天、泣く
シン、と場が静まり返った。
先程まで同期たちにツッコミの連打を浴びせていた零も、明るく笑い続けていた沙織も、無邪気なスイでさえ……この事態の深刻さに揃って口を閉ざしている。
うっ、うっ、と嗚咽するような天の声を聞きながら、どう彼女に声をかけていいのかわからずに零が呆然とする中、一番早くに立ち直った沙織がこう問いかけた。
「え? 嘘でしょ? 一件もないってことはない、よね……?」
「……ないことはない。だけど、ソロでのエロイラストは一枚もないんだよ! 大体二期生全員とかロリ組とかについでのように入れられてるだけで、私単独の成人向けイラストはないんだよ~!!」
「ええ……?」
THE・添え物、といった愛鈴の扱いを聞いた零は、あまりの不憫さに何も言えなくなってしまった。
さっきから自分の名前を出さなかったのは、出したくてもできなかったのかと……そう理解した彼の前で、沙織たちによる必死の励ましが始まる。
「こっ、これから! これからだよ! ここからちょっとずつ、イラストの数も増えていくはずさ~!」
「未成年のリア様にダブルスコアつけられて負けてるってのに、ここからどう増えてくっていうのよ!? っていうか、一生かかってもあんたらに追いつける気がしないんだけど!?」
「で、でも、単独での絵より誰かと一緒に描かれてるイラストが多いのは私も一緒ですし……」
「単独より複数絵の方が多いのと、複数絵しか存在してないとじゃあ天と地ほどの差があるのよ! っていうかそもそも、私の絵ってどうしてだかエッッしてないんだけど!? 大体が黒羊さんや枢の奴に鞭やらろうそくやらでシバかれてる絵なんだけど!? どういうことよ!?」
「きっともっと人気が出ればそういう絵も増える……はずですよ!」
「まだ私の知名度とイメージが足りないってか!? まだリスナーたちはあの炎上を許してないってか!? おしおきされるイラストばっかりになるのも納得ってか!? 畜生め! っていうかなんだこいつら!? 【愛鈴じゃ勃たない】って、勃たせろよ! ムラムラしろよ! 私を女としてエロい目で見ろよ~!!」
聞いてる側はつい笑ってしまいそうになる発言だが、言っている側は至極真面目である上に必死だ。
どちらかといえば喜ぶべき状況であるはずなのに、どうしてだか可哀想にしか思えない天に対して、女性陣もこれ以上は何も言えなくなっている。
「畜生……! おい、零! 男から見て、私に何が足りない!? なんで男どもは私をエロい目で見ないんだ!?」
「お、俺に聞かないでくださいよ。別に俺、秤屋さんも含めて、みんなのことをそういう目で見たことなんてないですし……」
「下手な嘘こいてんじゃね~っ!! お前は一度もたらばのたわわなたらばを見て、興奮しなかったっていうのか!? 芽衣ちゃんとくるるんのイチャイチャを見て、そういう想像を巡らせたりしなかったっていうのかぁ!? そいつは逆に不自然だろうがよ~!」
「ああ……零くん? なんでもいいかから、思ったことを天ちゃんに教えてあげて。なんかもう、そうしないとこの発狂は終わらない気しかしないし……」
「私もそう思うから……お願い。秤屋さんだけじゃなく、私たちを助けると思って……」
「阿久津さん、いっつも大変だね。こぃが唯一の男さ降りかがる災難ってやづだが」
結局、一番の被害は自分のところに来るのかと、お決まりの流れにげんなりとしたため息を吐く零。
だがまあ、確かに今の天は不憫が過ぎるし、このまま放っておいたら彼女だけでなく自分たちもそこそこにダメージを負うことになる気がしなくもない。
ここは介錯を引き受けるつもりで彼女の疑問に答えた方がいいと考えた零は、一生懸命に頭を悩ませた末に思い付いた答えを同期たちへと述べる。
「ああ、えっと、そうっすねえ……体型の問題とかはさておいて、可能性があるとすれば……」
「すれば? なんだってのよ、ええ!?」
頼むから脅しじみた言動は止めてほしいと思いつつ、気を取り直すために咳払いを一つ。
そうした後で改めて口を開いた零は、今度こそ自分なりの考えを答えてみせた。
「上手く言えないんですけど、汚したくなる何か……みたいなのが愛鈴にはないんじゃないかな~、って思いますね」
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