Vtuberってめんどくせえ！

残念だぞ、ラブリー！

「汚したくなる、何か……？」

「あぁ～……うん、そう。本当、上手くは説明できないんだけどさ……」

　どうして自分は女性にこんなことを話しているんだろうかと、この場の状況に困惑と悲しみを覚える零が心の中で自問自答する。

　男の（というより自分の）性癖というか、エロについての観点というものを女性である同期たちに解説するという羞恥しかない状況に耐えながら、彼はヤケクソ気味に話をしていった。

「やっぱほら、エロっていけないと思いつつもついつい見たり、想像しちゃうようなことであって、その背徳感的なものがいいんじゃないかな……と、勝手に思うわけですよ、はい。芽衣ちゃんとかリア様みたいなピュアな女の子を裸に剥くのって、それだけで興奮するものがある……んじゃないっすかね？」

「おい、ちょっと待て！　その感じでいくと、二期生断トツのエロ絵数を誇るたらばはどうなるんだよ!?」

「花咲さんの場合は、性格も体型も何もかもがエロいから例外でしょ。スーパーオープンでスタイル抜群なお姉さんだなんて、エロく見ないわけがないし」

「おっ!?　やっぱり零くんもお姉さんのことをそういう目で見ることもあるんだね～！　男の子らしくて実にいいことだよ～！」

「あくまで一般論的なものであって、俺が花咲さんとか喜屋武さんのことをそう思ってるとかじゃあありませんからね！　そこんところ、忘れないでくださいよ!?」

「なんか、必死になって否定するど逆さ怪すいね」

「解放的な性格、お姉さん、大きいおっぱい……あぅ」

　またしても生まれそうになった二次被害を必死に消火しつつ、上手いこと逃げ道を確保しつつ、解説を続ける零。

　どうして自分はこんなことをしているんだろうと自身の行動に疑問を覚えてしまったら最後だと考える彼へと、天が憎々し気に言う。

「じゃあなにか？　私にはそういう純な部分がないから股間がおっ勃たないってか？　なんでだよ!?　私だってなあ、結構女の子してるところがないわけじゃあないんだぞ!?」

「いや、無理でしょ……飲酒が原因で炎上した後、あんた完全にバラエティアイドルとしての道を突き進んじゃってるし、こちらが汚す前に完全に汚れきってるっていうか、既に吐しゃ物の臭いを撒き散らすレベルっていうか……」

「誰がゲロまみれ系三下Vtuberだ、この野郎!!　もっと私をキラキラしたものとして見ろよ！　汚したくなれよ！　欲情をそそられろよ!!」

「あ～……零くんに言われてわかったけど、確かに天ちゃんってどこか残念だね。かわいいけど、ムラッとしないっていう男の人の気持ちもわかる気がするさ～」

「スケベな絵がおしおきされるものばすだっていうのも納得でぎでまりますた。今の秤屋さん、わがらせだぐなる感ずがすますもの」

「畜生！　持つ者たちが一斉に私を攻撃してくる!!　こんな現実、大嫌いだっ!!　誰かっ、ビール持って来てくれ～っ!!」

「……飲むんですか、お酒？　炎上を機に禁酒したって言ってたのに？」

「嘘です言葉の綾です勢いで言っただけです。冗談ですから黒羊さんにならないでください、入江さん」

「あとはまあ、これも原因ですかね。なんて言うかこう……ねえ？」

「まあ、うん……」

「そうだねえ……」

「その言ったら可哀想だから核心的な部分を言わないであげようみたいな態度、止めて！　どうせならいっそトドメを刺しなさいよ！　言葉にできない欠点があるみたいで辛いことこの上ないじゃない!!」

　別に苛めたいわけではないのだが、ものの見事にエロく見れない原因を露呈してくれる天のお陰で必要以上に彼女をフルボッコにする羽目になってしまった。

　もうこれ以上はお互いに傷を負うだけなので話を止めようと口を閉ざした零が、すすり泣く天の声を罪悪感を抱きながら聞いていると――

「あの、零くん……ちょっと質問いいかな？」

「はい？　どうしたの、有栖さん？」

　不意に有栖から声をかけられた零が、彼女の話へと耳を傾ける。

　少し躊躇いがちな様子を見せていた有栖であったが、意を決したように彼へとこんな質問を投げかけてきた。

「さ、さっきの話からすると、さ……零くんはその、私や三瓶さんのことを、汚したいって思ってるの……？」

　やや過激で危険な質問を口にした有栖がPCの画面を上目がちに覗き込みながら零の返答を待つ。

　これまたここまでのあれやこれやに負けないくらいの危ない質問であったが、意外なことに零は落ち着き払った態度であっさりとこう答えてみせた。

「いいや、俺はそういうふうには考えてないよ。俺は有栖さんや三瓶さんはこのまま素直に育ってほしいと思ってる人間だからね」

　それは紛れもない零の本心で、偽らざる彼の想いだ。

　純粋で、綺麗で、真っ直ぐな彼女たちだからこそ、そのまますくすくと健やかに成長してほしいと零は思っている。

　だからこそ自分は体を張って彼女たちを守ろうと思えるし、実際にそうする時だって迷わない。

　そういうふうに思わせてくれる有栖たちのことは本当に大切だし、そんな彼女たちのことをいやらしい目で見ることなんてあるはずが――

「有栖ちゃん、有栖ちゃん。とかなんとか言っておきながら最後には美味しく召し上がろうと考えてるのが男の子だから、安心していいよ～！」

「おいちょっと待てあんた。どうしてこの感動的な空気をあっさりぶち壊せる？　ってか、それって絶対に安心できない状況だと思うんですが？」