聞こえてきた有栖の呟きが恐ろしくて恐ろしくて仕方がない彼は、その恐怖を振り払うように息を吸うと、大声で全体に向けてツッコミを入れた。


「い、い、いいからあんたら、真剣に成人向けイラストのタグを考えろっ!! めんどくせえにも程があるだろうがよっ!!」






 ……その後、無事に全員分の成人向けイラスト用タグは決まり、それを後日配信で拡散することも決まったのだが、女性陣による零へのセクハラ行為は暫く続くことになった。

 定期的に送られてくる羊坂芽衣(と花咲たらば)のR18イラストに辟易としながらも感想を求められた彼は、普通は立場が逆だろうとフリーダム過ぎる同期たちの行動に心の中でツッコミを入れつつ、涙を流したそうな。


 ……ちなみに、一番ぐっと来たイラストが【芽衣ちゃんのマイクロビキニ姿】(全年齢向け)であると答えた結果、それをぽろっと配信で漏らした沙織のせいで成人向け全年齢向け問わず羊坂芽衣のマイクロビキニイラストが大量生産されることとなり、なんだかんだで蛇道枢は炎上した。

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