エロ方面でも無敵な、アイドル

「んん~? 零くんはお姉さんがどんなえっちな目に遭ってるかを聞きたいんだ~? ふふふ、スケベさんだね~!」


「……零くんの巨乳好き。スケベ」


「だ~っ! なんでそうなる!? っていうか、あんたは無敵か!?」


 反撃の狼煙を上げて突撃した零であったが、どこか色っぽい声で返答してきた沙織の迎撃によって、あっさりとそれは跳ね除けられてしまった。

 元アイドルとは思えない羞恥心のなさとエロ系統の話に対する対応の強さを見せる彼女は、そのまま嬉々として花咲たらばのR18イラストについて語り出す。


「まあやっぱり多いのはおっぱい系だよね~! 日焼け跡有りか無しかで描いた人の好みがわかるっていうか、おっぱい一つとっても色んなフェチズムがあって面白かったよ~! 大きさを更に盛って爆乳レベルまで仕上げてる人もいて、笑っちゃったさ~!」 


「……喜屋武さん、なんで自分をモデルとしたエロ絵をそこまで楽しそうに語れるんですかね……?」


「持つ者の余裕ってやつよ。持たざる者である私たちにはわかんないけどさ」


「それとほら! 裸だけじゃなくって、色んなコスチュームを着せたえっちな絵もいっぱいあるさ~! 定番の水着から通常衣装の着崩し、ナース服に他のアニメのキャラクターのコスチュームだったり、珍しいのだと牛柄ビキニとかがあるね~! 最近は逆バニーが熱いみたいだよ~!!」


「報告要らないですって! 反応に困るだけですから!!」


「え~? そ~お~? お姉さんのえっちな姿想像して、恥ずかしくなっちゃった?」


「……零くんのむっつりすけべ」


「ぐぐぅ……っ!?」


 心の底から否定しきれない沙織の言葉と、ジト目の有栖からのW攻撃に苦悶の呻きを漏らすことしかできない零は、不可思議なくらいに堅牢な(というよりも開けっ広げ過ぎて逆に手強い)沙織の迎撃態勢にたじたじになっていた。

 というよりもどうしてここまで詳しいんだと彼が疑問に思う中、その答えが即座に解明される。


「さっき天ちゃんが言ってた、えっちな同人誌もいっぱい持ってるよ~! といっても、私がメインじゃなくて零くんと有栖ちゃ……じゃなかった。枢くんと芽衣ちゃんがメインの本だけどね~!」


「ぴえっ!? なんでそんなの持ってるんですか!?」


「祈里ちゃんから貰ったんだ~! なんか夏コミフェスにも相当無理して参加したとかしてないとか、そんな話を聞いたさ~!」


「何をやってるんですか、あの人は!? 現役のアイドルがエロ同人誌を直接買いに行ったりなんかしないでくださいよ!!」


「そんなこんなで色々と興味持っちゃってね! お姉さんも自分のえっちな絵とか漫画をちょくちょくチェックするようになったのだ~! あっはっはっは~!」


「……わんつかちょっと思ったんだばってですけど、こぃってイラストレーターさん的には喜ぶべぎごどなんだがね? むすろ驚いで、恥ずがすくなってまる気がするんだげど……?」


「まあ、公開処刑と取る人もいるでしょうね。関係ない人たちは笑うでしょうけど、描いてる張本人たちはビビるのが大半だと思うわ」


 くるめい過激派代表こと黄瀬祈里が暴走する姿を思い浮かべた零は、口の端を吊り上げて引き攣った表情を浮かべた。

 あのアイドルは本当に加減を知らないというか、どこまでも突き抜けていくんだな……と、ある種の敬意を抱いた零が押し黙る中、いつの間にか件の同人誌たちを持ってきた沙織がその中身を確認しながら同期たちへと言う。


「有栖ちゃん、安心して! 私が貰った本、大半がイチャイチャ系のえっちをしてるやつだったよ! 同棲シチュだったり、学生恋人シチュだったり、季節に合わせて夏の海でそういうことをしてたりするけど、全部いい感じに幸せそうだ!」


「ぴえっ!? あ、あの、そ、そうですか……わざわざ、ありがとうございます……」


「お姉さんが相手の場合はね~……枢くんを甘やかす系が多いかな~? やっぱり年上のお姉さんに甘える枢くんの姿、みんなも見たいんだね~!」


「め、眩暈がしてきた……もうツッコミが追い付かねえ……」


「個人的にはこの本が好みかな! お姉さん主導の下、三人でえっちなことをするんだけど、芽衣ちゃんがやきもち焼いて頑張っちゃうのがかわいくってさ~……!」


「はい! もうやめましょう! この話終わり! このままだとメンタルがぶっ壊れますって!!」


 自分の知るアイドルというのは、どうしてここまで頭のねじが外れているのだと考えながら、全力で沙織の話を遮る零。

 このまま彼女に話をさせ続けたら被害は拡大する上にこちらが不利になるばかりだと判断した彼は、急いでもう一人の攻撃対象へと狙いを定める。


「んで、秤屋さんはどうなんすか? さっきから自分……ってか、愛鈴がモデルの成人向けイラストの話を一切してないっすよね? そういうのフェアじゃないんじゃないっすか?」


 いきなり大ボスを狙うからダメなのだ。こういうのはまず、雑魚か三下から狙わなければ。

 という、かなり失礼な考えの下、攻撃対象を沙織から天へと変えた零が彼女へと話を振れば、天はか細い声でぼそぼそと何かを呟き始めた。


「……た」


「はい? なんですか?」


「……せん、でした」


「え? ちょっとマイク遠くないですか? 声、急に聞き取りづらくなったんですけど……?」


 思っていたのと違う反応が返ってきたことに驚きつつも、零は一応は攻撃の手を緩めずに天に話を促していく。

 しかし――


、でした……」


「え……? ありませんって、どういう意味……?」


 ――それはあまりにも残酷な真実。ここまでの話を聞いていた零たちには、到底受け入れられない現実。

 だが、受け入れざるを得ないそれを直視している天は、これまでとは打って変わった大きな声で、涙をにじませながら、同期たちへとそれを告げる。


「私、愛鈴をモデルとした成人向けイラストは……っ! 全く見つかりませんでしたあっ!!」

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